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人工知能分野における特許審査実務ガイド」改訂等に関する韓国知識財産処の発表

 韓国知識財産処(以下「韓国特許庁」)は、生成AI[i]、オンデバイスAI[ii]、フィジカルAI[iii]など近年急速に発展している人工知能(以下「AI」)技術を特許実務に適切に反映するため、AI関連発明の進歩性判断について具体的な審査事例ベースで示した「AI分野における特許審査実務ガイド」を2026年1月に改訂しました。

 また、韓国特許庁は、AI、モノのインターネット(IoT)、コンピュータ、フィジカルAI、バイオなどの先端技術分野における特許出願の急増に対応するため、2026年の特許審査処理計画を発表し、審査官の増員、優先審査対象の拡大、超高速審査制度の拡充、ならびに出願人とのコミュニケーション強化などを含む審査体制強化策を明らかにしています。

 以下、「AI分野における特許審査実務ガイド」の改訂および「2026年の特許審査処理計画」のそれぞれについて、日本の実務との比較を含めて説明します。

 

1.AI分野における特許審査実務ガイドの改訂

 (詳細は、下記「情報元1.(1)」および「情報元2.(1),(2)」をご参照下さい。)

(1)今回の改訂の位置付け

 今回の「AI分野における特許審査実務ガイド」の改訂は、従来のAI関連審査基準の基本的な考え方を維持しつつ、新たな技術動向に対応した具体的な審査事例を追加することにより、AI関連発明の特許性判断をより実務的かつ明確化することを目的としたものです。

 韓国特許庁は、近年のAI技術の発展に伴い、AIが単なるソフトウェア技術にとどまらず、ロボット、自動化機器、IoT機器、生成AIサービスなど多様な産業分野へ急速に拡大している点を重視しています。特に、フィジカルAIやオンデバイスAIのように、AIが実際の物理環境や限られた演算資源下で動作するケースが増加していることを踏まえ、従来以上に具体的な技術的特徴や技術的効果を重視した進歩性判断の明確化を図ったものと考えられます。

 また、今回の改訂では、AI関連発明について、単にAIを利用していること自体では特許性は認められず、AIを利用するための具体的な技術的構成や、AI利用により得られる、先行技術から予測困難な技術的効果が存在するかどうかが重要であることが改めて示されています。これは、日本等におけるAI関連発明の審査実務とも方向性を共有するものと言えます。

(2)今回の改訂の特徴(審査事例の拡充)

 今回の改訂の最大の特徴は、AI関連発明の進歩性判断に関する具体的な審査事例が追加された点にあります。従来のガイドでもAI関連発明に対する基本的な審査方針は示されていましたが、今回の改訂では、実際の技術分野を想定した事例を用いながら、「特許性が否定される場合」と「特許性が肯定され得る場合」とを対比的に示している点が特徴的です。

 今回の改訂では、従来の10の事例に加えて4つの事例(事例11~14)が追加されており、新たな事例では、公知のAI技術を単純に適用しただけの場合や、人が従来行っていた業務・ビジネス手法を既存のAI技術によって単にシステム化したにすぎない場合には、通常の技術者が容易に想到できるとして、原則として進歩性が認められにくいことが示されています。

 これに対し、データ前処理方法、機械学習手法、学習済みモデルの構造、推論制御、AIが搭載されるデバイスの環境上の制約への対応、利用環境への適応などについて具体的な技術的構成が明確に特定されており、その結果として先行技術から予測困難な技術的効果が認められる場合には、進歩性が肯定され得ることが示されています。

 特に今回追加された事例では、「AIを用いること」自体ではなく、「AIをどのような技術的課題解決のために、どのような具体的技術手段によって実装したか」を重視する姿勢が明確に示されています。この点は、今後のAI関連出願において、抽象的なAI利用の記載だけではなく、モデル構成、学習方法、制御方式、AIが実装されるデバイスの環境上の制約を考慮した技術的工夫などを具体的に記載する重要性を示唆するものと考えられます。

(3)新規追加事例の内容

 今回追加された事例11~14のうち、事例11では、生成AIを利用したAIスピーカー[iv]による応答提供技術が取り上げられています。この事例では、従来のオンラインチャット方式による応答処理を、単に生成AIへ置き換えただけの場合については、公知技術の単純適用にすぎず、進歩性が否定され得ることが示されています。

 これに対し、利用者の音声情報から年齢層などの属性を認識し、その属性に応じて生成AIへの質問内容や応答生成処理を制御する構成については、利用者適応型の具体的な技術的制御が存在し、先行技術との差別化された技術的特徴が認められるとして、進歩性が肯定され得る例として示されています。

