国・地域別IP情報

国外販売に基づく損害賠償の算定を問題視し、陪審評決の一部を取消した米国連邦巡回控訴裁判所判決

 

 国外でのソフトウェア販売に結びつく特許侵害に対する損害賠償額について、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、特許を侵害するとして告発されたソフトウェアのコピーが国外で作成され、インストールされたため、国外販売に基づく損害賠償が不適切に含まれていると判断し、1億8500万ドルの損害賠償を認定した陪審判決を取り消しました。

              Trustees of Columbia Univ. v. Gen Digital Inc., Case No. 24-1243 (Fed. Cir. Mar. 11, 2026) (Dyk, Prost, Reyna, JJ.)

 

1.事案の背景

(1)当事者の概要および特許侵害訴訟の提起

 Columbia大学は、異常なプログラム実行を検知する技術に関する、明細書が共通する2件の米国特許No.8,601,322(以下「’322特許」)およびNo.8,074,115(以下「’115特許」)を所有しています。Columbia大学の理事会は、Nortonブランドのソフトウェアを販売するGen Digital Inc.(以下「Gen Digital社」)に対し、’322特許および’115特許の複数のクレームの侵害を主張して、バージニア州東部地区連邦地方裁判所(以下「地裁」)に訴訟を提起しました。

(2)本件対象特許の概要

 特許侵害訴訟の対象となった2件の特許(’322特許および’115特許)は、エミュレーション技術[i]および関数呼び出しモデルを用いて、プログラムの挙動を比較し分析することで、異常を検出する技術に関するものです。代表的なクレームである’322特許の独立クレーム12の原文および試訳は、以下の通りです。

********

12. A method for detecting anomalous program executions, comprising:

              executing at least a portion of a program in an emulator;

              comparing a function call made in the emulator to a model of function calls for the at least a portion of the program, wherein the model is a combined model created from at least two models created using different computers; and

              identifying the function call as anomalous based on the comparison.

12.(試訳)異常なプログラム実行を検出する方法であって、以下のステップ、すなわち、

 プログラムの少なくとも一部をエミュレータで実行するステップ;

 エミュレータで行われた関数呼び出しを、プログラムの少なくとも一部に対する関数呼び出しのモデルと比較するステップ;および

 前記比較に基づいて、関数呼び出しを異常であると識別するステップ、を含み、

 前記モデルは、異なるコンピュータを使用して作成された少なくとも2つのモデルから作成された結合モデルである。

********

(3)地裁の判断

 第一審である地裁では、主として、特許適格性、侵害およびその故意性、損害額の算定、懲罰的損害および弁護士費用について争われました。地裁は、特許適格性については、クレームは抽象的概念に向けられたものではないとして適格性を認めました。また、陪審が侵害および故意侵害を認定する評決を下し、約1億8500万ドルの損害賠償を認めました。このうち約9400万ドル以上は、米国外顧客向けソフトウェア販売に基づく損害として算定されていました。

 さらに地裁は、陪審の評決に基づいて、被告側代理人の訴訟対応に関する不適切行為を理由に、侮辱命令(contempt order)に基づく不利な推認(negative inference)を認め、これを根拠として損害の増額および弁護士費用の付加を認めました。

 ここで「侮辱命令」とは、主に英米法諸国において、裁判所が発した差止命令などの命令に従わない行為に対して、裁判所が下す制裁命令を意味します。また「不利な推認」とは、被疑侵害者等が裁判所の命令に従わずに証拠開示を拒否した場合、「何かを隠しており、事実を認めると不利になるから黙っている」と解釈し、不利な証拠として扱う考え方を言います。

 

2.CAFCの判断

(1)特許適格性について

 特許の適格性(米国特許法第101条)を評価するために、本件判決においてCAFCは、Mayo事件最高裁判決(2012年)およびAlice事件最高裁判決(2014年)に基づくMayo/Aliceの2パートテスト[ii]を適用しました。

 CAFCはまず、クレームがMayo/Aliceの2パートテストのステップ1において、クレームされた発明が抽象的アイデアに該当すると判断しました。具体的には、本件クレームは「プログラムの挙動をモデルと比較して異常を検出する」という抽象的概念に向けられていると評価されました。さらに、明細書に記載された技術的改良(効率向上や選択的エミュレーション等)は、クレーム上必須の構成として限定されていない点が重視されています。

 その結果、第一審の「抽象的でない」とする判断は覆され、ステップ2の検討のために差戻しとされました。この点は、近年のCAFC判例[iii]の流れと同様に、「明細書に記載された技術的改善」ではなく「クレームに具体的に記載された構成」に基づいて判断するという厳格な姿勢を再確認するものです。

(2)特許侵害および侵害の故意性について

 侵害および故意侵害に関する第一審の判断については、CAFCは基本的に維持しました。すなわち、証拠に基づく陪審の判断を覆すべき理由はないとされています。この点から、本件は「侵害自体は認め得るが、特許の有効性および損害算定の枠組みが問題となった事案」であると言えます。

