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意匠特許権の侵害成否判断において、機能的要素を除外し、装飾的要素のみを類否判断対象として対比すべきであることを明確にした、連邦巡回控訴裁判所判決

 2026年2月2日、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、Range of Motion Prods. v. Armaid Co., Case No. 23-2427 (Fed. Cir. Feb. 2, 2026)事件判決において、意匠特許権侵害の成否を巡る重要な判断を示しました。本判決は、意匠特許[i]のクレーム範囲が機能的要素を含まないことを明確にし、その結果として侵害判断における比較対象が大きく限定される点に特徴があります。

 本件では、「機能的要素を適切に除外した場合には、合理的な陪審が実質的類似性を認めることはできない」として、地方裁判所の略式判決(summary judgment)が維持されました。この判断は、近時のCAFCにおける「明白に異なる(plainly dissimilar)」アプローチ[ii]の流れを強く反映するものと言えます。

 以下、本件CAFC判決の概要を説明するとともに、日本の意匠権侵害判断との比較に言及します。

 

1.事件の背景

(1)意匠特許権侵害訴訟の提起

 Range of Motion Products, LLC(以下「RoM社」)は、米国意匠特許No. D802,155(以下「D’155特許」)を有し、この意匠特許は「全身用マッサージ装置(Body Massaging Apparatus)の意匠」を保護するものです。RoM社は、自社製品「Rolflex」についてこの意匠権を主張し、同業のArmaid Company Inc.(以下「Armaid社」)が販売するマッサージ機器「Armaid2」が D’155特許を侵害するとして、メイン州連邦地方裁判所(以下「地裁」)に訴訟を提起しました。

 Armaid社は以前より、自社製品である「Armaid1」に関する米国の実用特許(Utility Patent)[iii]を有しており、これはRoM社のD’155特許の出願時点で既に存在する先行技術でもありました。そのため、両製品は機能的な共通点を持っていることが示されています。

(2)三者比較図に基づく外観の比較

 地裁は、意匠特許権侵害の成否の分析のための類否判断に際し、D’155特許のクレームされた意匠、Armaid2、Armaid1の三者を横並びで示した、次頁に示す三者比較図(下記「情報元2」の第14頁に掲載された図)に基づいて、三者の形状を以下のように対比しています。

 (i)機能的外観(Functional Features

 地裁は、装置の基本構造および作動に不可欠な次の構造を機能的要素としました。

 (a)二本のアーム構造(クラムシェル状構造[iv]

 装置の左右に延びる二本のアーム部分の両側から身体を挟む構成、アームの湾曲形状、および開閉可能な構造は、腕や脚を挟み込んで保持し圧迫するという使用目的に直結する機能的構造です。

 (b)ローラー配置部分

 内部に設けられる回転ローラーの配置を前提とした開口部や支持構造も、マッサージ機能に直接関連するため、機能的と位置付けられました。

 (c)ベース(支持台)構造

 床や机上に安定して設置するためのベース形状も、基本的には機能的必要性に基づくものと判断されています。

 このように、三者比較図は、三者に共通する骨格的構造(アーム+ベース+ローラー支持部)が機能的外観であることを示しています。

 ii)装飾的外観(Ornamental Features

 一方で、地裁が侵害比較の対象としたのは、機能に必ずしも必然的でない視覚的特徴である「装飾的外観」であり、その代表的なポイントは、三者比較図に次のように現れています。

 (a)アーム外周の輪郭デザイン:同じ「挟む構造」でも、アームの外形のシルエットには機能とは無関係のデザイン上の選択の余地があります。

 (b)表面の形状処理:滑らかな連続曲線、角張った印象、あるいは段差や面取りの有無のような造形処理部分も、機能とは無関係です。

 (c)全体的プロポーション:アームとベースの比率、全体の高さや厚みの印象、視覚的なバランスも、機能とは関係なく選択可能です。

 

本件CAFC判決第14頁に掲載された三者比較図

(3)訴訟における主な争点

 本件訴訟では、意匠特許の侵害判断において「機能的要素」をどのように扱うか、が最大の争点となりました。米国の意匠特許は「新規性・非自明性」を有する意匠(ornamental design)」を保護するものであり、その範囲は意匠の装飾的側面に限定されます。したがって、機能的な理由によって形状が決定されている部分(Functional Elements)は、侵害判断の対象から除外すべきかどうかが問題となりました。

(4)地裁の判断

 地裁はRoM社(原告)およびArmaid社(被告)双方の証拠や主張を評価した上で、次のように判断しました:

