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原告の主張の弱さだけでは訴訟費用を敗訴者が負担するという原則の例外的な事案と認定する根拠にはならず、弁護士の制裁については弁護士の怠慢は制裁の要件となる悪意の行為には当たらないと判断したCAFC判決紹介

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、特許侵害訴訟の訴状を却下するとともに「弁護士費用および訴訟費用(attorney’s fees and costs:以下、両者を便宜上単に「費用」と総称する)について裁定を下した第一審の判断に対する本件控訴審判決において、米国特許法285条に基づく費用の敗訴者負担[i]、および連邦司法制度および司法手続きに関する米国法典第28編1927条に基づく制裁措置[ii]の問題について対処し、原告の主張の弱さだけでは例外的な事案と認定する根拠にはならず、弁護士の怠慢は制裁の要件となる悪意の行為には当たらないと判断し、第一審の判断を一部維持し一部取り消す判決を下しました。

mCom IP, LLC v. City National Bank of Florida, Case No. 24-2089 (Fed. Cir. May 15, 2026) (Dyk, Mayer, Taranto, JJ.)

 

1.事件の発端

(1)本件特許

 mCom IP, LLC(以下、「mCom社」)は、ATMやオンラインバンキングポータルなどの金融機関の「eバンキング接点」を統合するための電子バンキングシステムおよび電子バンキング環境を構築する方法に関する米国特許第8,862,508号(以下、「本件特許」)を所有しています。

(2)特許侵害訴訟の提起、和解、およびライセンス契約の締約

 2021年4月に、mCom社は、NCR Corporation(以下、「NCR社」)が本件特許を侵害しているとして、テキサス州西部地区連邦地方裁判所にNCR社を訴えました。2021年9月にこの訴訟は和解により取り下げられ、同月、mCom社は本件特許に関して、NCR社の顧客の一部を対象とするライセンスと免責条項を規定したライセンス契約をNCR社と締結しました。

(3)IPRの請願

 2021年10月に、Unified Patents, LLC(以下、「UP社」)は、本件特許のクレーム1-20うち、クレーム2、8、14および17を除く残りのクレーム1、3-7、9-13、15-16、および18-20は自明であると主張して米国特許商標庁(USPTO)に当事者系レビュー(IPR)を請願しました。2023年2月にUSPTOの特許審判部(PTAB)は、UP社の主張通り、クレーム2、8、14および17を除くすべてのクレームは先行技術から自明であり特許性がないと判断する決定を出しました。

(4)特許侵害訴訟の再度の提起

 2023年9月に、mCom社は、IPRで有効性が争われなかったクレーム2、8、14および17をCity National Bank of Florida(以下、「City National社」)が侵害しているとして、フロリダ州南部地区連邦地方裁判所(以下、「地裁」)に特許侵害訴訟を提起しました。

 mCom社は訴状に、侵害を主張しているクレーム17およびその従属先の(先に無効と判断された)独立クレーム13のクレームチャートを添付するとともに、City National社のオンラインバンキングの提供がクレームを侵害していると主張するためにCity National社のウェブサイトの“Online and Mobile Services”および“Privacy Policy”というタイトルのページのスクリーンショットを添付ました。mCom社は、訴状の請求原因の1つの項目(count)中に、主張されたクレームをCity National社が直接侵害し、間接侵害し、さらには故意侵害したという複数の請求原因(cause of action)を含めました。

 

2.訴状の却下に関する地裁での手続と判断

(1)被告による訴状の却下の申立

 被告であるCity National社は、mCom社の訴状は訴えを適切に主張していないとして、訴状の却下を申し立てました。

(2)地裁の職権による却下

 地裁は、原告であるmCom社の訴状が請求原因(cause of action)ごとに個別の項目(count)に分けて記載していなかったため、訴状が不特定多数の請求を乱雑に詰め込んだいわゆる「散弾銃型訴状(“shotgun pleading”)」[iii]であるとしてこれを却下しました。

 同じ却下の決定において地裁は、被告であるCity National社による訴状の却下の申立も曖昧であるとして却下するとともに、mCom社に対しては訴状の補正の機会を与えました。地裁はmCom社に対して、米国連邦民事訴訟規則12(b)(6)[iv]の「訴状の妥当性の基準(“the plausibility pleading standard”)」[v]を満たさない訴状は却下されるであろうと予め警告しました。

