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関係の無い別の出願における陳述はクレーム用語の範囲を狭めることがないとしたCAFC判決紹介

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、特許侵害訴訟において争点となっているクレーム用語について、クレームの文言の個々の単語の意味に基づいて、原審の地裁が行った解釈よりもさらに文言に沿った解釈方法を採用し、原審の非侵害の判決を取り消しました。

Malvern Panalytical Inc. v. TA Instruments-Waters LLC, Case No. 22-1439 (Fed. Cir. Nov. 1, 2023) (Prost, Hughes, Cunningham, JJ.)

 

1.事件の経緯

 Malvern Panalytical Inc.(以下、「Malvern社」)は、マイクロ熱量計に関する米国特許第8,449,175号(以下、「175号特許」)および米国特許第8,827,549号(以下、「549号特許」)を所有しています。なお、549号特許は175号特許の継続出願に対して発行された特許であり、両特許は実質的に同じ明細書・図面を有しています(以下、両特許を総称して「本件特許」)。また、本件特許の当初の譲受人は2件ともGE Healthcare Bio-Sciences Corp.,でしたが、現在では2件ともMalvern社が所有するに至っています。

 Malvern社は、本件特許を侵害しているとして、TA Instruments-Waters LLCおよびWaters Technologies Corporation(以下、「Waters社」と総称)をデラウェア州連邦地方裁判所に訴えました。連邦地裁は、これらの係争中の特許における「ピペット案内機構」という用語を「ピペットアセンブリを手動で案内する機構」と解釈するクレーム解釈命令を発し、続いてWaters社の製品は、手動のピペット案内機構に限定された本件特許を侵害していない、とする最終判決を出しました。

 Malvern社はこれを不服としてCAFCに控訴しました。

 

2.本件特許の内容

 本件特許は、2つの化合物間の化学反応中に吸収または放出されるエネルギー量を測定する装置であるマイクロ熱量計を開示しており、特に等温滴定型熱量計(Isothermal Titration Calorimeter: ITC)という特定の型式のマイクロ熱量計を開示しています。

 本件発明の熱量計システムにおいて、自動ピペットアセンブリの位置が、別の構成要素であるピペット案内機構によって少なくとも2つの動作位置の間で案内されます。このピペット案内機構が自動か手動かが本件訴訟の争点となりました。

 本件特許の図2および図5aは、本件特許の実施形態のピペット案内機構510を示し、ピペットアセンブリ220を支持するピペットアーム520と、実質的に垂直の案内ロッド530とを備えています。ピペットアーム520はスリーブ540によって案内ロッド530に移動可能に取り付けられていますが、案内ロッドを中心とした動きは案内ロッド530の案内溝550と、スリーブ540の内面から突出し、かつ案内溝550に嵌合する案内ピン560とによって制限されています。この実施形態では、ピペットアセンブリ220の垂直方向の動きが動作の角度位置に制限され、滴定針260が動作のそれぞれの位置から完全に後退している場合に、ピペットアセンブリ220の角度位置の間の回転運動のみが許可されます。

 代表例として549号特許のクレーム1は、ピペット案内機構に関する以下の記載を含んでいます。

**********

  1. A micro titration calorimetry system comprising:

(中略)

              a pipette guiding mechanism arranged to restrict the movement of the pipette assembly along safe paths to ensure that the titration needle cannot be damaged during movement thereof between different positions of operation.

 

 1.マイクロ滴定型熱量計システムであって、

(中略)

 前記ピペットアセンブリが異なる動作位置の間を移動する間に前記滴定針が損傷し得ないことを確実にするように、前記ピペットアセンブリの安全な経路に沿った移動を制限するように配置されたピペット案内機構を備える、マイクロ滴定型熱量計システム。

**********

 

3.連邦地裁の判断

 原審の連邦地裁では、本件特許からは独立した別の特許ですが本件特許と同様にMalvern社が所有する米国特許第9,103,782号(以下、「782号特許」)の審査経過が参照されました。この782号特許の審査段階において担当審査官は種々のクレームを米国特許出願公開公報2021/0238968(以下、「968号出願公開」)によって新規性を阻害されているとして拒絶しましたが、この968号出願公開は後に、本件特許の1つである175号特許として発行する出願です。

 この782号特許は、引用例である968号出願公開(PCT/US2008/081961に対応)を参照によって援用しており(Incorporated by Reference)、782号特許はその明細書において(第2コラムの第61行~第63行)、「968号出願公開はその図1において『手動ITCシステム』を開示するものである」と記載しています。このような「手動ITCシステム」は782号特許の「自動化されたITCシステム」とは明らかに対照をなすものです。しかしながら782号特許の担当審査官は、このような状況にも拘わらず、968号出願公開においてピペットの移動はITC制御システムによって提供されるプログラムを用いて実行されるという見解を示し、968号出願公開は自動化されたITCシステムを開示するものと判断しました。そして968号出願公開によって新規性を阻害されるものとして782号特許を拒絶しました。

 782号特許の出願人は当初、968号出願公開には「純粋に手動のピペット案内機構」が記載されていると主張して、拒絶に反論しようとしました。しかし、審査官がその議論は説得力がないと判断したため、出願人は方針を変更し、968号出願公開と782号特許とには共通の譲受人(Malvern社)が存在するため、AIA改正前の米国特許法103条(c)(1)の規定により、引用された968号出願公開は先行技術の地位を有さないと主張しました。審査官はこれを認め、782号特許に対する新規性の拒絶理由を取り下げました。

