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CAFC判決紹介 テキサス西部地裁の移送申立

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、テキサス州西部地区連邦地方裁判所(以下、「地裁」)のAlan D. Albright判事が特許訴訟をテキサス州西部地区外に移送することを拒否してきたことについて、これまで繰り返し叱責してきました。CAFCは、移送の申立は最優先の事項として、事実に関する証拠開示やその他の実質的な事項は除外して迅速に進めなければならないとしました。そして、地裁から出された審理日程に関する命令を無効にし、地裁が移送の申立を検討するまで、事実に関する証拠開示およびその他の実質的な手続きを延期するよう地裁に指示しました。
In re: Apple Inc., Case No. 22-162 (Fed. Cir. 2022年11月8日) (Reyna, J.)

1.事件の経緯
 Aire Technology(以下、Aire社)は、2021年10月にApple Inc(以下、Apple社)を特許侵害で訴えました。2022年4月にApple社は、米国の司法手続を定めた28 U.S.C.の§ 1404(a)の規定(裁判地の変更)にしたがって、訴訟をカリフォルニア州北部地区連邦地裁に移送するよう申立ました。裁判地に関する証拠開示中に、Apple社は従業員による宣誓書を提出し、宣誓者を証言録取できるようにすることを申し出、移送手続きの「合理的な継続」に異議を唱えないと述べました。
 Albright判事はApple社の申立を認めましたが、職権で、Apple社の移送要求について判断する前に、両当事者に対して、事実に関する証拠開示を完了し(裁判所はこれを30週間延長し)、その後さらに6週間で再度の書面提出を行なうことを命じました。

2.CAFCへの提訴
 Apple社はCAFCに職務執行命令を求める申請(a petition for mandamus)を提出し、地裁の審理日程に関する命令を無効にし、移送の問題が解決されるまで本件のすべての実体的手続きを停止して、移送の申し立てについて速やかに判断するよう求めました。
 Apple社は、Apple社の移送要求について決定するために、地裁が当事者にさらに30週間の事実に関する証拠開示と6週間の書面の再提出を完了するよう命じたことは、裁量権の濫用である、と主張しました。Apple社は、地裁がApple社の申立を検討するまでにはApple社が最初に移送を求めてから丸1年が経過してしまい、事実に関する証拠開示が完了し、当事者の侵害および無効の主張が送達され、主張されたクレームと先行技術文献とが絞り込まれ、当事者は予備的な審理の証拠と証人のリストを交換してしまうであろう、と主張しました。

3.CAFCの判断
 一審の地方裁判所はその審理予定を管理する裁量権を有しています(Landis v. N. Am. Co., 299 U.S. 248, 254–55 (1936))。しかしながら控訴審の法廷は、長年にわたって係属している申立に対処することを明らかに恣意的に拒絶していることを是正するために職務執行命令を出すことができます。たとえば過去の裁判例(In re Horseshoe Ent., 337 F.3d 429, 433 (5th Cir. 2003))では、移送申立の処理は訴訟の取り扱いにおいて最優先事項であると判示されています。その他の裁判例(In re EMC Corp., 501 F. App’x 973, 975–76 (Fed. Cir. 2013))においては、時間、エネルギー、金銭の浪費を防ぎ、訴訟当事者、証人、一般公衆を不必要な不便さおよび費用から保護しようとする議会の意図は、移送申立の決定に先立って何年もの訴訟手続に被告が参加しなければならないような場合には、没却されかねない、ということが判示されています。
 本件においてCAFCは、地裁の審理日程命令が行き過ぎであったという点でApple社に同意しました。CAFCは、「Apple社の移送の申立てについての決定が不必要に引き延ばされている間に、訴訟の実質的な事項を法廷で争うために当事者と裁判所の追加のリソースを費やすことを要求することは、明らかに裁量権の濫用である」と述べました。CAFCは、Aire社が、いかなる手続の停止も証拠開示、クレーム解釈手続、または審理に向けた訴訟準備を妨げないことを条件に、いつでもApple社の移送申立を解決することに同意したことを指摘しました。
 CAFCは、事実に関する完全な証拠開示と書面の再提出が終わるまで決定を遅らせることで、「根拠のない憶測」を減らし、「両当事者が移送の申立に関する決定のための最良の証拠を裁判所に提供できる」ようになるという地裁の見解に同意しませんでした。CAFCは、特に両当事者がさらなる裁判地に関する証拠開示は不要であることに同意したため、移送申立自体に関する証拠開示は、その申立の決定を可能にするのに十分であると述べました。CAFCは、地裁に「最優先事項として移送申立を迅速に進める」よう命じました。

[情報元]
① McDermott Will & Emery IP Update | November 17, 2022 “Message to Judge Albright: Venue Motions Are First Order of Business”
② In re: Apple Inc., Case No. 22-162 (Fed. Cir. 2022年11月8日) (Reyna, J.)判決原文

[担当]深見特許事務所 堀井 豊