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韓国大法院、均等論の置換容易性の要件の判断時期を権利範囲確認審判の審決時と判示

 韓国大法院は、権利範囲確認審判において確認対象の発明が特許発明の特許請求の範囲と異なる部分を有する場合、審決時を基準にして異なる部分への置換が当業者にとって容易であれば、その確認対象の発明は、特許発明の特許請求の範囲に記載のものと均等となり得る旨を判示しました(大法院2023.2.2.宣告2022Hu10210判決)。

 

 

1.事件の経緯

(1)本件特許発明は、ダパグリフロジン化合物 を含む化合物に関するものであります。競合のジェネリックA社は、実施しようとするダパグリフロジンギ酸塩 (以下、「確認対象発明」という)が本件特許の権利範囲に属しない旨の判断を求める権利範囲確認審判を請求しました。

 特許審判院は、確認対象発明のダパグリフロジンギ酸塩が本件特許発明のダパグリフロジンと均等関係にあると言えず、確認対象発明は、本件特許の権利範囲に属しない旨の審決を下しました。

(2)特許権者はこれを不服として特許法院に審決取消訴訟を提起しました。特許法院は、本件特許発明のダパグリフロジンを確認対象発明のダパグリフロジンギ酸塩に変更することは、当業者にとって容易に想到でき、特許権者が確認対象発明のダパグリフロジンギ酸塩を意識的に除外しようとする意図もなかったとして、確認対象発明は本件特許発明と均等関係にあるので本件特許の権利範囲に属する旨の判決を下しました。

(3)A社は特許法院の判決を不服として上告し、大法院は、置換容易性及び意識的除外可否に対する特許法院の判断に誤りがないと判断しました。

 

 

2.大法院の判断

 大法院は、特許法院が示さなかった均等可否の判断時期について、以下のような判示をしました。

 均等侵害を認める趣旨は構成の僅かな変更(置換)による特許侵害回避の試みを阻止することにより、特許権を実質的に保護するためであることを考慮すると、当業者がダパグリフロジンをダパグリフロジンギ酸塩に変更することが容易であるか否かは、権利範囲確認審判の審決時を基準にして判断すべきであるとしました。

 

 

3.コメント

・本件は、日本にはない制度である「権利範囲確認審判制度」と「均等論の置換容易性の要件の時期」に関連する事例であります。なお、権利範囲確認審判制度については、弊所ウェブサイトの「国・地域別IP情報」の韓国関連の2022.06.08付配信記事において説明しており(https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/8214/)、均等論については2021.06.15付配信記事において説明しております(https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/6705/)。

・以下に記載しています2000年の韓国大法院(2000.7.28.言渡 97 フ 2200 判決)の均等の5要件において、③の置換容易性の要件は、判断時期が明示されていないように考えられます。今回、権利範囲確認審判を請求している場合には、審決時を基準とすると判事されました。

 ご存じのように日本の置換容易性の判断時期は、対象製品等の製造時点であり、審決時とは若干の差異があるようにも考えられます。

 また、今回の判示からは、権利範囲確認審判が請求されていない場合、置換容易性の判断時期が不明のようにも考えられます。製造時点ではなく、審決時を基準とした理由は現状十分に分析できておりませんが、権利範囲確認審判の審決後に、第三者が発明の実施を判断する場合を想定すると、判示した内容を理解できるとも解せます。

 権利範囲確認審判の審決時と製造時点の前後関係を考慮すると、権利範囲確認審判の請求の有無を問わず、韓国においても、少なくとも対象製品等の製造時点で置換容易であれば、日本と同様に置換容易の要件を満たす可能性が高いと考えるべきと解せます(大法院判決では明示されていませんが、ソウル高等法院の裁判例では、相手方製品などの製造、使用などがあった時点を基準にすることを判示した事件がありました(ソウル高等法院2016.3.24.付2015ラ20318決定))。

 

<2000年の韓国大法院の均等の5要件(*)>

① 両発明の技術的思想ないし課題の解決原理が共通又は同一であること。

② 置換によっても特許発明と同じ目的を達成することができ、実質的に同じ作用効果を有すること。

③ 置換すること自体がその発明に属する技術分野で通常の知識を持った者なら当然容易に引き出すことができる程度に自明であること。

④ 確認対象発明が当該特許発明の出願時にすでに公知の技術であるか、それにより当業者が容易に導き出すことができるものではないこと。

⑤ 当該特許発明の出願手続きを通じて確認対象発明の置換された構成要素が特許請求の範囲から意識的に除外されるなどの特別の事情がないこと。

(*)2000年以後の大法院の判決で各要件の文言が修正されている部分があることに注意を要する。

[情報元]

① FIRSTLAW IP NEWS  Issue No. 2023-01 「韓国大法院、権利範囲確認審判において均等可否を審決時を基準にして判断」(March 2023)

② JETRO 特許侵害対応マニュアル 韓国編 2013年3月 p.102-103 「1-4 均等領域における侵害(均等論)」

https://www.globalipdb.inpit.go.jp/jpowp/wp-content/uploads/2014/02/93cacf2a8251382b8060e4710d847b1e.pdf

③ ボールスプライン事件最高裁判決文(1998年2月24日)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/790/052790_hanrei.pdf

④ INPIT 新興国等知財情報データバンク「韓国司法実務における均等論についての規定および適用」 (2018年9月27日)

https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15859/

 

[担当]深見特許事務所 栗山 祐忠