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内部証拠が外部証拠に勝ることを再確認したCAFC判決紹介

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、クレーム用語の意味を決定する際には内部証拠が外部証拠に勝るということを再確認しました。

Sequoia Technology, LLC v. Dell, Inc. et al., Case Nos. 21-2263; -2264; -2265; -2266 (Fed. Cir. Apr. 12, 2023) (Stoll, Lourie, Dyk, JJ.)

 

1.事件の経緯

 Sequoia Technology, LLC(以下、Sequoia社)は、複数の物理的ディスクドライブに渡って同じデータを保存して仮想ディスクドライブを構成することを含むデータ記憶方法に関する米国特許第6,718,436号(以下、本件特許)のエクスクルーシブ・ライセンシーです(特許権者はElectronics and Telecommunications Research Institute:以下、ETRI)。Sequoia社は、IBMの子会社であるRed Hat Inc.,(以下、Red Hat社)が販売するソフトウェアツール製品に関して、Red Hat社の顧客である数社に対して本件特許を権利主張しました。

 その後、Red Hat社は、Sequoia社およびETRIに対して本件特許の非侵害および無効の宣言的判決を求める訴えを提起し、これに対してSequoia社は反訴を提起して、Red Hat社および親会社であるIBMを本件特許の侵害で訴えました。デラウェア州連邦地方裁判所はこれらの訴えを併合し、クレーム用語の解釈に関する争点を整理し検討しました。

 その結果、地裁は、訴えられた製品は本件特許の権利主張されたクレームを侵害しておらず、また、本件特許のクレーム8-10は米国特許法第101条の特許適格性を欠いている、と判断しました。Sequoia社はこれを不服としてCAFCに控訴しました。

 

2.本件特許のクレーム

 本件特許のクレーム1-11のうち、争点となった独立クレームは、クレーム1および8です。独立クレーム1の原文を以下に示します(太字斜体で示す用語の解釈が争点になりました)。

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  1. A method for managing a logical volume in order to support dynamic online resizing and minimizing a size of metadata, said method comprising steps of:
    a) creating the logical volume by gathering disk partitions in response to a request for creating the logical volume in a physical storage space;
    b) generating the metadata including information of the logical volume and the disk partitions forming the logical volume and storing the metadata to the disk partitions forming the logical volume;
    c) dynamically resizing the logical volume in response to a request for resizing, and modifying the metadata on the disk partitions forming the logical volume; and
    d) calculating and returning a physical address corresponding to a logical address of the logical volume by using mapping information of the metadata containing information of the physical address corresponding to the logical address,
    wherein the metadata includes,
    a disk partition table containing information of a disk partition in which the metadata is stored;
    a logical volume table for maintaining the information of the logical volume by storing duplicated information of the logical volume onto all disk partitions of the logical volume;
    an extent allocation table for indicating whether each extent in the disk partition is used or not used; and
    a mapping table for maintaining a mapping information for a physical address space corresponding to a logical address space which is a continuous address space equal in size of storage space to an entirety of said logical volume.

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 もう一方の独立クレーム8は、プリアンブルが、クレーム1の発明を実行するための命令を記憶したコンピュータ可読記録媒体を規定しています。クレーム8のプリアンブルのみ以下に示します。この「コンピュータ可読記録媒体」の解釈が争点となりました(太字斜体で示します)。

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  1. A computer-readable recording medium storing instructions for executing a method for managing a logical volume in order to support dynamic online resizing and minimizing a size of metadata, said method comprising the steps of:
    a) creating the logical volume by gathering disk partitions …

(以下、最後までクレーム1と同じにつき省略)

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3.地裁の判断

(1)特許侵害について

 両当事者は、独立クレーム1における「ディスクパーティション(disk partition)」および「論理ボリューム(logical volume)」というクレーム用語の解釈について争いました。侵害の争点の核心は、クレームされた発明が「ディスクパーティション全体(an entire disk partition)」よりも少ないものを「論理ボリューム」に割り当てることができるかどうか、という点にありました。そして地裁は、Red Hat社のクレーム解釈に同意し、論理ボリュームはディスクパーティションの全体しか使用しないものであると解釈して、それよりも少ないものを論理ボリュームに割り当てることはできず、そのようなものは権利範囲に含まれないと判断しました。

 より詳細に説明いたしますと、地裁は「ディスクパーティション」を「論理ボリュームの最小単位であるディスクのセクション」を意味するものと解釈し、「論理ボリューム」を「複数のディスクパーティションの拡張可能な結合であって、そのサイズがディスクパーティション単位で変更されるもの」を意味すると解釈しました。これらの解釈では、論理ボリュームが、エクステント(extent: 一般的に外部記憶装置に記録された論理的に連続した記憶領域を指す)などのディスクパーティションのサブパート(subparts of disk partitions such as extents)ではなく、ディスクパーティション全体(whole disk partitions)で構成される必要があります。

