方法特許クレームのステップの暗黙の順序に基づく地裁の非侵害の略式判決を支持した米国連邦巡回控訴裁判所判決
2026年1月29日、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、特許侵害訴訟における2度目の控訴審の判決において、方法特許クレームにおけるステップの暗黙の順序に基づいて非侵害とした連邦地方裁判所の略式判決を支持しました。
Sound View Innovations, LLC v. Hulu, LLC, Case No. 24-1092 (Fed. Cir. Jan. 29, 2026) (Chen, Prost, Wallach, JJ.)
1.事件の背景
(1)本件対象特許の概要
本件の対象となったのは、米国特許第6,708,213号(以下「’213特許」)の1つの方法クレーム(method claim)で、この特許はインターネット上でストリーミングメディアを配信する際の待ち時間(latency)を低減し、配信品質を改善するための方法を開示しています。この方法は、いわゆる補助サーバ(helper servers)を経由してクライアントに対してコンテンツを配信する技術に関しており、特に問題となったクレーム16の英語原文および試訳は、以下の通りです。
16. A method of reducing latency in a network having a content server which hosts streaming media (SM) objects which comprise a plurality of time-ordered segments for distribution over said network through a plurality of helpers (HSs) to a plurality of clients, said method comprising:
receiving a request for an SM object from one of said plurality of clients at one of said plurality of helper servers;
allocating a buffer at one of said plurality of HSs to cache at least a portion of said requested SM object;
downloading said portion of said requested SM object to said requesting client, while concurrently retrieving a remaining portion of said requested SM object from one of another HS and said content server; and
adjusting a data transfer rate at said one of said plurality of HSs for transferring data from said one of said plurality of helper servers to said one of said plurality of clients.
16.(試訳)ストリーミングメディア(SM)オブジェクトをホストするコンテンツサーバを有し、前記SMオブジェクトが、複数のヘルパー(本件特許の明細書中ではHelper Server:以下「HS」)を通じて複数のクライアントに配信される複数の時間順セグメント[i]を含むネットワークにおける待ち時間(latency)を低減する方法であって、以下を含む:
前記複数のクライアントのうちの1つから前記複数のヘルパーサーバのうちの1つへのSMオブジェクトの要求を受信すること;
前記要求されたSMオブジェクトの少なくとも一部をキャッシュするために、前記複数のHSのうちの1つにバッファを割り当てること;
前記要求されたSMオブジェクトの前記部分を前記要求クライアントにダウンロードしつつ、前記要求されたSMオブジェクトの残りの部分を、他のHSまたは前記コンテンツサーバのいずれかから同時に取得すること;および
前記複数のヘルパーサーバのうちの1つから前記複数のクライアントのうちの1つへデータを転送するために、前記複数のHSのうちの1つでデータ転送速度を調整すること。
上記クレーム16に係る方法特許の侵害成否の判断においては、主としてクレーム16の以下のステップ(a)~(c)と被疑侵害システムが実施するステップとの対比が問題となりました。
(a)ストリーミングメディア(SM)オブジェクトの要求(request)を受信する。
(b)要求された(requested)前記SMオブジェクトの少なくとも一部をキャッシュする(キャッシュメモリに入れる)ためにバッファを割り当てる。
(c)前記少なくとも一部のSMオブジェクトをダウンロードする。
(2)特許侵害訴訟の提起
’213特許の特許権者である Sound View Innovations, LLC(以下「Sound View社」)が、動画配信サービスを提供する Hulu, LLC(以下「Hulu社」)に対し、’213特許の侵害を理由として、米国カリフォルニア州中央地区連邦地方裁判所(以下「地裁」)に特許侵害訴訟を提起しました。
(3)訴訟における主な争点