 (i)D’155 特許に示される形状のうち、複数の要素(例:アームのクラムシェル状の形状、ベース部の形状等)は主として機能的な理由で採用されている。

 (ii)これらの機能的要素は、意匠特許の保護対象ではなく、侵害分析の際には除外して評価すべきである。

 (iii)機能的骨格を除いた後の装飾的シルエットや輪郭の違いに着目すれば、Armaid2の意匠はD’155特許のクレームされた意匠とは「明白に異なる(plainly dissimilar)」。

 以上の判断に基づいて、地裁は、「機能的要素を除外すると、残る装飾的要素は限定的となることから、本件意匠特許の保護範囲は極めて狭い」と結論し、Armaid2がD’155特許に実質的に類似していると合理的な陪審が判断することはないとして、Armaid2の非侵害を理由とする略式判決を下しました。

 

2.CAFCの判断

 上記地裁の略式判決に対してRoM社は、CAFCに控訴しましたが、控訴審においてCAFCは、主に以下の理由により上記地裁判断を支持しました。

(1)クレーム解釈の正当性

 意匠特許における侵害判断は、まず保護される意匠の範囲を特定、すなわちクレーム解釈(Claim Construction)を行い、次に被疑侵害製品(Accused Product)がその範囲に含まれるかを検討します。CAFC は、地裁が用いた「機能的要素の排除」は判例法(Sport Dimension, Inc. v. Coleman Co., Inc. (2016)CAFC判決[v]など)に沿った適切な分析であり、明らかな誤りはないと判断しました。

 具体的には、PHGテスト[vi]に基づき、少なくとも相当程度の要素が機能目的によるものであるため、それらを侵害比較から除外したのは正当であると認めています。

(2)侵害評価におけるOrdinary Observerテスト[vii]

 米国の意匠特許侵害評価で中心となるのはOrdinary Observerテストです。これは、「通常の購入者」が2つの意匠を比較して同一と誤認するかどうかで侵害の有無を判断するものです。CAFCは、このテストを次のように適用しました:

 (i)最初に機能的要素を除いた純粋な装飾的要素に基づいて、2つの意匠を比較する。

 (ii)装飾的要素において「実質的な類似性(substantial similarity)」がなければ、侵害と評価できない。

 本件では、地裁が両者の装飾的要素を比較した結果、「明白に異なる(Plainly Dissimilar)」[viii]として、通常の購入者が混同すると考えると合理的な陪審が判断することはないと判断しました。CAFCもこれを支持し、非侵害の判断を維持しました。

 

3.本件判決の意義

 本件は、意匠特許における侵害判断で機能性と装飾性の区別がどのように行われるべきかを改めて明確化した点で重要であり、特に以下の点が注目されます。

(1)装飾的範囲の限定

 この判決は、機能的に決定される形状は意匠特許の保護対象ではないと強く確認しました。これにより、意匠特許の実質的範囲は想像以上に狭くなる可能性があります。

(2)Ordinary Observer テストの適用

 単に全体の外観が似ているから侵害が認められるのではなく、機能的要素を適正に排除した後で、装飾的な類似性が実質的に存在するかどうかを慎重に評価する必要があることが強調されました。

(3)CAFC内の反対意見の存在

 本件ではCAFC内でも多数意見と反対意見とに意見が分かれました。特に反対意見は、Ordinary Observerテストを「Plainly Dissimilar」基準で行う現状に疑義を呈し、従来の「実質的な類似性(Substantial Similarity)」への回帰を求めています。

 この点は今後の意匠特許実務において重要な議論となる可能性があります。

 

4.日本の意匠権侵害判断との比較

(1)日本における意匠権侵害判断の考え方

 日本の判例実務では、意匠権の侵害判断において主として「意匠全体の印象」を基準とすることが一般的です。具体的には、登録意匠と被疑侵害製品とを、製品を分解することなく全体としての外観が類似するかどうかを比較します。この全体観察主義は、一般観察者が通常の注意をもって両者を見た際に生じる印象の差異に基づいて類否を判断します。

 言い換えれば、部分的要素が機能的な理由によるものかどうかにかかわらず、全体的な視覚的印象で比較されることが基本であり、たとえば、形状、配置、色彩、模様などの総合的な外観が類似しているかが重視されます。これは、日本で裁判例を通じて確立した基準です。

