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ボトルデザインのパッシング・オフ事件

 文字又は図形からなる標章ではなく、ボトルの外観の権利のみに基づく珍しいパッシングオフの訴訟において、仮処分を認めない決定が下されました。
(1)背景
 Auは2015年に発売されたプレミアムウォッカブランドであり、2019年にフレーバーウォッカのシリーズを発売し、大成功を収めています。年間売上高は現在4000万ポンドを超え、ブランドは数多くの著名人の推薦を受けています。Auのウォッカは金色のボトルで販売されており、ボトルの上部付近にはAu79の標章が入ったラベルプレートが付され、ボトルの底部付近の小さいラベルプレートにフレーバーなどが表示されています。ボトルには、フレーバーによって異なる色のキャップが付いています。

商品写真(左がAu、右がNE10)

 NE10ウォッカは2022年8月に発売され、当時はスウォンジーで4つのバーやレストランのオーナーであったHogan氏が単独で取締役/大株主を務めていました。当該商品もメタリックボトルで販売されているが、フレーバーによってボトルの色が異なり(銀、青、ピンク)、特に金色のボトルがないのが特徴です。
 NE10ウォッカの発売から2週間後に、事前のやりとりを経て、Auウォッカは、NE10ウォッカのボトルの外観が欺瞞的に類似していると主張し、パッシングオフ訴訟を提起しました。
(2)申立内容
 最近の審問において、Au Vodkaは被告に対し、NE10 Vodkaのマーケティング及び販売に対する仮差止命令を申し立てていました。被告側はHogan氏に対する申立の取消を求めており、本申立はHogan氏個人とNE10 Vodka両者を被告とするものでした。
(3)法律
 仮処分を認めるかどうかの判断には、「American Cyanamid」の基準が存在します。この基準の目的は、実際の裁判までのミニ裁判(mini-trial)を避けることですが、裁判官は、主たる訴因がパッシングオフである場合、不実表示の存在と請求人に回復不能な損害を与えるリスクとの間に本質的な関連性があるため、本案の評価は避けられないことを過去の判例法が示している、と指摘しました。
 American Cyanamid Co v. Ethicom Ltd において、裁判所は、申立人の論拠が仮処分の許可を得るに足るかどうかを判断するための指針を作成した。その指針は次のようにまとめられます。

→審理されるべき重大な問題があるか。
→どうバランスを取るべきか。以下の事項の検討も含まれる。
 (a)仮処分が認められない場合、損害賠償が請求人に対する十分な救済となるかどうか。
 (b)仮処分が認められる場合、損害賠償が被告に対する十分な救済となるかどうか。
→バランスが取れている場合は、現状を維持すべきである。
→両当事者にとって有利でない場合は、当事者それぞれの主張の相対的な優位性を考慮することができる。

 パッシングオフに関しては、Reckitt & Colman Ltd v Borden Inc(通称「Jif Lemon」事件)から派生した古典的な説があります。差止のためには、請求人は業務上の信頼の確立、不実表示、損害を立証しなければなりません。
(4)決定
 裁判官は、提出された証拠から、Au Vodkaがその商品の外観について評判(reputation)を得ていたことは「疑いなく」、あるいは、少なくともこの点について審理に値すると判断しました。しかしながら、大きな問題は、この評判が外観上のどの特徴に起因するものであるか、ということであった。
 裁判官は、請求人の主張した外観は「細長い金属製のきれいな外観のボトルに、ボイラープレートに似たラベルを上下に2枚貼ったもの」と、非常に広く表現されており、被告商品に影響されていると指摘した。さらに、請求人の証拠において、Au Vodkaに関するオンライン/ソーシャルメディア上の言及のほとんどが商品名についてであり(これが最も重要な特徴であることを示唆)、例えば「金色のボトル」ではないことが印象的であるとも述べました。
 また、不実表示について検討する際、裁判官は、被告ボトルの形状と寸法が極めて近いことを指摘する一方で、Au Vodkaが提示したその他の類似点は「一般消費者が認識するものとはかけ離れた抽象的なレベルで表現されている」と判断しました。裁判官は、類似要件の必要性を強調し、Au Vodkaの中で最も成功した商品であるフレーバーウォッカの入ったボトルに注目しました。この点で、裁判官は、請求人が提出した主な比較対象である、最も人気のないフレーバーのウォッカの金色のボトル/黒いキャップと被告の類似商品の銀色のボトル/銀色のキャップに比べ、Au Vodkaのブルーラズベリーフレーバーの金色のボトル/水色のキャップ(写真参照)とNE10 Vodkaの同じフレーバーのダークブルーのボトル/ダークブルーのキャップの類似性が低いことに注目した。

商品写真(左がAu、右がNE10)

 Au Vodkaは、実際の混同の事例とした証拠も提出し、NE10 Vodkaの発売後数週間の6件の事例を主張しました。しかし、これらをその背景を含めて評価すると、裁判官は、実際の混同の証拠ではないと考えました。むしろ、これらの事例では、皆、Au VodkaとNE10 Vodkaに関連性があるかどうか疑問に思っていたに過ぎず、実際に関連性があると欺かれたわけではなかったのです。裁判所は、いかなる不実表示も消費者が購入を決定する際の原因となるものでなければならず、単に関係があるかどうか疑問に思うだけでは証明されないと釘を刺しています。
 Au Vodkaの仮処分申請を却下するにあたり、裁判官は次のように結論づけました。
→パッシングオフに関して審理されるべき重大な問題があることは明らかであった。
→Au Vodkaが勝利した場合、損害賠償と差止命令でほぼ救済されるが、NE10 Vodkaはすでに発売していたため、誤って差止命令を受けた場合、十分な救済が得られるとは思えず、比較衡量上NE10 Vodkaに有利であった。
→裁判は提出された証拠に大きく左右されるであろう。
 Au VodkaのHogan氏に対する請求のうち、個人行為に関連する部分は取り消されました。2日間の簡易裁判は、2023年1月に予定されています。
(5)まとめ
 裁判では、Au Vodkaの業務上の信用がボトルのどの部分に存在するのか、またNE10 Vodkaが実際に消費者を欺いているのかどうかが重要な論点となります。これは、裁判までに提出される証拠に大きく左右される論点です。
 しかし、パッケージデザインはブランドの評判、業務上の信用、究極的な価値の主要部分となることが多いため、本件からは以下の教訓が改めて得られるといえます。

→早期に登録商標の保護を検討する(例えば、特徴的なパッケージ形状について)
→英国の登録意匠による保護は、12ヶ月以上前に公知に至っていない、独自性を持った新規のデザインに適用されることを留意すること
→いずれは権利の証明(例えば、未登録デザイン)や獲得した識別性の主張のために、デザインの経過や使用を記録し、証拠として利用できるようにすること

 この事件は、American Cyanamidの基準と、稀な「純粋な」表装の事件で適用されるパッシングオフに関する法律の適用について、有益といえます。このような事件では証拠が重要であり、当事者は提出証拠が主張を裏付けるものかを確認する必要があります。可能であれば、早期に登録商標や意匠の保護を求めると、権利行使が容易になり(多くの場合、費用も安くなります)、模倣に対する抑止効果も期待できます。

[情報元]D YOUNG & CO TRADEMARK NEWSLETTER no.125
[担当]深見特許事務所 原 智典