 また、事例12では、オンデバイスAIを利用したサービングロボット(配膳・運搬ロボット)制御技術が取り上げられています。この事例では、公知のAIモデルを通常の軽量化手法によってロボット端末へ適用したにすぎない場合については、通常の設計事項の範囲内であるとして、進歩性が否定され得ることが示されています。

 一方で、飲食店等の実環境におけるロボット運用を前提として、限られた演算資源や電力消費などの制約条件を考慮しながら、AIモデルの軽量化や推論処理を最適化する構成については、利用環境への適応を含む具体的な技術的工夫が存在するとして、進歩性が肯定され得る例として示されています。

 これらの追加事例を通じて、韓国特許庁は、AI関連発明の特許性判断において、単なるAI利用や既存技術の置換ではなく、具体的な技術的課題の解決手段および予測困難な技術的効果の有無を重視する姿勢を明確に示したものと考えられます。

(4)日本の実務との対比

 日本の特許庁実務においても、AI関連発明については、「AIを用いている」という点自体では直ちに進歩性が認められるわけではなく、具体的な技術的課題の解決や、従来技術との差異がどのような技術的効果を生むのかが重視される傾向がみられます。実際、日本特許庁の「AI関連技術に関する特許審査の事例について」(令和6年3月特許庁調整課審査基準室)(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/ai_jirei.html)では、AI関連技術について進歩性・記載要件・発明該当性に関する多数の事例が公表されており、単なるAI利用ではなく、技術的特徴や具体的適用態様が重視されていることが示されています。

 また、日本の審査実務では、AI関連発明であっても、請求項に記載された特徴全体を考慮して進歩性判断を行うとの立場が採られています。もっとも、その中でも、単なる業務ルールの自動化や情報提示にとどまる場合には、従来のソフトウェア関連発明と同様に、容易想到と評価されやすい傾向があります。特許庁「ソフトウエア関連発明に関する比較研究について」(https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/epo/software_201903.html)では、AI関連発明についてもソフトウェア関連発明の進歩性判断枠組みが適用されることが説明されており、AIアルゴリズムが具体的技術的効果に寄与しているかが重要であることが示されています。

 この点で、韓国特許庁の2026年AI審査ガイドは、日本実務と方向性自体は近いものの、日本の事例集よりも、進歩性肯定例・否定例を並列して説明しているため、出願人にとって出願戦略上の資料として実務上参考にし易いと言えます。

 

2.AI等の先端分野の特許審査処理計画の発表

 (詳細は、下記「情報元1.(2)」および「情報元2.(3)」をご参照下さい。)

(1)審査処理期間を14か月に短縮、優先審査の終結期間も短縮

 韓国特許庁は、2026年の「特許審査処理計画」を発表し、韓国企業の迅速な技術競争力確保および海外進出支援のため、先端技術分野を中心とした審査体制の強化、審査待機期間の短縮、および出願人とのコミュニケーション拡充を推進する方針を明らかにしました。

 特に、韓国特許庁は、AIニューラルネットワーク[v]など従来のAI分野に限定されていた優先審査対象を、フィジカルAI分野へ拡大するとともに、今後さらに、合成生物学などのバイオ技術についても新たに優先審査対象に加える予定です。また、輸出企業支援策として、昨年試験的に導入された輸出促進・先端技術分野に対する超高速審査制度を拡充し、輸出関連技術やフィジカルAI関連技術について、より多くの案件で超高速審査・優先審査を利用できるようになりました。これにより、これらの分野における審査待機期間の大幅な短縮が期待されています。韓国特許庁によれば、2025年時点の審査待機期間は、全体平均で14.7か月、優先審査では2.1か月、超高速審査では1か月以内となっています。

 また、急増する特許出願に対応するため、AI、モノのインターネット(IoT)、コンピュータなどの先端技術分野を中心に、新たに34名の審査官を採用する予定であることも公表されました。韓国特許庁は、過去3年間において、2023年には半導体分野で30名、2024年には二次電池などの分野で75名、2025年にはAI・バイオ・先端ロボット分野で60名の審査官を増員しており、今後も継続的な人員拡充を通じて、審査の品質と速度を同時に向上させる方針です。さらに、先行技術調査事業の予算も前年比19.9%増となる399億ウォンへ拡充されており、平均審査待機期間(審査請求から最初の審査結果通知までの期間)についても、2025年の14.7か月から2026年には14か月へ短縮される見込みです。

 加えて、審査終結期間(審査請求から登録決定又は拒絶決定に至るまでの期間)の短縮を図るため、優先審査案件については、出願人の意見書等に対する審査官の検討期間を従来の4か月から2か月へ半減する方針も示されました。これにより、出願人による迅速な特許権取得がさらに支援されるものと期待されています。