(3)原告による補正された訴状の提出

 2024年2月に、mCom社は、補正された訴状を提出しましたが、それは以下の2点において当初の訴状とは異なっておりました。

 ① 本件特許が特許適格性を有する主題をクレームしており米国特許法101条の要件を満たしているとする新たな項目を含めたこと、および

 ② City National社のウェブサイトのさらに多くのスクリーンショットを含む侵害に関する主張を追加するとともに更新されたクレームチャートを添付したこと。

(4)被告による再度の訴状却下の申立

 2024年4月に、City National社は再度、連邦民事訴訟規則12(b)(6)の下に訴状を却下するように申し立てました。City National社は、以下のような主張を行いました。

 ① 主張されているクレーム2、8、14および17は、米国特許法101条の下で特許適格性を有しておらず無効であること、

 ② 主張されているクレーム2、8、14および17は、IPRで自明であると判断され無効とされたクレーム1、3-7、9-13、15-16、および18-20と特許的に区別可能ではなく、したがって同じ先行技術によって自明であるとして、これらのクレームも米国特許法103条の下で無効であること、

 ③ 上記の2つの無効理由に加え、訴状は、争点となっているクレームの侵害について合理的な主張を行っておらず、具体的には、主張されている従属クレーム17については、無効であり取り消された従属先の独立クレーム13の範囲外の侵害行為を何ら主張していないこと、

 ④ mCom社が修正した訴状も依然として複数の責任理論(theory of liability)を侵害に関する単一の項目(count)に混在させていること、および

 ⑤ mCom社は、2021年9月に、NCR社と本件特許に関するライセンス契約を締結し、NCR社の顧客の一部をカバーするライセンスを付与したが、City National社はNCR社の顧客であり、このようなライセンス契約について最近になって知ることとなり、mCom社に情報を求めたがmCom社が調査を行わなかったこと。

(5)原告による訴状の補正許可の申立

 mCom社はこれらの却下の申立に反対し、代替案として訴状の補正許可を求めましたが、さらなる補正後の訴状に、どのような異なる主張あるいは追加の主張が含まれるのかは明らかにしませんでした。

(6)地裁による却下申立の認容

 2024年6月に、地裁は、以下の理由によりCity National社による再度の却下申立てを認めました。

 ① mCom社のクレームチャートは解釈が不可能ではないにしても困難であるため、侵害の主張が不十分であると判断したこと、

 ② mCom社は、他には単に「クレームチャートのスクリーンショットがクレームされた機能を文字通り特定している」という主張しか提示していないため、侵害の主張が不十分であると判断したこと、および

 ③ 主張された4つのクレームを個別に検討し、それらはIPRで特許不能と判断され無効となったクレームに対して、「非自明な内容を追加していないため」、または「特許可能な実質を追加していないため」、無効であると判断したこと。

 なお地裁は、City National社が別途提出した第101条に基づく特許不適格性の主張については、別に審理・判断を行いませんでした。

 最終的に、地裁は、訴状を却下すべきと判断するとともに、mCom社の訴状補正許可の請求が規則7(b)(1)(裁判所命令の請求は申立てよって行わなければならないという規定)に準拠しておらず、「実質的な裏付けを欠いている」として、補正許可の申立を却下しました。

(7)CAFCへの控訴

 mCom社は、地裁による訴状の却下を不服としてCAFCに控訴しました。

 

3.City National社による弁護士費用および訴訟費用の請求

(1)City National社による費用の請求

 地裁による訴状の却下およびmCom社によるCAFCへの控訴状の提出後、City National社は地裁に対して、本件が米国特許法285条(以下、単に「285条」)に基づく例外的な事案であり、米国法典第28編1927条(以下、単に「1927条」)に基づく悪意による訴訟であると主張し、弁護士費用および訴訟費用(以下、両者を便宜上「費用」と総称)を請求しました。具体的には、City National社は、当初の訴状提出時からの費用全額である72,508.50ドルを請求しました。

 City National社は、285条に基づく賠償請求および1927条に基づく制裁の両方に共通する理由として、以下の主要な理由を挙げました。

 ① 主張されたクレームを「ざっと見ただけで」無効であることが判明したこと、

 ② mCom社は侵害を十分に主張していなかったこと、

 ③ mCom社は、ライセンスが侵害行為を対象とするか否かを、たとえライセンスの存在を実際に知らされた後であっても、調査しなかったこと、および

 ④ mCom社は、他の多くの特許訴訟を提起したが、いずれも裁判に持ち込まず、「迷惑料で迅速に和解する(“nuisance-value settlement”)」[vi]という不適切な目的があったこと。