 地裁はまた、このクレーム解釈の争点に関連して、「ディスクパーティション内の(サブパートである)各エクステントが使用されているのかまたは使用されていないのか(used or not used)を示すエクステント割り当てテーブル(extent allocation table)」というクレームの限定事項(クレーム1の最後から2番目の段落)における「使用されているのかまたは使用されていないのか」という表現を解釈しました。Sequoia社は、「使用」がエクステントのようなディスクパーティションのサブパートが論理ボリュームで使用されることを意味すると主張しましたが、Red Hat社は、この「使用」は論理ボリュームでの使用ではなく、単に、エクステントが「情報を保存しているのかまたは保存していないのか」を意味するものであると主張しました。地裁はこのRed Hat社の解釈を採用しました。

 地裁による上記の「論理ボリューム」および「ディスクパーティション」のクレーム解釈、すなわち論理ボリュームはディスクパーティションの全体しか使用しないものであるとの解釈に基づいて、訴えられた製品は権利主張されたクレームを侵害していないという結論になりました。

(2)特許の有効性(特許適格性)について

 地裁は、独立クレーム8(およびその従属クレーム9および10)の「コンピュータ可読記録媒体(computer-readable recording medium)」という用語について、Red Hat社によって主張された、信号や電波などの「一時的な媒体(transitory media)」を含めた「コンピュータ可読記録媒体」であるという解釈を採用しました。米国における記録媒体のクレームに関する審査実務によれば、記録媒体のクレームは、一時的ではない有形の媒体(non-transitory tangible media)であることが読み取れなければ、一時的な伝送信号そのものをも権利要求しているものと解釈され、米国特許法101条の特許適格性に反するとして特許を得ることはできません。

 本件特許に関して地裁は、一時的な媒体を除外するどのような明確な文言も明細書中には見出されず、特にSequoia社の専門家から実質的な反論がなかったことを考慮すると、Red Hat社の外部証拠に説得力があると判断しました。このような地裁による「コンピュータ可読記録媒体」の解釈に基づいて、クレーム8-10は一時的媒体を含むため米国特許法101条の下に主題適格性を欠くものであるという結論になりました。

 

4.CAFCの判断

(1)特許侵害について

 CAFC判決は、地裁による「ディスクパーティション」および「論理ボリューム」の解釈に注目しました。Sequoia社は、クレームには、ディスクパーティションのサイズまたは完全性を定義する、「ディスクパーティション全体」または他の同様の文言は記載されていないと主張しました。CAFCは再びクレームの文言から始めて、クレームは同様に、ディスクパーティションをディスクパーティション全体に満たないものとして定義する、ディスクパーティションの「パーツ(parts)」または「部分(portions)」もしくはその他の文言を記載していないことに注目しました。

 次にCAFCは、ディスクパーティションを「[論理]ボリューム構成単位」と定義する明細書に注目しました。Sequoia社は、論理ボリュームの構成にディスクパーティションの一部が使用された場合でも、メタデータを最小限に抑えることができると主張しました。CAFCは、Sequoia社の主張は、クレームされた発明の目的がどのように達成されたかに関する本件特許における唯一の説明である明細書の明示的な文言に「結びついていない」として、Sequoia社の主張を却下しました。

 CAFCは、内部証拠の評価を継続し、出願人が「ディスクパーティション」の意味について、論理ボリュームの最小構成単位であると陳述した審査経過に注目しました。出願人は、2件の先行技術文献について、これらの先行技術が「論理ボリュームを形成するように・・・ディスクドライブのサブセット」を集めたものであることを根拠に本件発明と区別し、さらに、本件特許の論理ボリュームは「ディスクパーティションのレベルで」形成されると述べました。CAFCは、本件発明を従来技術の攻撃を克服するものであると特徴付けるこれらの陳述は明白であり、ディスクパーティションのサブ部分を論理ボリュームに組み入れることを可能にする解釈を合理的にサポートすることはできない、と結論付けました。

 最後に、CAFCは、クレーム限定事項の「ディスクパーティション内の各エクステントが使用されているのかまたは使用されていないのかを示すエクステント割り当てテーブル」における「使用されているのかまたは使用されていないのか」という記載に対処しました。Sequoia社は、「エクステント」とは部分的なディスクパーティションであり、「使用されているのかまたは使用されていないのか」は、所与のエクステントが、命令を格納するコンピュータ可読記録媒体内で使用されてるのかまたは使用されていないのかを意味するものと解釈されるべきであるため、この限定事項はディスクパーティションの解釈(すなわち、「ディスクパーティション」にはディスクパーティションの全体および部分の両方が含まれるということ)をサポートしている、と主張しました。一方、Red Hat社は、「使用されているかまたは使用されていないか」とは、論理ボリューム内の特定のエクステントが記憶のために使用されているかどうかを指しており、部分的なディスクパーティションがデバイスに存在するかどうかではないと主張しました。

