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広すぎるReissue却下のCAFC判決

 再発行特許出願(Reissue Application)に関して、米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は、必須と解されるクレーム要素を削除した再発行特許出願を却下するという特許審判部の決定を支持しました。

In re Float‘N’Grill LLC, Case No. 22-1438 (Fed. Cir. July 12, 2023) (Prost, Linn, Cunningham, JJ.)

 

1.再発行特許出願制度の概要

 米国特許法では、特許権者は、特許の瑕疵を訂正するために再発行特許出願を行うことができます(米国特許法第251条、施行規則1.171-1.179、審査便覧(MPEP)1401-1470)。再発行特許出願は、特許権者以外の第三者は行うことができません。特許発行から2年以内であれば、クレームを拡大する訂正も認められます。

 特許の再発行が認められるためには、訂正しようとする瑕疵が欺瞞する意図の無い過誤によるものであること、そのままでは当該瑕疵のために特許が全体にまたは部分的に無効理由を含むかまたは実施不能であること、という要件を満たす必要があります。MPEPによると、再発行が認められるのは、クレームの範囲が広すぎたり狭すぎたりする、明細書が不正確な開示を含む、優先権主張をしていなかった、先の関連出願の引用を間違った、等の瑕疵であり、単なる誤字・誤記などの軽微なミスは対象とはなりません。

 再発行特許出願を行うためには、瑕疵の内容と発生の理由を説明する宣誓供述書を提出するなど所定の手続が必要であり、出願後には、通常の審査と同様の審査が行われます。したがって、審査官は新たな拒絶理由を発見して再発行特許出願を拒絶することもあり得ます。

 

2.本件再発行特許出願の経緯

(1)原特許の概要

 Float‘N’Grill (FNG)は、ユーザーが水辺で食べ物を焼くことできるようにグリルをサポートする浮遊装置に関する特許(USP9,771,132(以下、「原特許」))を保有していました。

 原特許の明細書には、以下の図1,3等に示す1つの実施形態が記載されていました。実施形態には左右の2つのサポート(46,48)を備えたフロート(20)と、「複数の磁石」(60)が左右のサポートの上部にあり、グリル(76)をフロートから取り外し可能に取り付けることができるものが記載されていました。

 原特許のクレーム1の最終段落には、以下に示すように、グリルの底面が(サポートに設けられた)複数の磁石に取り外し可能に取り付け可能であるとの限定が含まれていました。

              “wherein a flattened bottom side of a portable outdoor grill is removably securable to the plurality of magnets and removably disposed immediately atop the upper support of each of the right grill support and the left grill support.”

 

(2)再発行特許出願に対する審査および審判

 FNGは、発明を広げ、磁石の要件を必須としないものとし、フロートにグリルを取り外し可能に取り付けられる浮遊装置の発明について、再発行特許出願を提出しました。

 具体的には、例えば、再発行のために新たに追加したクレーム4では、上記の原特許のクレーム1の磁石の要件をなくし、以下に示すように最終段落において、単に「グリルの底面は、グリル支持部材の上部支持部分のすぐ上に取り外し可能に固定され、取り外し可能に配置される。」としています。

              “wherein a bottom side of the grill is removably securable and removably disposed immediately atop the upper support portion of the grill support member.”

 

 しかし、審査官は、新たに追加したクレーム4により、米国特許法第251条の「原特許」要件を満たしていないとして、再発行特許出願を却下しました。すなわち第251条(a)は、「長官は、・・・原特許に開示されている発明について,補正された新たな出願に従い,・・・特許を再発行しなければならない。再発行を求める出願に新規事項を導入することはできない。」と規定しています。

 審査官は、原特許において、「複数の磁石」を使用した「グリルを支持するための浮遊装置」について、1つの実施形態を開示しているが、「複数の磁石」が「本発明の選択的な特徴」であることは開示していないとしました。

 また、審査官は、「磁石だけがフロートとグリルとの間の安全で安定した取り付けを実現する役割を担っているため、磁石が本発明の重要な要素であることは一目瞭然である」と認定しました。

 特許審判部は、審査官の判断を支持しました。

 

3.CAFCの判断

 FNGは、CAFCに控訴しました。

 CAFCは、主として以下の理由等から、審判部の判断を支持しました。

・複数の磁石は、たとえ原特許が明示的にそのように述べていなくても発明の本質的かつ重要な性質であることは明らかであること。

・当業者が、開示された磁石を他のものに置き換えて、同様の取り外し可能に固定可能な機能を達成できるかどうかは不確実であること。また、グリルをフロートに取り付ける新たな方法があったとしてもそれは原特許の範囲外であること。

・原特許のクレームを包含する十分広いクレームは、「原特許」要件を満たすことの証明にはならず、むしろ原特許の範囲の容認できない拡張であることの証明となる。本件において再発行特許出願にクレームされた包括的な取り付け手段が原特許に開示された発明に必須の複数の磁石を包含しており、かつそれに限定していないため、第251条の「原特許」要件を満たしていない。

 

4.考察

・本案件は、クレームの拡大を求める再発行特許出願において、拡大したクレームが原特許の明細書の開示を超えているものとして、認められなかった事例であります。

・情報元①のMcDermott Will & Emery IP Update(September 7, 2023)においても分析されているように、クレームの拡大を図る試みとして、可能な限り、再発行特許出願ではなく、継続出願および分割出願の事前の対応(審査係属中の対応)が望ましいと考えられます。

・ただし、本願の明細書を見る限り、どの段階においても磁石の限定を外すことは難しいように推察されます。理想を言えば、やはり、着脱可能な別のものを当初の出願の準備段階から明細書に例示しておく必要があったと推察されます。

 

[情報元]

① McDermott Will & Emery IP Update | July 20, 2023 “Reissue Boat Won’t Float: “Original Patent” Rule Sinks New Floating Grill Claims”

https://www.ipupdate.com/2023/07/reissue-boat-wont-float-original-patent-rule-sinks-new-floating-grill-claims/

② In re Float‘N’Grill LLC, Case No. 22-1438 (Fed. Cir. July 12, 2023) (Prost, Linn, Cunningham, JJ.)(判決原文)

https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/22-1438.OPINION.7-12-2023_2156183.pdf

[担当]深見特許事務所 栗山 祐忠