Hulu社の被疑侵害システムが’213特許のクレーム16に含まれる方法ステップを実行しているかどうかの判断において、以下の点が争点となりました。
(i)’213特許のクレーム16に記載されたステップがその出現順序で実行されることを要求しているのかどうか、および
(ii)Hulu社の実行方法が、’213特許のクレーム16が要求するステップの順序に合致しているかどうか。
(iii)’213特許のクレーム16に含まれる「バッファ」の解釈。
(4)地裁における当事者の主張
本件訴訟の提起に際してSound View社は、Hulu社が提供するコンテンツ配信システムの中のedge serversという補助サーバが、’213特許のクレーム16に記載された方法のすべてのステップを実施していると主張し、損害賠償等の救済を求めました。
これに対しHulu社は、自社のシステムはこれらのステップを’213特許のクレーム16に定められた順序で実行しておらず、また、クレーム16が要求するようなバッファを使用していないとして、非侵害の主張および略式判決(summary judgment)の申し立てを行いました。
(5)地裁の判断
地裁は、クレーム解釈(いわゆるMarkman手続[ii])を経た上で一定の解釈を示し、その解釈に基づき侵害の成否を判断しました。具体的には、地裁は、Hulu社のシステムが特許クレーム16に示されたステップを当該クレームが要求する順序で実行しておらず、Hulu社が使用するバッファが特許クレーム16で要求されているバッファとは異なるものであるとして、Hulu社の要請に応じ、非侵害の略式判決を下しました。その後、Sound View社はこの判決を不服としてCAFCに最初の控訴を行いました。
(6)最初の控訴審におけるCAFCの差戻し判決と、差戻し審における地裁の判断
CAFCへの最初の控訴審において争点の一つとなったのは、クレーム中の「バッファ」の意味でした。地裁はHulu社が使用する「バッファ」を比較的限定的に解釈していましたが、CAFCは、明細書の記載、クレームの文言および当業者の理解を踏まえた上で、地裁の「バッファ」の解釈の基本的方向性に誤りはないと判断しました。
ただし、CAFCは同時に、方法クレームにおける各ステップの順序について、クレームの文言上、明示的な順序指定があるか、あるいは論理的依存関係が存在するかという観点からの地裁の分析が十分ではないとの理由で、再検討が必要であると判断しました。その結果、地裁がそのクレーム解釈を前提に行った非侵害の略式判決については、事実関係の評価が十分ではないとして取り消し、地裁に差戻しました。
地裁は差戻し審において「バッファ」や「ステップの順序」についてより詳細に評価を行い、改めて非侵害の判決を下しました。これを受けてSound View社が再度CAFCに控訴しました。
2.再度の控訴審におけるCAFCの判断
(1)CAFCの主な検討事項
差戻し審における地裁の上記非侵害の判決を受けてSound View社が、再度CAFCに控訴し、CAFCは再度の控訴審において、主に次の二つの点を検討しました。
(i)’213特許のクレーム16における「バッファ」の解釈
地裁はクレーム16が要求する「バッファ」を、単なる一般的なデータの一時的保持領域ではなく、「特定のストリーミング対象(SM object)ごとに対応付けられた一時的保存領域」として限定的に解釈し、Hulu社のシステムのバッファはそのような一般的なバッファには該当しないとして非侵害と判断していました。
それに対してCAFCは、この地裁の解釈を批判し、クレーム16の「バッファ」はあくまで一般的かつ普通の意味の「一時的記憶装置(temporary storage)」であり、特定のSMオブジェクトに厳格に関連付けられた専用的バッファであることを要求しているとは言えないとの理由で、地裁の解釈は誤りと判断しました。
(ii)クレーム16に記載の方法ステップの順序
もっとも重要なのは、CAFCがクレーム16に含まれるステップ間の順序関係について判断した点です。特許の方法クレームでは、必ずしもステップが明示的に順序を指定していなくても、文法的あるいは論理的な依存関係がある場合には順序が要求されるという法理があります。これは、先にステップが行われなければ後続のステップが意味を持たないという依存関係がある場合に認められるものです。
本件では、クレーム16の最初のステップが「リクエストを受け取ること」であり、次のステップが「バッファを割り当てること」であるため、「リクエストされたオブジェクト」がなければバッファを割り当てることが意味を持たないことが、文法構造上の順序指定あるいは論理的依存関係が明らかでした。CAFCは、このような文法的あるいは論理的相互関係がある場合には、明示的に順序を記載していなくても、ステップがその出現順序で実行されることを要求するとの方針を確認しました。そのため、クレーム16は最初のステップ(リクエスト受付)を次のステップ(バッファ割当)より先に実行することを要求していると判断しました。
CAFCはさらに、方法のステップの暗黙の順序に関する判例に言及しました[iii]。CAFCの判例は、暗黙の順序を証明するために、もしもクレームされたステップがクレームに記載された順序で実行されない場合にはクレームに記載されたステップの実行が不可能になるであろうという認定までは要求していないことを確認し、したがって、暗黙の順序に関するCAFCの判例は、原告であるSound View社にとって有利にはならない、と指摘しました。
