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現在時制のクレーム文言は被疑侵害品が動作を実行することができる 能力に向けられ、実際の動作に向けられたものではないとしたCAFC判決紹介 | 弁理士法人 深見特許事務所

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現在時制のクレーム文言は被疑侵害品が動作を実行することができる 能力に向けられ、実際の動作に向けられたものではないとしたCAFC判決紹介

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、特許権の侵害は無く関税法337条違反は認められないとした米国国際貿易委員会(ITC)の決定に対する控訴審において、対象となる1件の特許については、CAFCでの審理期間中に存続期間が満了したことにより訴訟は無意味になったとしてITCの決定を取り消してITCに差し戻し、もう1件の特許については、現在時制のクレーム用語の使用は、侵害を証明するために被疑侵害品の実際の動作が示されることを必要とするというITCの見解を否定した一方で、被疑侵害品がクレームされた機能を実行できることを特許権者が立証できなかったとして、ITCの非侵害の決定を支持しました。
INVT SPE LLC v. ITC, Case No. 20-1903 (Fed. Cir. Aug. 31, 2022) (Newman, Taranto, Chen, JJ.)

1.事件の経緯
(1)ITCへの提訴
 ITCは、米国の関税法337条に基づいて米国への輸入に関する不公正行為の調査(337条調査)を行い、不公正行為が認められる場合には侵害品の輸入を禁止する権限を有する独立した行政機関です。ITCの権限としては、侵害行為を差し止めるだけで損害賠償の請求は認められません。
 2018年、INVT SPE LLC(以下、INVT社)は、さまざまな携帯電話会社(Apple Inc., HTC Corporation, HTC America, Inc., ZTE Corporation, ZTE (USA) Inc.)による関税法337条違反を主張してITCに訴えを起こしました。INVT社は、モバイルデバイス(携帯電話など)が基地局(携帯電話の中継塔など)と通信するために使用する3GおよびLTEのネットワーク規格によって、自社の5件の特許が侵害されている、と主張しました。INVT社は具体的には、これらの企業は、上記のネットワーク規格を使用するスマートホン、スマートウォッチ、タブレットなどのパーソナル電子デバイスを輸入し販売することで関税法337条に違反する行為を行っている、と主張しました。
 INVT社は、ITCによる調査の過程で、主張していた5件の特許のうち2件の特許を取り下げ、ITCの行政法判事(ALJ)は、残りの3件の特許はいずれも侵害されていないため関税法337条違反はない、とする最後の仮決定(FID)を下しました。INVT社は決定のレビューを請求しましたが、ITCは決定を変更することはありませんでした。
 INVT社は、2020年6月に、主張された3つの特許のうちの2件(米国特許第6,760,590号(以下590号特許)、米国特許第7,848,439号(以下439号特許))つについてCAFCに控訴しました。
(2)CAFCでの審理
 CAFCでの控訴審中に準備書面の提出が数回延期され、その結果、口頭弁論は2021年11月まで行われませんでした。その後、CAFCは、2件の特許のうち2022年3月に期限が切れる予定の1件(590号特許)に対して救済があり得るかどうかに関し、補足的な準備書面の提出を求めました。CAFCは最終的に、控訴が提出されてから2年以上経過した2022年8月末に判決を下しました。

2.CAFCの判断
(1)590号特許について
 ① CAFCの認定
 590号特許は、CAFCによる本件判決が出される前の2022年3月5日に存続期間が満了しました。前述のようにITCの法定の権限は将来的な救済を認めることに限定されます。CAFCの以前の裁判例においても、「ITCは将来の輸入を禁止する排除命令、または将来の実施を禁止する禁止命令を発することだけが可能である。もしも337条違反が特許権侵害に関する場合であっても、一旦特許の存続期間が満了するともはや上記のいずれの救済も受けることはできない。」と判示しています(Tex. Instruments, v. ITC, 851 F.2d at 344)。したがってCAFCは、590号特許の存続期間が満了したことによって、本件訴訟は590号特許に関しては無意味になった、と認定しました。
 ② INVT社の反論
 この点に関してINVT社は、係属中の地方裁判所での訴訟手続がITCの調査のために停止しているので、特許の存続期間満了後であっても590号特許に関する控訴は無意味ではない、と主張しました。しかしながらCAFCは以前に、特許の侵害または特許の無効に関するITCの決定は地裁の訴訟手続に対する排除効果を有していないので、たとえ係属中の地裁の事件が同じ争点を含んでいたとしても、ITCによる決定の無意味さを回避するほど十分な付随的効果を有するものではないことを判示しました(Hyosung TNS v. ITC, 926 F.3d 1353, 1358–59)。
 ③ CAFCの結論
 結局、本件控訴審のうち590号特許に関する部分は、審理中の特許権の存続期間満了という思いがけない出来事が起こったことによって無意味となり、CAFCはこの特許に関するITCの決定を取り消しました。そしてITCに対して、訴えの関連部分を無意味であるとして却下するよう指示するとともにITCに差し戻しました。

