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中国専利法の実施細則および審査指南の改正(2024.1.20施行)

 2021年6月1日から施行されている中国の改正特許法に対応する、特許法実施細則の改正に関する国務院の決定が、2023年12月21日に公表され、改正された特許法実施細則は2024年1月20日から施行されています。(以下、「特許」の語は、中国語の「専利」に置き換えて記載します。なお、日本における特許出願、実用新案出願、意匠出願は、中国ではそれぞれ発明専利出願、実用新案専利出願、意匠専利出願と称され、いずれも中国専利法で規定されています。)

 同時に、改正専利審査指南(特許審査ガイドライン)の全文も中国国家知識産権局(中国特許庁、以下「CNIPA」)より公表され、2024年1月20日から施行されています。改正専利審査指南には、改正専利実施細則に規定された改正事項について、さらに細分化した内容が規定されています。

 さらに、改正専利法及びその実施細則の施行に係る審査業務対応に関する臨時的措置(以下、「経過措置」という)もCNIPAにより公表され、2024年1月20日から施行されています。

 以下、実施細則の主な改正内容と、改正された審査ガイドラインの注目すべき事項について紹介します。なお、以下の( )内の「第…条」は、改正実施細則の条文を示します。本稿作成時点では改正実施細則の公式の日本語訳文がないため、ご参考までに、Google機械翻訳による仮訳を下記「情報元5」として添付しています。

 

.専利法実施細則の主な改正内容について

1.専利出願制度の整備に関する改正

 (1)電子形式による書類の提出および送達に関連する規定の整備

 各種手続きにおける電子形式のデータメッセージを書面とみなすことが明確化され(第2条)、電子手続の場合、CNIPAへの提出書類は、電子出願システムに取り込まれた日を提出日とし、CNIPAからの送達書類は、電子システムに取り込まれた日を送達日とし、電子出願については15日間の推定送達期間が適用されないこととしました(第4条)。

 (2)優先権制度関連規定の整備

 (i)発明専利出願又は実用新案専利出願において、正当な理由があれば、優先権期間経過から2か月以内に優先権回復の請求が可能となりました(第36条)。

 (ii)パリ条約上の優先権主張を伴うPCT出願の場合、国際段階において国際出願日に関する優先権の回復を優先権期限経過から2か月以内に請求し、国際事務局に回復が認められた場合は中国での回復も認められることとし、国際段階で優先権の回復を請求せず又は優先権回復の請求が認められなかったときは、国内移行時から2か月以内に優先権の回復の請求が可能となりました(第128条)。

 (iii)発明専利出願又は実用新案専利出願において、優先日から16か月以内または出願日から4か月以内に優先権の追記・訂正が可能となりました(第37条)。

 (3)新規性喪失の例外に関する規定の緩和(第33条)

 新規性喪失の例外において、従来の「国務院関連主管部門又は全国学術団体が組織し開催する学術会議、技術会議」に加え、「国務院関連主管部門が認可する国際組織が開催する学術会議、技術会議」を追加しました。

 また、展示又は発表に関する証明について、改正前は国際展覧会又は学術会議、技術会議の主催者が発行した、証明書類を提出しなければなりませんでしたが、必ずしも開催者が発行するものに限られないことになりました。

 (4)先の出願の引用による補充を可能にする改正(第45条)

 発明専利又は実用新案専利の出願のクレーム、明細書、又はクレーム又は明細書の一部が欠落又は誤って提出された場合において、出願人が出願日に優先権を主張した場合、出願人は、出願日から2ヶ月以内又は国務院傘下の専利管理部が定める期限内に、当該出願日を維持して、先の出願書類を引用して補充すること(引用による補充)ができるようになりました。

 

2.専利審査制度の整備に関する改正

 (1)信義誠実の原則の規定の追加

 第11条を新たに追加し、専利出願が信義則に従うべきであることを明文化するとともに、出願は真正な創作活動に基づくべきである旨を規定し(第11条)、信義則違反を拒絶理由及び無効理由に追加しました(第50条、第59条、第69条)。

 (2)拒絶査定不服審判制度(中国語では「復審制度」)の整備

 拒絶査定不服審判において、拒絶査定に示されていない拒絶理由以外の、専利出願が専利法およびその実施細則の関連規定に明らかに違反するその他の状況を審査の対象に含める旨が規定されました(第67条)。

 また、専利審判部は受理した不服審判請求書を元の審査部門に移送して審査させなければならないことを規定していた改正前の実施細則第67条が削除され、拒絶査定をした審査官に代わって別の審査官により前置審査を行なうことが可能になりました。

 (3)秘密保持審査の期間の調整(第9条)

