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USPTOのAI発明に対する動き

 USPTOは、人工知能(AI)およびその他の新興技術(ET)(量子コンピューティング、合成生物学、ブロックチェーン、精密医療、仮想現実など)におけるイノベーション、創造性、起業家精神を奨励し、これらのテクノロジーの予測可能で信頼できる知的財産権を促進するため、利害関係者を集める機会として、2022年6月7日にAI/ETパートナーシップの設立の発表をしています。

 2022年6月29日に開催された第1回目のAI/ETパートナーシップの「発明者と機械生成発明の出現」に関するパネルディスカッションでは、イノベーションにおけるAIの役割の増大について議論がされました。

 一方、2022年8月に米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)が、米国特許法は「発明者」が自然人であることを要求しているので、AIソフトウェアシステムを特許出願の発明者として記載することはできない、と判断しました。(Thaler v. Vidal, Case No. 21-2347 (Fed. Cir. Aug. 5, 2022), (Moore, Taranto, Stark, JJ.), 2022年9月22日付弊所配信記事「人工知能(AI)ソフトウェアシステムを特許出願の発明者として記載することはできないとしたCAFC判決紹介」で紹介)

 また、この判決で、裁判所は、「AIの助けを借りて人間が行った発明が特許保護の対象であるかどうかという問題」に及んでいないと説明しています。

 これを受け、USPTOは、AIテクノロジーの現状とその進歩によって生じる可能性のある発明者問題に関係して、11項目について、パブリックコメント(期限2023年2月14日から2023年5月15日)を求めました。以下に、11項目のうち、特にAIの発明に対する貢献や法改正に関する質問事項についてその内容を示します。

 さらに、発明者問題に関して広く利害関係者に意見を直接聞くため、2023年4月25日にヴァージニア、同年5月8日にカリフォリニアでリスニングセッションが開催されています。

 

<パブリックコメントを求めた内容の一部>

  1. 現在、発明創出プロセスにおいて、機械学習を含むAIはどのように活用されていますか?

 これらの貢献は、人間が貢献した場合、共同発明者のレベルに達するほど重要なものですか?

  1. AIシステムが、共同発明者とみなされる人間と同じレベルで発明に貢献した場合、その発明は現行の特許法の下で特許を取得することができますか?
  2. AIシステムが共同発明者と同じレベルで貢献した発明は、重大な所有権の問題を引き起こしますか?

 例えば、所有権は発明した自然人にのみ帰属しますか、それともAIシステムを作成、訓練、維持、所有する者にも所有権がありますか?

 AIシステムの訓練に使用された情報の持ち主についてはどうでしょうか?

  1. USPTOは、特許出願でクレームされている発明に対してAIシステムが行った貢献の説明を出願人に要求すべきですか?

 その場合、どのように実施すべきですか、また、どの程度の貢献が開示されるべきですか?

 AIシステムによる発明への貢献は、他の(AIでない)コンピュータシステムによる貢献と異なる扱いを受けるべきですか?

  1. 米国の発明者法に関して検討すべき法改正があるとすれば、どのような法改正を行うべきか、また、その法改正によってどのような結果が予想されますか?

 例えば、AIシステムに発明者として記載する資格を与えるべきですか? AIシステムの発明者としての記載を認めることは、イノベーションを促進し、インセンティブを与えますか?

 

 

<コメント>

・Chat GPTの出現によって、日常でのAIの活用性がより高まり、発明創生への影響も現実的となっています。USPTOは昨年のCAFCの判断で解決されていない「AIの助けを借りて人間が行った発明が特許保護の対象であるかどうかという問題」を考慮した上で、今後の取り組みについて、パブリックコメントを求めました。

・質問事項の11項目の中には、AIの発明における寄与、仮にAIが共同発明者レベルで寄与した場合、AIの作成者等にも特許の所有権は認められるべきか、法を改定して、AIも発明者に含むべきか等が含まれています。

(2019年にもAIに関するパブリックコメントを求めていますが、内容を比較すると、よりAIが発明に寄与している場合を想定した質問になっているものと考えられます。)

・また、4月と5月に質問事項に関連するUSPTO、法律の専門家等を交え、リスニングセッションが西海岸と東海岸で行われています。

・パブリックコメントの期限は既に終了していますが、今後、これまでに集めた意見や議論の結果から、USPTOがどのようなアウトプットを出していくのか見守りたく思います。

 

[情報元]

① 連邦官報 ”Events for the Artificial Intelligence and Emerging Technologies Partnership” (A Notice by the Patent and Trademark Office on 06/07/2022), https://www.federalregister.gov/documents/2022/06/07/2022-12139/events-for-the-artificial-intelligence-and-emerging-technologies-partnership

[担当]深見特許事務所 栗山 祐忠