(2)mCom社の反論

 mCom社はこの主張に反論しました。mCom社は、主張するクレームに基づいて訴訟を提起するにあたり、特許の有効性の推定に依拠する権利があると強調しました。mCom社はまた、City National社が、ライセンスに関する抗弁を立証する証拠を一度も提出していないと主張しました。mCom社はまた、mCom社が過去に迷惑行為による損害賠償を求めたという証拠はないと主張しました。

(3)地裁の判断

 地裁は、本件を285条の例外的な事案と認定し、285条に基づき弁護士費用の賠償を裁定し、さらに1927条に基づき弁護士の訴訟行為に対する制裁を課しました。

(4)CAFCへの控訴

 mCom社は、先に提出したCAFCへの控訴状を修正し、本件控訴事件において、訴状の却下に加えて費用に関する地裁の判断に対しても異議を唱えました。

 

4.CAFCの判断

 CAFCは、地裁による訴えの却下を支持しましたが、費用の賠償および制裁の裁定は取り消しました。CAFCは、本件が285条に基づく「例外的な事案」に該当するか否か、および1927条に基づき弁護士が不当かつ嫌がらせ目的で訴訟手続きを濫用したか否かという2つの論点を取り上げました。

(1)本件が285条に基づく「例外的な事案」に該当するか否か

 285条によれば、当事者の主張の実質的な強さ、または訴訟手続きの不合理な方法に基づき「際立っている」事案は例外的な事案とみなされます。CAFCは、地裁が依拠したそれぞれの根拠を却下しました。

 ① クレームの無効について

 主張されたクレームは地裁によって無効と判断されたものの、CAFCは、無効であることだけで事案を例外的なものにするわけではないと強調しました。むしろ、弁護士費用を認めるには、請求が「異常にまたは極めて弱い」ことを示す必要があります。本件では、主張されたクレームはIPRの対象とされていなかったため有効性の推定が働いており、地裁における無効の立証責任はIPRよりも高いため、この基準は満たされていません。

 ② 訴状の不備

 CAFCは、訴状の不備は、事案が例外的なものであることを裏付けるものではないと判断しました。最初の訴状の不備は「純粋に形式的なもの」であり、補正された訴状が請求を記載していないことだけでは、訴訟行為全体が不合理であるとはみなされません。

 ③ ライセンスの抗弁

 CAFCは、City National社が主張するライセンスの抗弁を却下し、記録上、ライセンス関係は立証されていないと指摘しました。

 ④ 不当な和解の追及

 最後に、CAFCは、mCom社が不当な和解を追求したという主張を裏付ける十分な根拠がないと判断しました。City National社は、和解金額に関する証拠を提出せず、また、過去の訴訟と問題となっている特許との関連性も示さなかったためです。

(2)1927条に基づき弁護士が不当かつ嫌がらせ目的で訴訟手続きを濫用したか否か

 CAFCは、1927条に基づいて課された制裁も覆しました。CAFCは、第11巡回区の判例法を適用し、制裁には「悪意に等しい」行為、例えば、根拠のない訴訟を故意または無謀に追及したり、不必要に訴訟を妨害したりすることが必要であると説明しました。地裁は、訴訟を放棄すべきであったことを認識しなかった弁護士の「注意不足」を非難しましたが、CAFCは、根拠のある訴訟の文脈におけるそのような注意不足は、1927条に基づく責任に必要な悪意の行為には当たらないと説明しました。

 

5.実務上の留意点

 本件判決からは、特許侵害訴訟で敗訴した原告に対する弁護士費用の敗訴者負担(285条)および弁護士への制裁(1927条)の要件について留意すべき重要なポイントが読み取れます。

(1)弁護士費用の敗訴者負担(285条)の「例外的な事案」の認定ハードルは高い

 地裁が285条に基づいて敗訴者に弁護士費用を負担させるには、単にクレームが無効であると判断されただけでは不十分であり、その訴訟が実体的に「異例なほど弱い(exceptionally weak)」か、訴訟遂行の態様が不合理である「例外的な事件(exceptional case)」でなければなりません。特許には法律上の有効性の推定が働くため、特許権者はこれに依拠して訴訟を提起することが可能であり、たとえIPRで当該特許の他のクレームが自明性により無効とされていたとしても、地裁での自明性の証明責任はIPRよりも厳格であるため、残りの請求項を主張することが直ちに非合理的とはみなされない点に留意が必要です。

