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特許権者が展示会で装置を開示したことはpublic use barに該当するとしたCAFC判決紹介

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、AIA改正前米国特許法の旧102条(b)の公用による不特許事由に対処し、特許の優先日よりも1年を超えて前に、特許権者が展示会で装置を開示したことは、無効理由を構成する先行する公の使用に該当するとして、特許を無効にした地方裁判所の判決を支持しました。
Minerva Surgical, Inc. v. Hologic, Inc., Case No. 21-2246 (Fed. Cir. Feb. 15, 2023) (Prost, Reyna, Stoll, JJ.)

1.事件の背景
 本件はAIA改正前の米国特許法の旧102条(b)の下で“public use bar”の意義について争われたものです。旧102条(b)は、「何人も、米国における特許出願日より1年を超えて前に、その発明が・・・または米国において公に使用され、もしくは販売されていた場合を除いて、特許を受けることができる」ことを規定しています。
 ここで、“public use bar”とは、上記の「公に使用され(in public use)」た発明については新規性を喪失しており、誰も特許を取得する資格はない、という原則です。“public use bar”による新規性喪失はAIA改正後の現行法102条(a)(1)においても規定されております。

2.事件の経緯
 Minerva Surgical, Inc.(以下、Minerva社)は、異常な子宮出血を止めるかまたは減少させる子宮内膜アブレーション(endometrial ablation)と呼ばれる治療のための手術装置に向けられた米国特許第9,186,208号(以下、本件特許)の特許権者です。Minerva社は、本件特許を侵害しているとして、Hologic, Inc.およびCytyc Surgical Products, LLC(以下、集合的にHologic社)をデラウェア州連邦地方裁判所(以下、地裁)に訴えました。
 この特許の優先日は2011年11月7日で、主張されたクレームには、内側と外側の要素は「実質的に異なる材料特性(substantially dissimilar material properties)」(以下、この文言をSDMPと略す)を有する、という文言が含まれていました。地裁は、このSDMPという文言を、「内側と外側のフレーム要素が異なる厚さと異なる組成を有する」ことを意味すると解釈しました。
 ディスカバリーの手続が完了すると、被告であるHologic社は特許無効の略式判決を求め、原告であるMinerva社によって主張された特許クレームは、AIA改正前米国特許法の旧102条(b)の公用による不特許事由の下で新規性を喪失したものであると主張しました。Hologic社によると、本件特許の優先日の1年を超えて前に、Minerva社は「Aurora」と呼ばれる装置を、米国婦人科腹腔鏡検査医協会(the American Association of Gynecologic Laparoscopists: 以下AAGLと略す)が後援する第38回低侵襲婦人科世界大会(AAGL 2009)に持ち込みました。AAGL 2009の大会期間中(2009年11月16-19日)に、Minerva社は、完全に機能する15台の「Aurora」装置をブースに出展し、「Aurora」装置について説明するプレゼンテーションを行い、パンフレットを配布しました。Hologic社は、「Aurora」装置は、主張されたクレームのすべての限定を開示しており、したがって、主張されたクレームはMinerva社自身の装置によって新規性を阻害され無効である、と主張しました。
 記録に照らして地裁は、主張されたクレームは、公用による不特許事由の下で新規性を阻害されたものであるという略式判決を認めました。Minerva社はCAFCに控訴しました。

3.“public use bar”の判断手法
 米国の判例法によれば、“public use bar”は、米国における特許出願日より1年を超えて前に、①「公に使用されていること」、および②「特許取得の準備ができていること」の2つの要素が満たされれば発動されます(Polara Eng’g Inc. v. Campbell Co., 894 F.3d 1339, 1348 (Fed. Cir. 2018))。
 要素①については、発明が公衆にとってアクセス可能であるか、または発明が発明者によって利用されていれば、満たされることになります。秘密性の制限、限定または義務なしに発明者以外の個人に示され、または発明者以外の個人によって用いられた発明は公に使用されたものとなります。このことを判断するために裁判所は、とりわけ、発明に関わる活動の性質および公衆のアクセスについて、および発明の観察者に課される守秘義務について検討します。
 要素②については、少なくとも2つの方法で証明されます。最初の方法は、実施化を証明することであり、クレームの主題が発明者によって所持されていて、本来の目的のために動作することが示されまたは知られていた場合には、実施化が生じていたとされます。主題の所持は、動作するプロトタイプの存在によって証明され、発明の「本来の目的」はクレームおよび明細書に照らして考慮されます。第2の方法は、米国における特許出願日より1年を超えて前に、発明者が、当業者が発明を実施することが可能なほど十分に発明の図面または他の説明を準備していたことの証拠によって立証することです。

