米国憲法第3条に基づく控訴人適格の欠如を理由にPGRの決定に対する控訴を却下したCAFC判決紹介
米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、米国特許商標庁(USPTO)の付与後レビュー(PGR)における特許審判部(PTAB)の最終書面決定を不服としてCAFCに控訴した控訴人が、具体的かつ差し迫った将来の損害のリスクを立証する責任を果たせなかったと判断し、「米国憲法第3条に基づく控訴人適格(Article III Standing)」の欠如を理由に、PGRの決定に対する控訴を却下しました。
ironSource Ltd. v. Digital Turbine, Inc., Case No. 2024-1831 (Fed. Cir. Apr. 7, 2026) (Moore, Lourie, Reyna J.J.)
1.事件の経緯
(1)本件特許について
モバイル広告企業であるDigital Turbine, Inc.(以下、「DT社」)は、モバイルアプリケーションのダウンロードおよびインストールのためのストリームライン化されたバックグラウンド処理に関する米国特許第11,157,256号(以下、「本件特許」)を保有しています。本件特許は、先行する米国特許第10,782,951号(以下、「先行特許」)から派生した継続出願に基づく特許であり、この先行特許自体は、先に行われた本件とは別のPGR手続きにおいて無効とされました。
(2)新たなPGRの申立
モバイル広告およびアプリ収益化プラットフォームを提供する企業であるironSource Ltd.(以下、「ironSource社」)は、かつて「クリックしてインストール(Click to Install)」機能を搭載したAuraという名称の製品(以下、「Aura製品」)を販売していました。ironSource社はかつてこのAura製品が上記の先行特許について侵害の責任を問われるかもしれないという「暗黙の脅威」に直面したため、Aura製品を設計変更し、さらに最終的には当該機能を備えた製品の提供を終了しました。
ironSource社はその後、Aura製品を市場に再投入することを希望し、先のPGRで無効となった先行特許から派生した継続出願に基づく本件特許のクレーム1-22について、米国特許法101条、102条、および103条に基づく様々な無効理由を主張して、PTABに新たなPGRを申請しました。
(3)PTABの結論
PTABは、先行特許に対する先のPGRにおいてPTABが行った決定内容に基づき、本件特許のクレーム1-22についてもすべて特許性を有しないと判断しましたが、一方でDT社による本件特許のクレームの訂正の提案を認めました。DT社はこれに応じて、クレームの範囲を狭める2つの限定事項を含む差し替えクレーム23-37を提出する訂正を行いました。
PTABは、ironSource社が、DT社によって新たに提出された差し替えクレーム23-37が、特許性を有しないことまたは特許保護の対象とならないことを立証する責任を果たしていないと結論付けた最終書面決定を発行しました。
(4)CAFCへの控訴
ironSource社は、差し替えクレーム23-37の提出を提案したDT社の訂正の申立を認めたPTABの決定を不服として、CAFCに控訴しました。
2.CAFCの判断
(1)米国憲法第3条に基づく連邦裁判所への提訴人適格(Article III Standing)
控訴審においてCAFCは、PTABにおいては米国憲法第3条に基づく請求人適格は要求されないが、PTABの決定に対する連邦高裁CAFCへの控訴には米国憲法第3条に基づく控訴人適格が必要である、と説明しました。
米国憲法第3条は、明文で提訴人適格(standing)を規定しているわけではなく、提訴人適格は、米国憲法第3条第2節(Article III, Section 2)の以下の条文から連邦最高裁判所の判例法によって導き出された概念です。
“The judicial Power shall extend to all Cases, in Law and Equity, arising under this Constitution, the Laws of the United States, and Treaties made, or which shall be made, under their Authority; … [and] to Controversies …”
この条文は概略「司法権は、この憲法、合衆国法、および条約の下で生ずるすべての『事件(Cases)』および『争訟(Controversies)』に及ぶ」という意味に解されます。連邦最高裁は、この「事件」または「争訟」という限定から、裁判所は抽象的な法律論や政策論を扱うのではなく、現実の利害対立を伴う具体的紛争のみを扱うという原則を導きました。その結果、連邦裁判所への提訴人(本件訴訟ではCAFCへの控訴人)は、連邦法に基づく下記の訴訟提起の要件を満たしていることを訴訟提起時に証明する責任を負います(Spokeo事件[i])。
(ⅰ)実際に損害を被っていること
(ⅱ)その損害が被告の行為に起因する可能性が高いこと
(ⅲ)有利な判決によって救済される見込みがあること
したがって、本件控訴事件において控訴人は、侵害の重大なリスクまたは侵害の主張をもたらす将来の行為の具体的な証拠を示す必要があります。
(2)控訴人の対応
この義務を果たすため、控訴人であるironSource社は上級取締役の一人による宣誓供述書を提出しました。宣誓供述書では、ironSource社がDT社の特許権を考慮してAura製品に対して行った過去の変更点や譲歩について説明されていました。また、ironSource社がAura製品を市場に再投入する意向であることも述べられていました。
ironSource社は、また本件特許の訂正前の元のクレーム1-22に焦点を当て、それらがDT社が以前ironSource社に対して侵害主張の可能性を示唆していた先行特許のクレームと「実質的に同一」であると主張しました。
(3)CAFCの結論
CAFCは、ironSource社が、Aura製品の機能と本件特許の訂正クレームとの関連性を立証する責任を果たせなかったと判断しました。CAFCは、ironSource社が、本件特許の訂正クレームにおいて限定事項の範囲が減縮されていたことを考慮に入れておらず、したがって、訂正後の差し替えクレーム23-37の侵害による実際の損害の可能性を立証できなかったことを強調しました。
最後に、CAFCは、本件訴訟とGeneral Electric事件[ii]とを区別しました。General Electric事件では、控訴人が自社の将来の製品を問題となっているクレームの限定事項に「間接的に」ではあったものの関連付けていたため、宣誓供述書が原告適格の十分な証拠を提供していました。これに対して、本件訴訟において、控訴人のironSource社の宣誓供述書は、そのような関連付けさえもできていませんでした。
以上の次第で、CAFCは、米国憲法第3条に基づく控訴人適格の欠如を理由に、PGRの決定に対する控訴を却下しました。
3.実務上の留意点
CAFCでの控訴審において、米国憲法第3条に基づく控訴人適格を証明するために提出する将来の損害に関する主張は、実施予定製品または実施予定行為を、本件で控訴人が行ったような訂正前の元のクレームの限定事項に関連付けた主張ではなく、訂正後の現に有効なクレームの限定事項に具体的に関連付けた主張でなければならないことに留意すべきです。
[i] Spokeo, Inc. v. Robins, 578 U.S. 330, 338 (2016)
[ii] General Electric Company v. Raytheon Technologies Corporation, 983 F.3d 1334 (Fed. Cir. 2020)
[担当]深見特許事務所 堀井 豊
[情報元]
1. McDermott Will & Emery IP Update | April 16, 2026 “Article III standing: Claims of future injury must be sufficiently tied to the claim limitations at issue”
2. ironSource Ltd. v. Digital Turbine, Inc., Case No. 2024-1831 (Fed. Cir. Apr. 7, 2026) (Moore, Lourie, Reyna J.J.)(本件判決原文)
(https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-1831.OPINION.4-7-2026_2672444.pdf)

