IPRで争点となっているクレーム解釈について文法上の通常の修飾関係を考慮しなかったとしてPTABの決定を破棄したCAFC判決紹介
米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、米国特許商標庁(USPTO)の特許審判部(PTAB)が、当事者系レビュー(IPR)で争点となっているクレームの用語に平易な意味を適用する際に、一般的な文法上の修飾関係を考慮しなかったとして、PTABの決定を破棄しました。
Netflix, Inc. v. DivX, LLC, Case No. 24-1541 (Fed. Cir. Feb. 13, 2026) (Moore, C.J.; Dyk, Taranto, JJ.)
1.本件特許の内容
DivX, LLC(以下、「DivX社」)は、部分的に暗号化されたメディアコンテンツをストリーミングするためのシステムおよび方法に関する米国特許第10,225,588号(以下、「本件特許」)を所有しています。
本件特許は、デジタル著作権管理(DRM)技術である暗号化/復号化を用いて、メディアコンテンツのストリームを不正アクセスや複製から保護します。この技術では、ユーザーがストリーミングされたメディアコンテンツを視聴するために、暗号化された情報が再生デバイスに中継される必要があります。本件特許では、ストリーミングされたメディアの一部を暗号化することで、暗号化/復号化に必要なリソースを削減し、暗号化された部分に関する情報と「共通の」復号化情報とを再生デバイスに提供する技術が開示されています。
本件特許の代表的なクレームとして、クレーム1を示します(文中の太字の強調部分は本件訴訟のCAFCの判決原文に従ったものです)。
**********
1. [a] A playback device for playing protected content from a plurality of alternative streams, comprising:
[b] a set of one or more processors; and
a non-volatile storage containing an application for causing the set of one or more processors to perform the steps of:
[c] obtaining a top level index file identifying a plurality of alternative streams of protected
video, [d] wherein each of the alternative streams of protected video includes partially encrypted video frames [e] that are encrypted using a set of common keys comprising at least one key, [f] and wherein the partially encrypted video frames contain encrypted portions and unencrypted portions of data;
[g] obtaining a copy of the set of common keys;
[h] detecting streaming conditions for the playback device;
[i] selecting a stream from the plurality of alternative streams of protected video based on the
detected streaming conditions;
[j] receiving a container index that provides byte ranges for portions of the selected stream of protected video within an associated container file;
[k] requesting portions of the selected stream of protected video based on the provided byte ranges;
[l] locating encryption information that identifies encrypted portions of frames of video within the requested portions of the selected stream of protected video;
[m] decrypting each encrypted portion of the
frames of video identified within the located encryption information using the set of common
keys; and
[n] playing back the decrypted frames of video obtained from the requested portions of the selected stream of protected video.
**********
2.本件訴訟の経緯
(1)特許侵害訴訟の提起
DivX社はNetflix, Inc.(以下、「Netflix社」)が本件特許を侵害したとして、Netflix社を相手取って特許侵害訴訟を提訴しました。
(2)IPRの請願
これに対してNetflix社は、本件特許のすべてのクレームについて先行技術文献により自明であると主張して、USPTOにIPRを請願しました。
IPRで争点となったのは、上記のクレーム1の中で太字で示した段落[1]の限定“locating encryption information that identifies encrypted portions of frames of video within the requested portions of the selected stream of protected video”のクレーム解釈であり、2通りの解釈が対立しました。
(ⅰ)特許権者であるDivX社の解釈(解釈A)
DivX社は、この限定に関して、「暗号化情報(encryption information)」自体が、「保護されたビデオの選択されたストリームの要求された部分内において(within the requested portions of the selected stream of protected video)」特定されなければならない、と主張しました。すなわち、この解釈Aによれば、原文中の“that identifies encrypted portions of frames of video”という関係代名詞節は、“encryption information”を先行詞としその内容を説明する形容詞節として挿入されたものであり、後続の“within the requested portions of the selected stream of protected video”は、この関係代名詞節の中の“encrypted portions of frames of video”ではなく、その前の“locating encryption information”を修飾するものと理解されます。
(ⅱ)Netflix社の解釈(解釈B)
