米国特許商標庁が、コンピュータ生成インターフェースおよびアイコンに関連する意匠特許出願の審査について、ガイダンスの改訂を発表
米国特許商標庁(USPTO)は、特にソフトウェアのユーザーインターフェースやアイコン、仮想/拡張現実(VR/AR)[i]、ホログラム[ii]等の新しいビジュアル表現を含む、進化するデジタル技術に、従来のガイダンスが十分に対応できていないとの問題提起を受けて、意匠特許出願の審査に関するガイダンスを2026年3月13日付で改訂しました。
1.「製造物(article of manufacture)」[iii]の要件とその見直し
米国における意匠特許制度は、「製造物のための新規、独創的かつ装飾的意匠」を保護するものであり(米国特許法(35U.S.C.)§171(a)[iv])、単なる画像や一過性の表現では保護対象となりません。ただし、インターフェースやアイコンといった、単なる画像や一過性の表現とはいえない「コンピュータ生成の視覚的意匠」については、どのように「製造物」に関連付けるべきかが長年の課題でした。
従来の審査ガイダンスでは、コンピュータ生成の意匠を意匠特許として認めるために、図面に実際のモニターや端末ディスプレイを実線や破線で必ず示すことが求められていました。これは、意匠が「製造物」に体現されていることを明確にするためです。
しかしながら今回のガイダンス改訂では、この要件が撤廃されました。具体的には、以下の点が改訂されました。
タイトルとクレームにおいて、意匠がどの「製造物」に係るものかが適切に記載されていれば、図面にディスプレイ装置を描く必要はありません。たとえば「コンピュータ用のインターフェース」や「コンピュータシステム用のアイコン」などといった記載があれば、本要件は満たされると判断されます。
この変更により、図面の形式に起因する技術的な制約が大きく軽減され、デジタル意匠[v]の出願が実務上容易になると期待されています。
なお、このガイダンスは、USPTO内部の管理事項として発展してきたものであり、実体法を構成するものではなく、法的効力を有しておりません。したがって、このガイダンスは、実体法か手続法かを問わず、何者かがUSPTOに対して行使可能な権利や利益を生じさせることを意図したものではありません。意匠特許出願に対する審査は引き続き米国特許法§102、§103、§112を含む特許性に関して適用可能なすべての実体規定の下で行われます。USPTO職員がこのガイダンスに従わなかったことは上訴や請願の対象とはなり得ないことに注意すべきです。
2.PHVAR(Projected, Holographic, Virtual/Augmented Reality)意匠の明示的な取扱い
今回の改訂後のガイダンスで最も重要な点の一つは、プロジェクション、ホログラム、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)といった「物理的装置の表面に固定されない意匠」が、ある条件の下で意匠特許の対象になると明示されたことであり、具体的には次の2点が示されています:
(i)意匠自体がコンピュータやそのディスプレイ装置から独立した形で視覚的に存在していること(たとえば空間に投影されたインターフェースやVR空間内の操作画面)。
(ii)クレームやタイトルで、その意匠が「コンピュータ/システム用である」と明確に記載されていること。
これらの2つを満たしていれば、意匠がスマホ画面やモニター等の特定のディスプレイの表面に貼り付いている形で存在していなくても、製造物への関連付けとして許容され得るとされています。すなわち、「コンピュータ用である」等の記載により製造物との関係が明確であれば足りることになります。
これにより、従来は保護対象として明確に認められていなかったVR/AR/ホログラム等により実現される空間意匠[vi]も、意匠特許として付与される可能性が高まったと考えられます。
3.クレームおよびタイトル表現の拡充
今回改訂されたガイダンスでは、従来の厳格な表現ルールが緩和され、製造物との結びつきを示す言語表現が拡充されています。受け入れられる例としては:
(a)「コンピュータ用アイコン(Icon for a computer)」
(b)「コンピュータシステム用インターフェース(Interface for computer system)」
(c)「表示パネル用GUI(GUI[vii] for display panel)」
(d)「拡張現実インターフェース(Augmented reality interface for a computer)」
といった形式が挙げられます。重要なのは、単に表示される意匠を記載するだけでなく、どの製造物に係る意匠であるかを言語で明示することです。
この「~用(for …)」という表現は、従来は必ずしも許容されないケースもありましたが、今回改訂されたガイダンスで明確に有効であると確認されました。
4.審査手順に関する改訂のポイント
改訂されたガイダンスでは、審査官がどのように「製造物」の要件を評価するかについても手順が整理されています。主なポイントは次の通りです:
(i)クレームとタイトルを読み、意匠がどの製造物に係るかを判断。
(ii)図面が物理的なディスプレイを描いていない場合でも、上記の記載が適切であれば拒絶理由としない。
(iii)PHVAR意匠の場合は、それが独立した視覚的対象として具体化されているかを確認。
(iv)ただし、一過性あるいは抽象的なだけの画像(transient/disembodied picture)については依然として意匠保護の対象外であるとの原則は維持。
これらのガイドラインは、審査の一貫性と透明性を高めることを目的として盛り込まれています。
5.実務上の影響と戦略的留意点
今回のガイダンスの改訂は、単に技術的要件を緩和するだけではなく、デジタルファースト[viii]の意匠保護戦略、すなわち、デジタルを前提とした意匠保護の進め方そのものに大きな影響を与えます。そのため、以下の点を踏まえて対応を検討する必要があります。
(i)図面の作成負担が軽減されることにより、出願準備が効率化されること。
(ii)VR/AR/ホログラム等により実現される空間意匠が意匠保護の候補となること。
(iii)明確なタイトルやクレームの記載が審査通過の鍵となり得ること。
(iv)他国(EU、JP、KR等)の制度との差異を踏まえた戦略策定が有効であること。