(2)CAFCの結論
CAFCはさらに、Hulu社のシステムがクレーム16に基づく最初の二つのステップを正確に順序どおりに実行していない点を確認しました。Sound View社側も、クレーム16で要求される順序通りにHulu社のシステムが実行していないことについて争わなかったため、クレーム16により特定されるステップの順序の要求をHulu社のシステムが満たしていないことが、争いのない事実とされました。その結果としてCAFCは、地裁による非侵害の略式判決を維持することが妥当であると判断しました。
3.本件CAFC判決の意義と実務上の示唆
本件判決が示した重要なポイントは、方法特許のステップ間で文法上や論理的依存関係により順序が特定される場合、明示的な順序指定がなくても、実行順序が要求されるという点です。これは、特許実務においてクレームの解釈や分析を行う際に、単にキーワードの並びを見るだけではなく、文法的あるいは論理的依存関係を精査する必要があることを示しています。
例えば、あるステップが他のステップの対象や条件を前提としている場合には、前提を含むステップが先行することが要求されると解釈され、その順序を充足しているか否かという観点から侵害成否が判断されることになります。また、方法クレームのステップ順序の解釈が、単なる文言解釈の問題にとどまらず、略式判決の段階で侵害の成否を決定づける可能性があるという点、すなわち、方法ステップの順序の要否は事件の帰趨を早期に左右し得る重要な論点であることを、本件判決は明確に示しました。
4.日本法(知財高裁判例等)との比較
(1)日本法の基本的考え方(特許法70条に基づく解釈)
日本では、特許発明の技術的範囲は特許法70条1項により、特許請求の範囲の記載に基づいて定められます。方法クレームに複数の工程が列挙されている場合、工程の「順序」については、クレーム文言に明示的な記載がない限り、順序が限定要素となるとは解されていません。
したがって、日本法では、順序が技術的範囲を限定するか否かは、クレーム文言および明細書の記載を踏まえた個別具体的な解釈問題として処理されるのが基本的な枠組みです。
(2)知財高裁判例の示唆(平成22年(ネ)第10043号等)
知財高裁平成22年(ネ)第10043号判決[iv](測定・補正工程に関する事件)では、方法発明の複数工程の技術的意義が検討されました。同判決は、工程の順序を形式的に侵害要件とするというよりも、各工程の機能や発明全体における役割を踏まえて充足性を判断しています。
このように、日本の裁判例では、順序が問題となる場合でも、それは抽象的な一般原則から当然に導かれるのではなく、あくまで発明の技術的内容に即して判断される傾向にあります。
(3)本件CAFC判決との差異
これに対し、本件CAFC判決は、方法クレームの各ステップに「文法上の順序指定」や「論理的依存関係」がある場合には、明示的な順序記載がなくても特定の順序が暗黙に要求されると整理しました。あるステップが他のステップの完了を前提とする場合、その前後関係自体がクレームの限定要素となるとした点に特徴があります。
この点で、日本法が文言および技術的意義に基づく個別的解釈を重視するのに対し、米国法は文法的相互関係、論理的依存関係という一般原則を用いて順序要件を導く点に、理論構造上の明確な差異があるといえます
[i] ’213特許のクレーム16における “time-ordered segment”のsegmentは、処理対象となるデータの一区画(情報単位)を意味します。これに対し、“step”は方法クレームにおいて「何をするか」を示す行為(プロセス単位)を意味する点で、“segment”と相違します。
[ii] マークマン手続(Markman Hearing/Order)は、米国の特許侵害訴訟において、裁判官が陪審員に先立ち、クレームの技術用語を解釈し、その法的な意味を確定する手続です。これは特許侵害の成否(非侵害や無効)を決定づける最重要の事前手続であり、多くの場合、この判断後に和解するか略式判決へ進みます。
[iii] Altiris, 318 F.3d at 1370 (citing Mantech Env’t Corp. v. Hudson Env’t Servs., Inc., 152 F.3d 1368, 1375–76 (Fed. Cir. 1998)).
[iv] 判決の要旨(https://www.courts.go.jp/ip/vc-files/ip/file/10043.pdf)
判決の原文(https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-81969.pdf)
[担当]深見特許事務所 野田 久登
[情報元]
1. IP UPDATE (McDermott) “Method steps must be done in order where there is logical dependency”(Feb 12, 2026)
2.Sound View Innovations, LLC v. Hulu, LLC, Case No. 24-1092 (Fed. Cir. Jan. 29, 2026) (Chen, Prost, Wallach, JJ.)事件CAFC判決原文
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-1092.OPINION.1-29-2026_2640097.pdf