 国務院傘下の専利管理部は、改正実施細則第8条に従って機密性の審査を行うことの請求を受けた後、発明または実用新案が国家安全保障または重大な利益にかかわる可能性があり、秘密を保持する必要があると判断した場合、請求の提出日から2か月(改正前は請求日から4か月)以内に、申請者に秘密審査の通知を発行しなければならないとし、状況が複雑な場合は、2か月延長できることとしました。

 また、審査結果決定までの期間は原則請求日から4か月(改正前は請求日から6か月)以内であり、状況が複雑な場合は2か月延長可能としました。

 (4)遅延審査制度の導入

 CNIPAが2023年に発明専利出願の審査遅延に関するガイドラインを発行したことにより導入された審査遅延制度について、改正専利実施細則第56条第2項で明文化され、出願人が発明、実用新案、意匠の各専利出願に審査遅延を請求できることを明示しました。

 この制度は、出願人が技術や市場の動向に応じてクレームの補正や出願を維持するかどうかの決定を行なうことを可能にしたものです。

 

3.専利の保護強化に関する改正

(1)専利権の存続期間の補償

 専利権の存続期間の補償に関する独立した章(第5章)を新たに設け、専利権の存続期間の補償請求の条件と期間要件、補償期間の計算方法および補償範囲などを明確に提示しました(第84条)。審査遅延に起因する存続期間の延長(PTA)について改正実施細則第77条、第78条に規定され、薬事承認による存続期間の延長(PTE)については改正実施細則第81条~第84条に規定されています。

(2)専利紛争処理および調停制度の整備(第95条)

 中央直轄の省、自治区等の部署で、専利行政の業務が多く、専利業務を実際に処理する能力がある部門は、専利紛争を処理し、調停することができることを規定しました。

 

4.専利の実用化、運用促進に関する改正

 (1)専利開放許諾制度関連規定の追加

 専利開放許諾(オープンライセンス)制度は、専利権の活用促進のために、出願人又は専利権者が任意の第三者に対しライセンス提供をする用意があることを宣言し、そのかわりに、特許料の減免等を受けられる制度です。中国では、2021年6月1日より施行された改正専利法第50条において、この制度が導入されましたが、その詳細は、専利法実施細則及び審査基準の改正により定められることになっています。

 改正実施細則の第85条~第87条に、専利開放許諾の表明の要件、専利開放許諾を実施してはならない状況などが規定されました。

 (2)強制代理の例外規定を追加

 在外者(中国に常駐住所又は営業場所を持たない外国人、外国企業又はその他外国組織)が専利出願を行なう場合、原則として専利事務を行う場合、法に基づき設立された専利代理機関に委託して処理しなければなりません(中国専利法第18条)が、以下の手続きについては、出願人または専利権者が在外者であっても、自ら手続きができるようになりました(改正実施細則第18条)。

 ①出願が優先権を主張する場合において、最初の専利出願の写しを提出すること。

 ②手数料等の料金の納付

 ③国務院傘下の専利管理部門が定めるその他の事項。

 (3)職務発明の報奨・報酬制度を整備

 改正専利法第15条の職務発明の規定に関連して、改正実施細則第92条~第94条に、職務発明の報奨の方法および金額について規定されました。

 

II.その他の注目すべき改正事項

1.実用新案の審査対象に進歩性(中国語では「創造性」)を追加

 実用新案専利出願の予備審査における審査対象として、進歩性が含まれることが明文化されました(第50条第2項)。

2.意匠関連の改正

 (1)部分意匠出願

 部分意匠の出願をするとき、全体図に実線と破線又はその他区別がつく方法で表記し、実線と破線を用いる場合を除き「意匠の簡単な説明」において保護を受ける部分を明記しなければならないこととしました(改正実施細則第30条、第31条)。

 (2)国内優先権の基礎となる出願の拡大(第35条)

 発明専利・実用新案専利出願を基礎として、意匠専利出願の国内優先権を主張することが可能となり、その場合、基礎出願はみなし取下げとはなりません。

 (3)ハーグ協定に沿った意匠の国際出願に関する規定の新設

 意匠の国際登録に関するハーグ協定(1999年版)に沿った、意匠の国際出願に関する特別規定が新たに設けられました(第136条~第144条)。この規定により、意匠の国際出願は、国務院の専利行政部門に提出された意匠専利出願とみなす旨を明確にし、優先権主張、新規性喪失の例外の猶予期間、分割出願などについて、国内の意匠専利出願制度との整合を図っています。

 (4)意匠専利出願についても進歩性を審査対象に追加

 意匠専利出願の予備審査についても、実用新案専利出願と同様に、進歩性(創造性)が審査対象となることが明記されました(第50条第3項)。

 