ただし、申請者側は引き続き「デザインが安定的かつ具体的に視認可能であること」を意識した図面や説明での表し方を行う必要があります。曖昧な形状や、光や動きなどの見た目の変化だけを示した表現では、保護対象にならない可能性があるためです。
本ガイダンス改訂は、意匠特許制度がデジタル時代の技術進歩に対応して進化する重要な転換点です。従来の物理的表現に縛られない柔軟な保護対象の提示によって、ソフトウェアやインターフェース、空間意匠といった新しい領域に対しても、意匠制度を活用した権利化の道が広がりました。実務的には、クレームおよびタイトルの明確な記載、意匠の具体的な描写、および、PHVAR意匠の特徴を正確に捉えた戦略的出願設計が、今後一層重要になります。
6.日本の意匠実務との相違点
今回改訂された意匠特許審査ガイダンスに表れた米国の意匠特許実務の特徴と、日本の意匠実務との相違は、以下の通りです。
(1)「物品性」の扱いの違い
日本では、法律上、「物品・建築物・画像」といった類型が明示されています。特に「画像」については、独立の保護対象として制度的に整理されています。これに対し米国では、「製造物」という単一の概念の中にすべてを包摂する構造となっており、GUIなどについても、その枠組みの中に位置付けられています。
このように、日本が制度的に整理された体系を採っているのに対し、米国は解釈により適用範囲を拡張している点に違いがあります。
(2)画像・GUIの保護アプローチ
日本では、一定の要件の下で画像単体でも保護が可能とされています。また、表示媒体との結合は必須ではなく、一定の場合には画像自体が独立して意匠として認められます。これに対し米国では、あくまで「製造物に係る意匠」であることが必要とされており、この点は今回の改訂においても維持されています。
このため、米国の方が依然として「物への関連付け」をより強く要求する傾向があるといえます。
(3)仮想的意匠、空間的意匠の位置付け
日本では、仮想的な表示についても、操作画像や表示画像として画像意匠の枠組みの中で整理することが可能です。ただし、用途や機能との関係が求められるため、保護対象は一定の範囲に限定されます。これに対し米国では、PHVAR(プロジェクション、ホログラム、VR/AR等)が明示的に肯定されており、比較的広い概念で取り込むことが可能とされています。
この点については、米国の方が柔軟に見える側面があります。
(4)図面と文章の役割
日本の意匠実務では、図面を中心とした運用がなされています。したがって、願書および図面が主たる役割を果たしており、文章による補完は限定的です。これに対し米国では、図面に加えてタイトルやクレームの記載が重要な役割を果たしており、今回の改訂により、その傾向はさらに強まっています。
このように、日本よりも米国の方が、言語による記載内容の工夫が、保護範囲や審査結果に影響する度合いが大きいといえます。
[i] 仮想現実:VR(Virtual reality)/拡張現実:AR(Augmented Reality)
[ii] ホログラムとは、光の干渉を利用して、物体の三次元的な情報(立体的な見え方)を再現する表示技術、またはその像をいいます。
[iii] 本ガイダンスでいう「製造物(article of manufacture)」とは、人為的に作られた個別具体的な物品を意味します。
[iv] 米国特許法(35U.S.C.)第171条の原文および和訳
(原文)35U.S.C.§171 Patents for designs.
(a) IN GENERAL.—Whoever invents any new, original, and ornamental design for an article of manufacture may obtain a patent therefor, subject to the conditions and requirements of this title.
(和訳(日本特許庁HPより))
第171条 意匠に関する特許
(a) 一般 –製造物のための新規、独創的かつ装飾的意匠を創作した者は、本法の条件及び要件に従い、それについての特許を取得することができる。
[v] 「デジタル意匠(digital designs)」について、USPTOは、そのHPの「Digital designs and non-fungible tokens」(https://www.uspto.gov/ip-policy/industrial-design-policy/digital-designs-and-non-fungible-tokens)という解説ページにおいて、次のような例を挙げています:
・computer-generated icons(コンピュータ生成アイコン)
・projections(投影表示)
・holograms(ホログラム)
・virtual and augmented reality(VR/AR)など。
これを踏まえると、USPTOの実務上の「デジタル意匠」とは、概ね、コンピュータやその他のデジタル技術によって生成され表示される視覚的デザインを指すと理解できます。
[vi] 空間意匠とは、特定の物理的な画面や表面に固定されず、空間内に現れる(または空間内に広がる)視覚的意匠を指します。
[vii] GUI(Graphical User Interface)とは、画面上のアイコンやボタン、メニューなどをマウスや指で操作するコンピュータ操作画面のことを意味します。
[viii] 「デジタルファースト」とは、「デジタル環境での利用を出発点とする設計思想」を意味しています。
[担当]深見特許事務所 野田 久登
[情報元]
1. IP UPDATE (McDermott) “Virtually displayed: USPTO updates guidance for computer-generated interfaces and icons”(March 26, 2026)
2. A Notice by the Patent and Trademark Office on 03/13/2026 “Supplemental Guidance for Examination of Design Patent Applications Related to Computer-Generated Interfaces and Icons”(USPTOのガイダンスの全文)