(2)439号特許について
 ① 争点の説明
 もう1件の439号特許については、侵害をめぐる争点は、クレームで現在時制の動詞が用いられている場合に、侵害の認定のためには被疑侵害品が実際の動作を行っていることを必要とするのか、それとも被疑侵害品が単にそのような動作を実行することができる能力を有していれば侵害の認定に十分なのか、という問題に帰結しました。
 ここで、問題となった439号特許のクレーム1の原文は以下の通りであり(各段落冒頭のアルファベット[a], [b], [c], …はCAFC判決において付されたもの)、各構成要素の動作は、関係代名詞that+動詞の現在形によって記述されています。

***************

1. A communication apparatus comprising:
[a] a channel estimating section that carries out a channel estimation per subband;
[b] a parameter deciding section that decides modulation parameters and coding parameters per sub-band group comprised of a plurality of the subbands, based on a result of the channel estimation per subband;
[c] a parameter information transmission section that transmits, to a communicating party, parameter information indicating the modulation parameters and the coding parameters decided at the parameter deciding section;
[d] a receiving section that receives a signal containing data modulated and encoded on a per sub-band group basis at the communicating party using the modulation parameters and the coding parameters of the parameter information transmitted at the parameter information transmission section;
[e] a data obtaining section that demodulates and decodes the received signal received at the receiving section on a per subband group basis using the modulation parameters and the coding parameters decided at the parameter deciding section, and obtains the data contained in the received signal; and
[f] a pattern storage section that stores in advance patterns for selecting subbands constituting the subband groups wherein the parameter deciding section decides the modulation parameters and the coding parameters per subband group comprised of the subbands selected based on the patterns stored in the pattern storage section.