これに対してNetflix社は、原文中の“that identifies encrypted portions of frames of video within the requested portions of the selected stream of protected video”全体が“encryption information”を先行詞としその内容を説明する形容詞節として挿入されたものであり、したがって、「暗号化情報(encryption information)」は、それがどこで特定されるかに関わらず、「保護されたビデオの選択されたストリームの要求された部分内において(within the requested portions of the selected stream of protected video)」、「ビデオのフレームの暗号化された部分(encrypted portions of frames of video)」を識別できさえすればよい、と主張しました(以下、解釈B)。すなわち、この解釈Bによれば、“within the requested portions of the selected stream of protected video”は、直前の“encrypted portions of frames of video”を修飾するものと理解されます。
(ⅲ)PTABの判断
PTABは、DivX社の提案した解釈Aは限定的過ぎるとみなして、より限定的ではない解釈Bを採用しました。この結果、PTABは、より限定的ではない解釈Bの下では、Netflix社が主張するように本件特許のクレームは先行技術の組合せによって教示されたであろうということには同意しました。しかしながらPTABは、先行技術文献における特定の記述に鑑み当業者はそのような組合せに「成功の合理的期待(reasonable expectation of success)」[i]を見出せない(すなわち組合せは自明ではない)であろうと認定し、その最終書面決定において、Netflix社は本件特許のクレームが特許不能であることを証明できなかったと判断しました。
(3)CAFCへの1回目の控訴
Netflix社はPTABによるこの決定を不服としてCAFCに控訴しました。CAFCは、PTABの成功の合理的期待の解釈は間違っているとして、上記の段落[1]の限定のクレーム解釈について判断することなく、PTABに事件を差し戻しました。
(4)PTABでの再審理
PTABは、前回は拒絶したDivX社が主張するより限定的なクレーム解釈(解釈A)を今回は受け入れました。より限定的な解釈Aを採用すれば限定[1]は主張されている先行技術の組合せに合致しないため、PTABは再度、Netflix社は本件特許のクレームが自明であることを証明できなかった、と判断しました。
(5)CAFCへの2回目の控訴
Netflix社はPTABの2回目の決定を不服として、CAFCに2回目の控訴を行いました。
3.CAFCの判断
CAFCは2回目の控訴審で限定[l]の解釈について初めて判断を示しました。すなわちCAFCは、PTABが採用したより限定的な解釈Aは誤りであると判断し、より限定的ではない解釈Bの下では、限定[l]は主張された先行技術の組み合わせによって教示されていた、というNetflix社の主張に同意しました。
CAFCは、米国特許実務における「平易かつ通常の意味の言葉の原則(”the plain and ordinary language doctrine”)」[ii]に基づき、限定[l]が上記の2通りの解釈AおよびBを許容する可能性があると判断しました。すなわち、前述のように「保護されたビデオの選択されたストリームの要求された部分内において(“within the requested portions of the selected stream of protected video”)」という修飾語は、「暗号化情報(encryption information)」に係るのか(解釈A)、または「ビデオのフレームの暗号化された部分(encrypted portions of frames of video)」に係るか(解釈B)、のいずれかの可能性があるというものです。
CAFCは、コンマその他の文章上の記号が使用されていない場合、修飾語は最も近くにある意味的に適合可能な被修飾語に結び付けられると推定される、という原則に依拠しました。CAFCは、「ビデオのフレームの暗号化された部分」のみが「保護されたビデオの選択されたストリームの要求された部分内において」に必要であると判断しました。CAFCはまた、クレーム自体の文脈、明細書、および審査経過から、「保護されたビデオの選択されたストリームの要求された部分内において」存在するのは「暗号化情報」ではなく「ビデオのフレームの暗号化された部分」であるという解釈が妥当であると判断しました。
CAFCは、PTABのクレーム解釈(解釈A)は誤りであるとしてPTABの決定を破棄し、CAFC判決が採用したクレーム解釈(解釈B)に適合してさらに審理を進めるようPTABに事件を差し戻しました。
5.実務上の留意点
特許の侵害や有効性に関する争訟を提起する前には、クレームがどのように解釈される可能性があるのかについてあらゆる可能性を検討する必要があります。裁判所は、特許クレームを解釈する際に、クレームの平易な意味や、クレーム、明細書、および審査経過を取り巻く文脈や文法的な手がかりを考慮します。
過去において修飾語と被修飾語との関係、挿入句の扱いなど、関係代名詞の用法、カンマの有無や位置などが極めて厳格に解釈され、英文法の解釈が争訟の結論に決定的に影響した事例は多々存在します。そのような事例の中で弊所HPにおいてこれまでに紹介した欧米の審判決例を以下に2件紹介いたします。是非ご参照ください。
(1)弊所HPの「国・地域別IP情報」の「欧州」の2023年9月25日付けの記事「クレーム中のカンマの欠落によりクレームと明細書とに不整合が生じ特許が取り消されたEPO審決」(https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/10089/)
(2)弊所HPの「国・地域別IP情報」の「米国」2021年2月12日付けの記事「CAFCは、クレーム解釈において文法を厳格に適用し、”a plurality of”というフレーズが、その後に続く一連の名詞の各々を修飾すると判断した」(https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/5976/)
[i] 「成功の合理的期待」とは、非自明性の判断において、引用発明から当該発明に至る道筋を試みることに成功の合理的期待があったのかが問われ、成功の合理的期待が認められるときには非自明性が否定される考え方で、USPTOや欧州特許庁(EPO)で採用されています。言い換えると、成功の合理的期待がなければ、非自明性は否定されない、ということになります。
[ii] 米国特許実務における “the plain and ordinary language doctrine”とは、クレームを解釈する際に、「クレームに記載された文言は、原則として、当業者が通常理解する一般的・慣用的な意味の通りに解釈されるべきである」という法理(原則)を意味します。
[担当]深見特許事務所 堀井 豊
[情報元]
1. Dermott Will & Emery IP Update | February 26, 2025 “The meaning is plain as day: Just follow the grammar”
https://www.ipupdate.com/2026/02/the-meaning-is-plain-as-day-just-follow-the-grammar/
2. Netflix, Inc. v. DivX, LLC, Case No. 24-1541 (Fed. Cir. Feb. 13, 2026)(本件判決原文)
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-1541.OPINION.2-13-2026_2647816.pdf