(3)損害額算定について

 本件の最も重要な論点の一つが、米国外での売上に基づく損害の扱いです。第一審は、米国内で開発され提供されたソフトウェアが国外の顧客に販売されたことを理由に、国外売上も損害額に含めました。

 しかしながらCAFCは、この判断を誤りとしました。問題となったソフトウェアのコードが国外で複製されインストールされており、このような場合には米国特許法の域外適用は制限されるべきであるとの理由で、第一審の判断を誤りであると結論付けました。その結果、CAFCは、国外売上に基づくロイヤルティ部分については損害賠償から除外すべきであるとして、差し戻し審における損害額の再計算を命じています。

 この点は、ソフトウェアの「コピーを取得した場所」および「実施行為の場所」を重視する近年の判例傾向[iv]を強く示すものです。

(4)懲罰的損害および弁護士費用

 第一審では、被告代理人に対する侮辱命令を前提として、不利な推認を適用し、これを損害増額(enhanced damages)および弁護士費用付加の根拠としていました。しかしながらCAFCは、別事件[v]において当該侮辱命令自体を取り消したため、本件における増額判断および弁護士費用の判断も維持できないとしました。

 さらに、CAFCは以下の点も問題視しています。

 (i)訴訟行為の評価が過度に厳格であった可能性

 (ii)事件の「接近性(closeness)」[vi]の検討不足

 (iii)被告の抗弁の合理性を十分に考慮していない点

 これらを踏まえ、懲罰的損害および弁護士費用についても再検討が必要とされました。

 

3.本判決の意義

(1)クレーム重視の§101判断の再確認

 本判決は、明細書における技術的改善ではなく、クレーム記載の具体性に基づいて特許適格性を判断するという原則を再確認したものです。ソフトウェア特許においては、実質的な技術的特徴をクレームに適切に反映させる必要性が一層強調されます。

(2)ソフトウェアにおける域外損害の制限

 国外ユーザー向けのソフトウェア提供に関して、どこで「コピー」が作成・実装されたかが損害算定の鍵となる点が明確化されました。クラウド配信[vii]やダウンロード型ビジネスが主流となる中で、本判決は損害論における地理的要素の重要性を示しています。

(3)訴訟行為と損害増額の関係

 訴訟上の不適切行為を理由とする損害増額については、その前提となる制裁判断の適法性が厳格に問われることが示されました。また、「事件の接近性」や合理的抗弁の存在も重要な考慮要素であることが改めて確認されています。

 

4.実務上の示唆

 本判決から得られる実務上の示唆は以下のとおりです。

 (i)まず、ソフトウェア関連特許においては、抽象的なアルゴリズム説明にとどまらず、具体的な技術的手段をクレームに明確に落とし込むことが不可欠です。特に、効率化や性能向上といった効果を主張する場合には、その実現手段をクレーム上の必須構成として規定する必要があります。

 (ii)次に、グローバル展開を前提とするソフトウェアビジネスでは、開発地・配信地・インストール地といった複数の地理的要素が損害論に直接影響するため、事前の法的整理が重要です。

 (iii)さらに、訴訟対応においては、過度な主張や手続違反が後の損害増額判断に影響し得る一方で、合理的な抗弁を尽くすこと自体は「不誠実」と評価されるべきではない点にも留意が必要です。

 

5.本件CAFC判決と日本および欧州における特許法上の域外適用との比較

 本件CAFC判決(Columbia University v. Gen Digital)は、ソフトウェア特許侵害に基づく損害賠償の範囲、とりわけ国外売上や国外インストール行為をどこまで米国特許法上の損害として取り込めるかをめぐる重要な判決です。本件では、米国内で開発されたソフトウェアであっても、国外ユーザー向けコピーが国外で生成されインストールされていた点が重視され、国外売上部分について損害賠償の対象から除外すべきと判断されました。

 このような「コピー生成地」や「実施行為地」を重視する考え方は、特許法の属地主義(territoriality principle)を強く反映したものといえます。他方、日本法および欧州法においても属地主義は基本原則ですが、その適用構造や分析手法には一定の違いがあります。

(1)日本との比較

 日本の特許法も原則として属地主義を採用しており、日本国内で行われた実施行為のみが日本特許権の効力範囲に属します。そのため、国外で行われた製造、使用、販売等については、原則として日本特許権侵害は成立しません。

 もっとも、日本では近年、ネットワーク型サービスやクラウド提供を念頭に、「実施行為地」を柔軟に解釈する傾向が見られます。代表例として、ドワンゴ対FC2事件知財高裁大合議判決(令和5年5月26日)[viii]が挙げられます。同判決では、動画配信システムの一部サーバが国外に存在していても、サービス提供の実質的中心が日本にある場合には、日本国内で「システムの生産」や「電気通信回線を通じた提供」が行われたと評価し得ることが示されました。この点は、本件CAFC判決が「コピーがどこで生成されたか」という技術的要素を重視したことと対照的です。