3.コンピュータプログラム関連発明の専利出願審査指南の改正

 改訂された審査指南は、コンピュータ実装発明によって保護される主題からコンピュータプログラム製品までを網羅し、人工知能、ビジネス手法などの新興技術分野における主題の適格性審査に言及しています。改正版審査指南の修正点は以下の通りです。

 (1)クレームの主題の種類の拡大

 コンピュータプログラムに関する発明専利出願のクレームは、プロセスクレーム、装置クレーム、またはコンピュータ読み取り可能な記憶媒体クレームとして起草することができ、改訂された審査指南に従って、保護されるプロセスを実装するコンピュータプログラム製品の形式で起草することもできます。

 (2)保護対象の範囲の拡大

 アルゴリズムの特徴またはビジネスルールおよび方法の特徴を含むクレームについては、所定の要件を満たす場合、技術的解決策としての適格性要件を満たす可能性があります。

 

III.経過措置

 改正専利法及びその実施細則の円滑な施行を確保し、改正後の専利実施細則の施行前後における、審査業務に関する条項の具体的な適用規則を明確にするために、CNIPAは、経過措置として、「改正専利法及びその実施細則の施行に係る審査業務対応に関する臨時的措置」(以下「本措置」)を制定し、2023年12月21日に公表しました。同措置は2024年1月20日から施行されています。

 本措置においては、改正専利法の施行日である2021年6月1日と、改正専利実施細則および改正専利審指南の施行日である2024年1月10日とを基準に、概ね次の事項が規定されています。本措置の条文の詳細は、下記「情報元3.(2)」をご参照下さい。

1.原則

 (1)出願日が 2021年6月1日以降の専利出願及びそれにより付与された専利権には、本措置の各条の特別規定を除いて、改正専利法の規定が適用される(本措置第1条)。

 (2)出願日が2024年1月20日以降の専利出願及びそれにより付与された専利権には、改正後の専利法実施細則が適用され、出願日が 2024年1月20日より前の専利出願及びそれにより付与された専利権には、本措置の各条の特別規定を除いて、改正前の専利法実施細則が適用される(本措置第1条)。

 (3)本措置を、2024年1月20日から施行すること(本措置第17条)。

2.特別規定

 本措置の第2条~第16条には、たとえば次の事項が規定されています。

 (1)2021年6月1日以降に可能となる事項

  改正専利法第20条1項に基づき、方式審査、実体審査及び不服審判中の専利出願を審査すること(本措置第9条)。

 (2)2024年1月20日以降に可能となる事項

  ①いわゆる在外者が、改正専利法第18条第1項に基づいて関連業務を自ら行うこと(本措置第2条)。

  ②改正実施細則第36条、第37条に基づき、優先権の回復、追加または修正を請求すること(本措置第3条)。

  ③出願人は改正実施細則第45条に基づき、基礎出願書類の引用による補正が可能となるのは、最初の提出日が2024年1月20日以降であること(本措置第4条)。

  ④各種電子データ書類の送達日として、改正実施細則第4条を適用すること。

  ⑤改正実施細則第9条の期限内に、CNIPAが出願人に秘密保持審査通知を発行すること(本措置第8条)。

[情報元]

1.CPA Newsletter 2023 Issue 5-7

 (1)CPA Newsletter 2023 Issue 5 “New Chinese Implementing Regulations and Guidelines for Patent Examination Just Published (I)”

 (2)CPA Newsletter 2023 Issue 6 “New Chinese Implementing Regulations and Guidelines for Patent Examination Just Published (II)”

 (3)CPA Newsletter 2023 Issue 7 “New Chinese Implementing Regulations and Guidelines for Patent Examination Just Published (III)”

 

2.集佳中国知財情報「中国が《国務院〈中華人民共和国専利法実施細則〉改正に関する決定》を発表(主な改正内容を付す)」(2023年12月6日)

              http://japan.unitalen.com/html/folder/23121380-1.htm

 

3.林達劉知識産権代理事務所 速報より「特許法実施細則(2023)及び特許審査指南(2023)の改正」

 (1)改正前特許法実施細則(2010)と改正特許法実施細則(2023)の対比表(日本語仮訳)

              http://www.lindapatent.com/taihihyou.pdf

 (2)「経過措置(日本語仮訳)」

              http://www.lindapatent.com/keikasochi.pdf

 

4.関連法令条文日本語訳文(ジェトロ北京事務局知財部)

 (1)中国改正専利法(2021年6月1日施行)

                   https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf

 (2)専利審査指南2010(改正前の条文)

                   https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20100201.pdf

 

5.2023年12月11日改正 中華人民共和国専利法の実施に関する細則(Google翻訳による仮訳 ファイル名「情報元5」)

 

6.隆安ニュースレター ビジネス/知財ニュース(2024年NO.1総174期)

  [担当]深見特許事務所 野田 久登