(2)本件CAFC判決におけるアプローチとの主な違い

 今回のCAFC判決は、米国的観点から意匠特許を機能性と装飾性で分けることを強調しましたが、日本では、米国とは以下のような異なる考え方が支配的です。

 i)機能性の排除の有無

 米国(CAFC):意匠特許では機能的に形状が決定される要素を除外して比較する必要性を強調します。

 日本:機能性の有無にかかわらず、登録意匠と被疑侵害製品とを全体としての外観で比較します。機能的な形状があるからといって自動的に比較対象から除外する、という考え方は一般的ではありません。

 ii)類否判断における機能的要素の位置付け

 米国:Ordinary Observer テストにおいて、装飾的要素を重点的に評価し、機能的類似は侵害判断に寄与しないと見る傾向があります。

 日本:分解せずに全体観察することで、印象の類似性を重視します。部分的に機能性が強い要素があっても、それが全体観察の印象にどう影響するかで評価します。

(3)まとめ

 日本では意匠侵害判断は全体印象の比較が原則であり、部分的要素の機能性を排除して評価するという発想は一般的ではありません。一方、米国CAFCは本件判決で「機能性の除外→装飾的要素の比較」という二段階的なアプローチを採用しました。本判決は、意匠保護の範囲の限定と侵害判断の明確化を主眼としており、日本的な全体観察とは手法や焦点が異なります。

[i] 意匠特許(Desing Patent)については、米国特許法第171条において次の『』内のように規定されています。(日本特許庁HP掲載の日本語訳を使用)

『第171条 意匠に関する特許

 (a)一般:製造物品のための新規,独創的かつ装飾的意匠を創作した者は,本法の条件及び要件に従い,それについての特許を取得することができる。

 (b)本法の適用性:発明に関する特許についての本法の規定は,別段の定めがある場合を除き,意匠に関する特許に適用する。

 (c)出願日:意匠の特許出願の出願日は,第112条に定める明細書及び求められる図面が提出される日とする。』

[ii] 「明白に異なる(Plainly Dissimilar)」アプローチとは、米国意匠特許侵害判断において、クレーム構成の後、Ordinary Observer テストにより特許意匠と被疑侵害品を比較する枠組みを前提としつつ、両者の視覚的印象が明らかに大きく異なる場合には、侵害を否定するという考え方です。通常は「substantially similar(実質的に類似)」か否かが問題となりますが、差異が顕著な場合には「plainly dissimilar(明白に異なる)」として非侵害とされます。

[iii] 米国において、Utility Patent(実用特許)は、発明の機能・構造・方法といった技術的思想を保護するものであり、「どのように機能するか」を対象とするのに対し、Design Patent(意匠特許)は、物品の装飾的外観(ornamental design)を保護するものであり、「どのように見えるか」を対象とします。

[iv] クラムシェル構造とは、二枚貝(clamshell)の殻のように、二つの部材が対向配置され、開閉動作によって対象物を挟み込む構造を言います。

[v] Sport Dimension, Inc. v. Coleman Co., Inc.(2016)CAFC判決(https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/15-1553.opinion.4-15-2016.1.pdf)は、OddzOn Prods., Inc. v. Just Toys, Inc. (1997)事件判決、Ethicon Endo-Surgery, Inc. v. Covidien, Inc. (2015)事件判決を引用し、意匠の一部に機能的な側面があっても、全体として装飾的なデザインであれば意匠特許として保護されるという法理を再確認しました。

[vi] PHGテストは、CAFCがPHG Technologies, LLC v. St. John Companies, Inc.(2006))において整理した、意匠特許における「機能性(functionality)」判断のための考慮要素であり、具体的には、①代替デザインの有無、②明細書の記載、③広告資料、④実用特許の存在、⑤設計上の必然性などを考慮して判断します。

[vii] Ordinary Observer テストは、意匠特許侵害の判断基準として「通常の購入者(ordinary observer)」の視点を採用したGorham Co. v. White(81 U.S. 511 (1871))事件CAFC判決により確立されました。このテストは、被疑侵害品が、通常の観察者にとって特許意匠と同一と誤認させるほど類似しているか否かによって侵害を判断するという原則に依拠しており、これは現在まで続く基本原則です。

[viii] 2つの意匠間の類否判断において「明白に異なる(Plainly Dissimilar)」との考え方を適用した主な判決は、Egyptian Goddess, Inc. v. Swisa, Inc.(2008)事件CAFC判決です。この判決においてCAFCは、侵害判断をordinary observerテストに一本化するとともに、比較の結果、2つの意匠が「明白に異なる(plainly dissimilar)」場合には、侵害は成立しないことを明確にしました。

[担当]深見特許事務所  野田 久登

[情報元]

     1. IP UPDATE (McDermott) “Relax, design patent claim scope doesn’t include functional elements”(February 12, 2026)

https://www.ipupdate.com/2026/02/relax-design-patent-claim-scope-doesnt-include-functional-elements/

     2. Range of Motion Prods. v. Armaid Co., Case No. 23-2427 (Fed. Cir. Feb. 2, 2026)事件CAFC判決原文

https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/23-2427.OPINION.2-2-2026_2641318.pdf