(2)審査官面談機会の拡大

 さらに、韓国特許庁は、迅速な審査だけでなく、出願人とのコミュニケーションを重視した審査体制の強化も進めています。出願人が拒絶理由通知又は拒絶決定に対応する際に利用できる「補正案レビュー」及び「再審査面談」については、従来存在していた利用回数制限が緩和され、追加の議論が必要な場合には1回追加で利用可能となりました。これにより、拒絶理由通知段階で補正案レビューを利用した場合であっても、拒絶決定段階において再審査面談を再度利用できるようになります。

 また、従来は面談申請日から2〜3週間以内に限定されていた審査官との面談可能期間についても、「面談申請日から1週間後から補正書提出期限満了日まで」へと拡大され、より柔軟な面談実施が可能となりました。これらの制度改善は、2026年3月11日から施行されています。韓国特許庁は、こうした面談制度の改善を通じて、拒絶理由の早期解消や効率的な権利化を支援し、審査官面談制度の実務的活用をさらに促進する考えです。

 さらに、韓国特許庁は、産業界や研究機関など現場からの意見を審査政策へ反映するため、現場とのコミュニケーションも拡大する方針を示しています。

(3)日本の実務との比較

 韓国特許庁が公表した「2026年特許審査処理計画」は、AI、フィジカルAI等の先端技術分野における迅速な権利化支援を政策的に前面へ打ち出している点が注目されます。これに対し、日本国特許庁(JPO)においても、AI関連技術やGX(グリーントランスフォーメーション)関連技術[vi]等について、スーパー早期審査・早期審査制度を通じた迅速な審査体制が整備されており、韓国と同様に先端技術分野の迅速な権利化支援を重視しています。ただし日本実務では、特定技術分野を政策的に優先審査対象へ追加するというよりは、スタートアップ支援、実施関連出願、外国関連出願等の要件を通じて広く早期審査を運用する傾向が比較的強いと言えます(日本特許庁「スーパー早期審査について」令和8年3月(https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/soki/super_souki.html))。

 また、韓国実務では、出願人と審査官との対話促進策が近年強化されており、「迅速な権利化」と「審査官との柔軟な協議」を組み合わせた実務運営を積極的に制度化している点に特徴があります。日本でも面接審査制度は広く利用されていますが、韓国では近年、特にAIやフィジカルAIのような技術変化の速い分野では、こうした対話型審査運営が、出願戦略上ますます重要になる可能性があると考えられます。

 

[i] 生成AI(Generative AI)とは、人間が指示を出すことにより、テキスト、画像、音声、動画などの新しいコンテンツを自律的に創り出す人工知能を言います。従来の分析型AIとは異なり、指示に応じてオリジナルのアイデアや作品を創造可能です。

[ii] オンデバイスAI(On-Device AI)は、クラウドサーバー(インターネット経由でアクセスして利用する仮想的なサーバー)に頼らず、スマートフォンやPCなどの端末内部でAIモデルの処理を完結させる技術であり、通信の遅延やデータ流出のリスクをなくし、オフライン環境でも高速かつ安全にAI機能を利用可能です。

[iii] フィジカルAIとは、センサーやカメラを通じて現実世界を認識し、自ら考えて物理的なタスクを実行する、ロボットや自動運転車、ドローンなどの「物理的なデバイス」に搭載された人口知能のことを言います。

[iv] AIスピーカーとは、スマートスピーカーとも言い、人工知能による音声アシスタント機能を搭載した、インターネット接続対応のスピーカーを言います。

[v] 「AIニューラルネットワーク」とは、人間の脳の神経細胞(ニューロン)の働きをまねして作られた、人工知能(AI)の計算モデルのことを言います。

[vi] GX(グリーントランスフォーメーション)関連技術とは、温室効果ガスの排出削減や脱炭素化を進めながら、産業構造や社会システムを環境負荷の小さい形へ転換するための技術を指します。

 

[担当]深見特許事務所 野田 久登

 

[情報元]

1.Lee InternationalニュースレターSpring 2026より

(1)知識財産処、「人工知能(AI)分野における特許審査実務ガイド」改訂
https://www.leeinternational.com/home/bbs/board.php?bo_table=Newsletter2026_SPR&wr_id=9&lang=jp

(2)知識財産処 2026年特許審査の主要動向
https://www.leeinternational.com/home/bbs/board.php?bo_table=Newsletter2026_SPR&wr_id=10&lang=jp

2.ジェトロソウル事務所知的財産ニュースより

(1)韓国知識財産処、「AI分野の特許審査実務ガイド」を改正(2026年1月15日)
https://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/ip/ipnews/2026/260115c.html

(2)韓国知識財産処、AI分野の審査実務ガイド改正案について国民の意見を募集(2025年11月6日)
https://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/ip/ipnews/2026/251106B.html

(3)韓国知識財産処、2026年の特許審査処理計画を発表(2026年2月2日)
https://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/ip/ipnews/2026/260202A.html.