***************

 ITCの決定において、行政法判事は、侵害の証明のためには被疑侵害品による実際の動作を必要とするものと439号特許のクレーム1を解釈し、被疑侵害品はこのクレーム1を侵害しないと判断しました。INVT社は、CAFCでの控訴審において、ITCの行政法判事の判断は誤っており、当該クレーム1は、被疑侵害品が動作を実行することができる能力に向けられたものであり、行政法判事が認定したような実際の動作に向けられたものではない、と主張しました。
 ② 争点に対するCAFCの解釈の先例
 これに対してCAFCは、クレームは被疑侵害品による実際の動作を必要とするものと解釈されるとするITCの行政法判事の決定を覆しました。CAFCはこれまで侵害の認定に際して、被疑侵害品がクレームされているように動作することができる能力を有していれば侵害になると判示したケースもありましたし、被疑侵害品がクレームされているように実際に動作しなければ侵害にならないと判示したケースもありました。侵害行為の認定が、クレームに記載された機能を被疑侵害品が実際に実行することを要求するのか、あるいは実行できる能力があれば足りるのかは、以下に分類するように、クレームに記載されている発明によって判断されます
 (ⅰ)a configuration-type claim:
 機械的な装置クレームであって要素間の物理的な関係性を記載している場合(a configuration-type claim)、それらの要素を特定の方法で配置する実際の動作が必要になります。たとえば、本件CAFC判決で引用された、過去のCAFC判決である“Cross Med. Prods., Inc. v. Med-tronic Sofamor Danek, Inc., 424 F.3d 1293, 1305–06 (Fed. Cir. 2005)”では、CAFCは、“anchor seat means which has a lower bone interface operatively joined to said bone segment”という限定について、“operatively joined”という文言は骨を接続する能力があれば足りるという議論を退けて、骨が現実に接続されていることを必要とする、と判示しました。すなわち、この解釈によれば、手術中に外科医が装置を骨に接続するまで直接侵害は問えないことになります。
 (ⅱ)for performing-type claim:
 上記の(ⅰ)に対して、コンピュータおよびソフトウェアのクレームは典型的には発明を定義するために機能的な文言を使用します(for performing-type claim)。機能的な文言は、無制限に数々の機能を実行するようにプログラムすることができる一般的なまたは互換性のある汎用コンピュータハードウェアを定義し限定するために用いられます。すなわち、コンピュータベースのまたはソフトウェアベースのデバイスが実行する記載された動作ステップは、コンピュータ実施発明が何であるかを定義するものです。CAFCはしばしば、そのような機能的な文言は侵害目的ではそれらの動作ステップが現実に実行されていることを要求するものではないと解釈してきました。
 ③ 争点に対するCAFCの判断
 本件訴訟において、実際の動作が必要であると判断された上記のCross Med事件で現在形の動詞“has”が用いられていたこととの類似性で、“demodulates and decodes”という動詞の現在形を使用する439号特許のクレーム1も、Cross Med事件と同様に実際の動作が必要であるとする議論もありましたが、CAFCは、Cross Med事件の争点は“operatively joined”にあり、現在形の動詞“has”の使用は関係ない、と判断しました。
 CAFCは、ITCの主張に反して、クレームが動作する能力に向けられていることを認定するためにクレームを特定の文法的な形式に固着させることを要求したことはない、と述べました
 CAFCによると、439号特許のクレーム1で使用された現在時制のクレーム文言、たとえば、“a data obtaining section that demodulates and decodes(復調および復号化するデータ取得セクション)”と、単に動作する能力を要求すると通常解釈される文言、例えば、“for demodulating and decoding(復調および復号化のための)”との間には、被疑侵害品が実施の能力を有すればよいと解されるクレームまたは被疑侵害品が実際の動作を要すると解されるクレームのいずれに属するかを判断する際に、有意な差異は存在しない、と判断しました。
 ④ CAFCの結論
 CAFCは、439号特許のクレーム1は、被疑侵害品が動作する能力を要するクレームと解釈され、実際の動作を必要としないクレームであると解釈される点については、INVT社の主張に同意しました。しかしがら、本件において何が被疑侵害品の動作の能力であると理解されるか、とうい点についてまでCAFCは同意したものではありません。
 CAFCは、439号特許のクレームをさらに解釈し、被疑侵害品であるユーザデバイスの能力を判断することは基地局の動作を分析することも含むことを明瞭にしました。CAFCは、基地局の実際の動作は、ユーザデバイスが特定のクレームされた機能の1つを実行できるかどうかを判断することに関連していると判断しました。
 より具体的には、439号特許のクレーム1の発明は、“a data obtaining section”の動作として“demodulates and decodes the received signal received … using the modulation parameters and the coding parameters … ”と規定されています。クレームされた装置がこのようなdemodulate and decodeを実行できるかどうかは、通信の相手方の基地局が、これらのパラメータの組み合わせを用いてデータをmodulate/encodeできるかどうかにかかっています。クレームが基地局を含んでいなくても、基地局の動作は侵害分析の一部を構成するのです。
 被疑侵害品が、クレームに記載された機能を実行する能力を備えた装置であるか否かを判断するために、被疑侵害品は、起動され作動されたときにそれらの機能を実行できるものでなければなりません。このことは、被疑侵害品が、先に選択されている同じパラメータを用いた特定のクレームされたプロトコルでデータ信号を受信し、demodulate and decodeできることを意味します。ユーザの装置の動作能力は基地局の動作能力に異存しているのです。そして、CAFCは、ユーザデバイスがクレームされた機能を実行することができるような態様で基地局が実際に動作したことをINVT社が示すことができなかったため、結論として非侵害であるという認定を支持しました。

3.実務上の留意点
 侵害の判断に際して、被疑侵害品が実際の動作を必要としているとクレームが解釈されるのか、またはそのような動作が可能な能力を有していればよいと解釈されるのかは重要な争点となります。この点について、CAFCは上記2.(2)③のように考え方を整理しました。
 実務上は、特にコンピュータ/ソフトウェアの米国出願用クレームの作成作業において、米国特許法第112条(f)項のミーンズ・プラス・ファンクション・クレームの適用を回避するために、“for … ing”の替わりに、関係代名詞that+動詞の現在形を使用して機能を記載することがよく行われます。この場合に、機能を現在形の動詞を用いて記述することによって、被疑侵害品が実際に動作していることを必要とするものと解釈される懸念がありました(米国代理人の間でも見解の相違があったように見受けられました)。
 しかしながら、今回のCAFC判決によると、コンピュータ/ソフトウェアのクレームでは、構成要素の動作・機能を記述するために、「関係代名詞that+動詞の現在形」を使用しても「for+動詞の現在分詞ing」を使用する場合と同様に、被疑侵害品に動作の能力があればよい、との解釈がなされるようであります。この点で今回の判決は、米国出願用の英文クレームを作成する場合に参考になるものと考えます。

[情報元]
① McDermott Will & Emery IP Update | September 15, 2022 “Present-Tense Claim Terms Not Sufficient to Require Actual Operation”
② INVT SPE LLC v. ITC, Case No. 20-1903 (Fed. Cir. Aug. 31, 2022) (Newman, Taranto, Chen, JJ.)

[担当]深見特許事務所 堀井 豊