(2)欧州との比較

 欧州でも属地主義が基本原則ではありますが、欧州特許は各国ごとの特許の集合体(bundle of national rights)として扱われ、侵害の成否も各国法ごとに判断されます。そのため、従来の欧州実務では、特定国の領域内で侵害行為が行われたかが重視されてきました。

 もっとも、近年のUPC(統一特許裁判所)実務では、国境をまたぐ供給行為やネットワーク型サービスに対して、比較的広範な保護を認める方向性も見られます。特に間接侵害に関する「double territoriality(双方向領域性)」論では、供給行為自体はUPC加盟国内で行われていても、最終的な直接実施が別国で行われる場合に、どこまで侵害責任を認めるかが議論されています。

 また、欧州では「発明の本質的利用」がどこで行われているかを重視する傾向があり、純粋にコピー生成地のみで判断する米国型アプローチとはやや異なります。特にクラウド配信型サービスでは、ユーザー利用地や経済的効果発生地を重視する議論が比較的受け入れられやすい傾向があります。ただし、UPC実務は現在形成途上であり、属地主義との均衡をどのように図るかが継続的論点となっています。

 

[i] エミュレーション技術とは、あるコンピューターのハードウェアやOSの動作を、別の環境上でソフトウェア(エミュレーター)を用いて疑似的に再現し、本来動かないはずのアプリやゲームを実行する技術を言います。

[ii] Mayo/Aliceの2パートテストは、米国特許法101条に規定する特許適格性を、次の2つのステップにより判断するものです。

 ステップ1:特許クレームが、判例法上の例外としての「自然法則」、「自然現象」、「抽象的アイデア」のいずれかを対象とするかどうかを判断。

 ステップ2:これらのいずれかを対象とする場合、特許適格性を有しない主題を、特許適格性を有する応用(patent eligible application)に変換するのに十分な発明概念が、付加的要素としてクレームに含まれるかどうかを判断。

 Aliceテストの詳細については、たとえば、弊所ホームページの「国・地域別IP情報」において配信した、以下のURLの記事をご参照下さい。

        https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/9043/

        https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/8857/

        https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/7327/

[iii] 代表的な判例として、以下の判決が挙げられます。

➀ Yu v. Apple(Fed. Cir. 2021)(https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/20-1760.opinion.6-11-2021_1789244.pdf

② American Axle & Manufacturing, Inc. v. Neapco Holdings LLC(Fed. Cir. 2020)(https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/18-1763.order.10-23-2020_1674428.pdf

[iv] 海外で複製されたコピーについて米国特許法271条(f)責任を否定した代表的な判例として、次の2件が挙げられます。

 ➀ Microsoft Corp. v. AT&T Corp.(https://tile.loc.gov/storage-services/service/ll/usrep/usrep550/usrep550437/usrep550437.pdf

 ② Power Integrations, Inc. v. Fairchild Semiconductor International, Inc.(https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/16-2691.order.9-20-2018.3.pdf

[v] ここで「別事件」とは、同日にCAFCが判断したcompanion case(併行事件)である、The Trustees of Columbia University in the City of New York v. Gen Digital Inc., et al., Case No. 2024-1244を指しています。これは、本件侵害訴訟(24-1243)とは別番号で審理された、「Quinn Emanuel Urquhart & Sullivan LLP に対する侮辱命令(contempt order)」そのものを争う控訴事件です。

[vi] 本件でいう「事件の接近性(closeness of the case)」とは、「被告側の主張にもそれなりの合理性があり、勝敗が明確だったとはいえないこと」を意味します。これは主として、弁護士費用負担(米国特許法第285条)や故意侵害に基づく損害増額(enhanced damages)を認めるべきかを判断する際に用いられる考慮要素であり、本件CAFC判決では、特に判決原文第31頁最初の完全なパラグラフ及び2つ目の完全なパラグラフにおいて、「本件はclose caseであり、被告側の主張にも一定の合理性が存在した」という考え方が示されています。

[vii] 「クラウド配信(cloud-based delivery)」とは、ソフトウェアやデータを、ユーザー端末に完全インストールさせるのではなく、ネットワーク経由でサーバ上から提供して利用させる形態を意味します。

[viii] https://www.courts.go.jp/ip/vc-files/ip/2023/4n10046chizaisaishuu.pdf

[担当]深見特許事務所 野田 久登

[情報元]

     1. IP UPDATE (McDermott) “Code, copies, and consequences: $185 million verdict uninstalled!”(March 26, 2026)

        https://www.ipupdate.com/2026/03/code-copies-and-consequences-185-million-verdict-uninstalled/

     2. Trs. of Columbia Univ. v. Gen Digital Inc., Case No. 24-1243 (Fed. Cir. Mar. 11, 2026) (Dyk, Prost, Reyna, JJ.)事件CAFC判決原文

        https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-1243.OPINION.3-11-2026_2659539.pdf