4.CAFCの判断
(1)控訴人(Minerva社)の主張
 Minerva社は、控訴審で以下の3つの主張①~③を提起しました。
 主張①:Minerva社は、AAGL 2009での「Aurora」装置の開示は、Minerva社が装置を「単に展示」しただけなので、「公用」には該当しない、と主張しました。
 主張②:Minerva社は、AAGL 2009で開示された「Aurora」装置には上述のSDMPの文言が欠けていたため、主張されたクレームの「発明」の開示はなかった、と主張しました。
 主張③:Minerva社は、AAGL 2009の時点ではまだSDMP技術を改良していたところであり、この装置は「生きたヒト」組織を切除するという本来の目的のためには機能しなかったため、発明は「特許取得の準備」ができていなかった、と主張しました。
(2)CAFCの認定
 CAFCは、これらのMinerva社の主張①~③の各々について順に対処しました。
 主張①に対する反論:CAFCは、AAGL 2009での「Aurora」装置は、秘密性の制限、限定または義務なしに発明者以外の個人に示されたため、「公用」に該当すると地裁が正しく判断したと認定しました。争いのない記録は、機密保持義務なしに「Aurora」装置を精査することを許可された高度に技術に精通した業界関係者に対して、Minerva社が後に特許を取得しようとしたSDMP技術を認識して理解するのに十分なだけ綿密に、「Aurora」装置を売り込んだことを示しています。
 主張②に対する反論:CAFCは、「Aurora」装置がSDMPの文言を開示したと結論付けました。CAFCは、発明者がAAGL 2009の開催前にSDMP技術を思いついたこと、およびイベントの前後の「Aurora」装置に関する文書が、SDMPという用語を持つ「Aurora」装置を明示的に開示し、SDMP技術を持つ装置から得られる利点を宣伝していることを発見しました。また、Minerva社がAAGL 2009に持ち込んだのがこの「Aurora」装置であることを示す証拠もありました。
 主張③に対する反論:CAFCは、「Aurora」装置は「特許取得の準備ができていた」と結論付けました。CAFCは、Minerva社が、主張されたクレームを具体化しそして子宮内膜アブレーションを行うという意図された目的のためにさらに機能する実用的なプロトタイプを作成することによって発明を実施化した、と説明しました。Minerva社は、「Aurora」装置は「生きた人間の」子宮にアブレーションを行うという本来の目的を果たしていないため、特許取得の準備ができていない、と主張しました。
 CAFCは2つの理由でこの主張を却下しました。第一に、判例法は、「生きている人間」の要件を課すことを要求していません。なぜなら、クレームは生きたヒト組織でのみ使用可能な装置には限定されなかったからです。第二に、「Aurora」装置が生きている人間の子宮摘出前の症例での臨床使用に受け入れ可能であったことを証拠が示しました。CAFCはまた、実施化されることとは別に、係争中のSDMP用語の発明を当業者が実施できるようにするのに十分具体的な文書があったため、発明は特許取得の準備ができていた、と判断しました。

[情報元]
① McDermott Will & Emery IP Update | February 23, 2023 “No First Place Trophy Here: Public Demo at Trade Show Found Invalidating”
② Minerva Surgical, Inc. v. Hologic, Inc., Case No. 21-2246 (Fed. Cir. Feb. 15, 2023) (Prost, Reyna, Stoll, JJ.)(CAFC判決原文)

[担当]深見特許事務所 堀井 豊