 CAFCは、クレームの文言のみに基づいては、一方の当事者の解釈が他方の当事者の解釈を上回ることについて裏付けを見つけることができませんでした。CAFCは、ディスクパーティションを「[論理]ボリューム構成単位」とする明細書の明示的な定義に戻ることで、この問題を解決しました。CAFCは、「使用される」が「論理ボリュームで使用される」ことを意味する場合、パーティション全体が論理ボリュームを構成し、エクステントが必然的に使用されるため、クレームに記載されているエクステント割り当てテーブルは不要になるであろうと判断しました。CAFCはまた、エクステントの「使用」が記憶目的での使用を指している、発明者による先行する出版物も考慮しました。CAFCは、エクステントの使用の意味を決定するために(クレームの範囲外のシステムに向けられた)論文に依拠しないように注意を払いました。CAFCはむしろ、発明者による先行する出版物が、エクステントの「使用」がそのエクステントが記憶のために利用されることを意味し得ることを証明していることを明らかにしました。それ故にCAFCは、地裁の解釈は合理的であるとの結論を下しました。

(2)特許の有効性(特許適格性)について

 CAFCは、地裁が「コンピュータ可読記録媒体」の解釈を誤ったと結論付けました。CAFCはクレームの文言から始めて、クレームが単なる「コンピュータ可読媒体」ではなく、「命令を格納したコンピュータ可読記録媒体(computer-readable recording medium storing instructions)」を記載していることに注目しました。CAFCは、ほんの一瞬の信号は命令を保存するのに十分な時間は持続しないであろうため、当業者であれば、一時的な信号はクレームされた発明とは整合しないことを理解するであろう、と説明しました。CAFCは明細書に目を向けて、明細書はたしかにコンピュータ可読媒体を記述するためにオープンエンド(open-ended)の「含む(including)」という文言を使用しているものの、明細書の関連部分ではコンピュータ可読媒体を、「コンパクトディスク読取専用メモリ(CDROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、フロッピーディスク、ハードディスク、および光磁気ディスクを含む」ものと規定しており、ここに列挙されたものはすべて、非一時的な形式の記憶媒体ハードウェアであることを認識しました。CAFCはさらに、Red Hat社が提案した一時的な信号を含める解釈は、ハードウェアの記憶装置を規定するとともに信号の種類については何ら言及していないクレームの文脈においては、意味がないと判断しました。明細書はむしろ、本件発明が「プログラムまたはデータ構造を保存する」手段を提供していることを明らかにしており、この手段は、CAFCが「一時的な信号とは矛盾したものである」ことを説明しています。

 CAFCは、Red Hat社の外部証拠を却下しました。CAFCの見解では、この外部証拠は、発明者が明細書において自らの辞書編纂者としての役割を果たしたことを証明するに過ぎないものでした。CAFCは、専門家の証言を比較検討する際には、「法廷は、『特許の記述された記録から・・・要求されたクレーム解釈と明らかに矛盾する』ことが理解される専門家の証言を無視すべきである」というクレーム解釈の格言を再確認しました。CAFCが述べているように、「クレームの解釈においては特許全体の開示における文脈が鍵となる」のです。

 以上の次第で、CAFCは、本件特許のクレーム8-10は米国特許法101条に基づき特許適格性を有さないとする地裁の結論を覆しましたが、地裁の非侵害の認定は支持しました。

 

5.実務上の注意点

 内部証拠が外部証拠に勝ることは、これまでのCAFC判決においても判示されてきたところであり、たとえば、2019年9月17日付けで弊所ホームページの国・地域別IP情報(米国)に掲載した「内部証拠と矛盾する外部証拠に依拠したクレーム解釈は誤りとしたCAFCの判決紹介」(https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/7100/)をご参照ください。これらの裁判例を考慮いたしますと、特許出願を書き起こし、その権利化を図る場合、特許実務者は、裁判所が考慮する証拠の階層を念頭に置く必要があります。その階層とは優先度の高い方から順に、クレームの文言自体、明細書、審査経過、そして最後に、内部証拠に矛盾しない範囲での外部証拠です。

 

[情報元]

① McDermott Will & Emery IP Update | April 20, 2023 “Context Is Key in Claim Construction”

② Sequoia Technology, LLC v. Dell, Inc. et al., Case Nos. 21-2263; -2264; -2265; -2266 (Fed. Cir. Apr. 12, 2023) (Stoll, Lourie, Dyk, JJ.)(CAFC判決原文)

 

[担当]深見特許事務所 堀井 豊