 その後、Malvern社は、米国特許法257条に基づいて、175号特許の補充審査(supplemental examination)を要求しました。補充審査とはAIA改正法で設けられた制度で、特許権者が特許に関連していると思われる情報を考慮又は再考慮してもらうものであり、情報開示義務違反等によって特許が権利行使不能となることを防止する制度です。補充審査に関連して、Malvern社は、154件の文書を含む情報開示陳述書(IDS)を提出し、そのうち7件は、175号特許とは直接の関係が無い782号特許の審査経過におけるオフィスアクションでした。Malvern社はオフィスアクションについていかなる形でも、補充審査での主張に関連付けた説明はしませんでした。

 本件訴訟に戻ると、原審のクレーム解釈手続き中に、Malvern社は「ピペット案内機構」とは「ピペットアセンブリを案内する機構」を意味すべきだと主張しましたが、一方でWalters社は「ピペットアセンブリを手動で案内する機構」を意味すべきだと主張しました。連邦地裁は、Malvern社が「ピペット案内機構」が知られているか、当業者にとって容易に理解可能であるという証拠を提示していないため、「ピペット案内機構」という用語は造語であると結論付けました。この決定に基づいて、連邦地裁は内部証拠に基づいて用語の意味を次のように特定しました。

 連邦地裁は、本件特許はMalvern社に譲渡されたため、782号特許の審査中になされた陳述は本件特許のクレームの解釈に関連していると認定しました。連邦地裁はまた、Malvern社が175号特許の補足審査中に提出された782号特許関係のオフィスアクションを引用した際に、Malvern社がこれらの陳述を組み込むことに同意したと結論付けたため、これらの陳述は本件特許の内部記録に組み込まれたものとみなしました。連邦地裁はこの内部記録におけるWaters社の「968号出願公開(後の175号特許)は手動のピペット案内機構を開示する」との主張に依拠して「ピペット案内機構」を手動の案内機構に限定解釈し、非侵害の最終判断を示しました。Malvern社はCAFCに控訴しました。

 

4.CAFCの判断

 CAFCは、「ピペット」、「案内」、「機構」という言葉の個々の意味を検討することによって、「ピペット案内機構」という用語を解釈するのが適切であると説明しました。CAFCは、特許権者がクレームの本体部においてクレーム用語に対する確認可能な定義を提示した場合には、明細書または審査経過によってより狭い解釈が要求されない限り、より特定された意味をクレーム用語に付加することを先例は支持しない、と指摘しました。CAFCは、クレームの広範な文言が広範な解釈を裏付ける場合、特許権者はそのクレーム用語の全範囲を享受する権利を有すると述べました。ここで、クレームの文言には、「ピペット案内機構」が手動のみであることを示唆するような限定は何ら含まれておらず、したがって、広範なクレームの文言は、「ピペット案内機構」が手動と自動の両方の実施形態を包含するという結論を裏付けるものでした。

 CAFCは、「ピペット案内機構」に関する連邦地裁の分析を却下しました。その理由は、連邦地裁がこの用語が当該技術分野において明白かつ通常の意味を有するかどうかについて主に焦点を当てており、この用語が本件特許の文脈の中で明白かつ通常の意味を有するかどうかを考慮していなかったからです。CAFCは、クレームの要素の明白かつ通常の意味は、明細書および審査経過の文脈でクレームを検討することによって認識されるべきであると指摘しました。

 Waters社は、「ピペット案内機構」は自動化されたものではあり得ないと主張しました。なぜなら明細書にそのように明示的に記載されていないためです。CAFCは、明細書が、手動の実施形態または自動化された実施形態に限定することなく、案内機構を広範に説明していることから、この主張を却下しました。Waters社はまた、175号特許の補充審査中における審査経過が案内機構を手動の実施形態に限定したという趣旨の主張をしましたが、CAFCはこの主張を却下しました。なぜなら、補充審査中に提出されたIDSに、無関係な782号特許のオフィスアクションが含まれているだけでは、クレームされた「ピペット案内機構」の意味を知らせることにはならないからです。

 CAFCは、IDSにおける引用などによって引用文献が一旦内部記録に組み込まれると、その引用文献の記載に関する説明の程度が、特許クレームを評価する際にその引用文献がどれほど有益であるかに影響を与えると説明しました。したがって、IDSに単に引用文献を列挙するだけでは、出願人は、引用された文献が係属中のクレームの審査に関連する可能性があることを単純に認めているに過ぎないことになります。引用文献における特許クレームに関連する記載をさらに特定しなければ、IDSで文献を引用しても、重要性を認めることにはなりません。また、引用されたリストに記載された文献の用語の説明や使用が、無関係な特許のクレームにおけるその用語の適切な解釈に影響を与えることにはなりません。

 したがって、CAFCは原審の判決を取り消し、さらなる手続のために本件を連邦地裁に差し戻しました。

[情報元]

① McDermott Will & Emery IP Update | November 9, 2023 “Statements in Unrelated Application Don’t Narrow Claim Term”

https://www.ipupdate.com/2023/11/statements-in-unrelated-application-dont-narrow-claim-term/

② Malvern Panalytical Inc. v. TA Instruments-Waters LLC, Case No. 22-1439 (Fed. Cir. Nov. 1, 2023) (Prost, Hughes, Cunningham, JJ.)判決原文

https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/22-1439.OPINION.11-1-2023_2215474.pdf

 

[担当]深見特許事務所 堀井 豊