(2)ライセンスの存在や迷惑料目的の訴訟を理由とする場合には具体的証拠が不可欠

 被告が「原告はライセンス(本件ではNCR社との和解契約に基づくもの)の存在を調査せずに提訴した」と主張して弁護士費用を求める場合、裁判所は、実際にそのライセンスが対象行為をカバーしていたこと、または原告が合理的な調査を行えばそれを発見できたはずであることを認定しなければなりません。ライセンス防衛の成否が未確定の段階で、原告の調査不足だけを理由に制裁を課すことはできません。

 また、原告が「迷惑料(nuisance-value)程度の和解金」を目的として多数の訴訟を提起していると主張する場合も、過去の訴訟が略式判決前に和解または取り下げられたという事実だけでは不十分であり、具体的な和解金額や本件特許との関連性に関する客観的な証拠を提示する必要があります。

(3)弁護士に対する個人的制裁(1927条)には明確な「悪意」が必要

 弁護士個人に費用を負担させる制裁(1927条)を科すには、完全に根拠のない(frivolous)訴えであることを知りながら追及するなど、「悪意」に等しい客観的に無謀かつ極めて悪質な行為(egregious conduct)が必要です。訴え自体が完全に無根拠とまでは言えない場合、仮に弁護士の調査や対応が不十分であったとしても、それは直ちに「不当な手続の遅延・妨害」とはみなされず、制裁の対象にはならないと判断されています。

 

[i] 米国特許法285条は、弁護士費用の敗訴者負担(“fee shifting”)に関する規定であり、「裁判の勝者が敗者から合理的な弁護士費用を回収できる例外的なルール」を定めています。米国の民事訴訟においては通常、弁護士費用は各当事者が負担することが原則(連邦民事訴訟規則第54条(d)(1))であり、アメリカン・ルールと呼ばれています。本条は「例外的なケース(exceptional cases)」に限ってその負担を相手に転嫁(シフト)することを認める規定です。

[ii] 米国法典第28編(28 U.S.C.:United States Code Title 28)は、「連邦司法制度および司法手続き(“Judiciary and Judicial Procedure”)」について規定している法律集です。連邦裁判所の組織、管轄権、裁判手続き、ならびに司法省や連邦検察官などの役割について定められています。その1927条は、訴訟手続きを「不当に(unreasonably)」かつ「嫌がらせ目的などで煩わしく(vexatiously)」引き延ばした訴訟代理人(弁護士など)に対し、その引き延ばしによって生じた超過費用や経費、弁護士費用を本人の負担とする権限を連邦裁判所に与える規定です。

[iii] “shotgun pleading”とは、米国の民事訴訟において原告が、狙いを正確に定める代わりに広範囲に向けて大量の弾をばらまく散弾銃(ショットガン)のように、膨大な事実を整理せずに詰め込み、「とりあえずどれかに該当するだろう」と主張する、曖昧で不適切な訴状を指す用語です。

[iv] 米国連邦民事訴訟規則12(b)(6)は、原告の訴状が法的根拠を欠いているか、または主張された事実が法的に認められる救済を導くのに不十分である場合に、被告が早期の却下を求めるための「訴え却下の申し立て(Motion to Dismiss for Failure to State a Claim)」について規定しています。

[v] 訴状に記載された事実が、単に「違法行為の可能性がある」というレベルにとどまってはならず、「違法行為があったと推認できる合理的な可能性」を裏付けるものでなければならないという原則を指します。

[vi] “nuisance-value settlement”(迷惑料和解/ニュサンス・バリュー和解)とは、根拠が薄弱または少額な請求であっても、訴訟の長期化や弁護士費用などの対応コストを避けるために、被告(または保険会社)が原告に少額の金銭を支払って早期解決を図る和解手法を指します。

 

[担当]深見特許事務所 堀井 豊

 

[情報元]

     1. McDermott Will & Emery IP Update | May 28, 2026 “Invalidity alone does not render a case exceptional”
https://www.ipupdate.com/2026/05/invalidity-alone-does-not-render-a-case-exceptional/

     2. mCom IP, LLC v. City National Bank of Florida, Case No. 24-2089 (Fed. Cir. May 15, 2026) (Dyk, Mayer, Taranto, JJ.)(判決原文)
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-2089.OPINION.5-15-2026_2694406.pdf