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EPOとフランスの異議申立制度の現状比較

 2020年のフランス特許法改正では、フランス特許の価値と法的確実性の強化を図るため、異議申立制度が導入されています(2020年4月1日施行)。この異議申立制度では、フランス産業財産庁(INPI)で審査され付与された国内特許が対象となり、フランスでバリデーションされたEP特許は対象となりません。さらに、出願審査における特許要件として改正前までの新規性要件に加え、進歩性要件が追加されており、2020年5月22日以降に出願された特許出願に適用されます。新たに導入された異議申立制度においては、進歩性が審査されなかった改正前の特許についても異議申立の対象となり進歩性が審理されることになります。

 今回は、Hoffmann Eitle事務所が欧州特許庁(EPO)とフランスの異議申立制度を比較し分析しており、その概略と弊所コメントを紹介します。

 

<Hoffmann Eitle事務所のニュースレターの概略>

・現状の全クレームの取消率が、EPOの異議申立では33%以上であるのに対し、フランスの異議申立では20%未満であります。上記のように過去のフランス特許が、付与前に進歩性の要件を実質的に審査されていなかったにも関わらず取消率が下回っていることから、今のところフランスの異議申立の方が特許権者に有利に見えます。この差は、以下に説明するようなフランス特許法とEPOとの間の異議手続上の相違点による可能性が有ります。

 なお、フランスの異議申立制度が採用されて約3年と期間が短く、決定書が13件しか出されていない状況のため、今後の傾向については長期的に見ていく必要があります。

 

(1)応答の機会

 EPOの異議申立においては、異議申立人の新しい書類、事実、証拠を提出する機会と、特許権者の補正書を提出する機会とが平等に与えられるのに対し、フランスの異議申立においては、規則面と実際のフランスの異議申立部の対応状況を見ると、特許権者に対する補正書の提出機会の方が与えられ易い傾向にあるようです。

(2)従属クレーム

 EPOにおいては、原則独立クレームが維持でいない場合は、従属クレームも含め取り消されます(EPC第101条(2)、第113条(2))。一方、フランスにおいては、独立クレームを維持できないと判断した場合でも、従属クレームを維持できるかが判断される模様であり、部分的取消(フランス知的財産権法第L613 条23-4(2))があり得ます。

 

 

<弊所コメント>

・上記(1)の応答の機会については、フランスの異議申立においては、異議申立部の予備的見解後に、特許権者はクレーム補正が認められますが、同じ時期に異議申立人により新たな先行技術文献等を提出することは、遅れて提出されたと見なされ、それを受け入れるか否かは異議申立部の裁量となっていること(INPI ガイドライン)や、口頭審理の直前や当日に補正の提出が認められたケースがあること等から、特許権者に有利としています。しかしながら、口頭審理の当日に補正の提出がされ、認められなかったケースもあるとしており、条件によっては、特許権者に有利とは言えない場合もあるようです。

・上記(2)の従属クレームについては、フランスの異議申立部が、独立クレームを維持できないと判断した場合でも、従属クレームを維持できるかの判断をする点は、原則、独立クレームで判断するEPOに比べ一見優位なように考えられます。しかしながら、EPOの手続きにおいて、特許権者側が予備的請求として、限定しても良いと考える従属クレームの内容を独立クレームに入れることが考えられますので、特許権者にとって、実質的に優位か否かの判断は、やや難しいとも考えられます。

・取消率については、EPOとフランスにおいて、全クレームの取消率に差異があるようにも考えられます。これが上記(1)、(2)に基づくものか、これからの更なる検証を要すると考えられます。しかしながら、上記のフランスの異議申立制度の手続上の利点を総合的に考慮すると、フランスの異議申立制度は特許権者に有利な可能性はあると考えられます。

 

[情報元]

① 「フランス 法令名:知的財産規則 改正情報 – 特許庁」

 https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/france-chiteki_zaisan-kaisegaiyo.pdf

② 「フランス産業財産庁、特許付与の要件として進歩性要件を導入」JETROデユッセルドルフ事務所(2020年5月25日)

 https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/europe/2020/20200525.pdf

③ HOFFMANN EITLE Quarterly Newsletter 3/23

 “Opposition to French Patents – A First Assessment” (2023年3月15日)

 https://hoffmanneitle.com/news/quarterly/he-quarterly-2023-03.pdf#page=17

[担当]深見特許事務所 栗山 祐忠