特許発明を具体化した製品の販売は、発明の詳細が明示的に開示されていなくてもpre-AIA102条(b)の“On-Sale Bar”の無効事由となるとしたCAFC判決紹介
米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、特許された方法および装置を具体化した製品の販売は、たとえ発明の詳細が明示的に開示されていなくても米国発明法(AIA)の施行前(pre-AIA)の旧米国特許法102条(b)[i]の“On-Sale Bar”規定(販売による新規性喪失規定)[ii]に基づき特許の無効事由となり得ると判示し、第一審の特許無効の略式判決を支持しました。
Definitive Holdings v. Powerteq, Case No. 24-1761 (Fed. Cir. Apr. 14, 2026) (Moore, Dyk, Cunningham, JJ.)
1.事件の経緯
(1)本件特許について
Definitive Holdings, LLC(以下、「Definitive社」)は、エンジン制御装置の再プログラミングのための方法およびシステムに関する米国特許第8,458,689号(以下、「本件特許」)を所有しています。本件特許の優先日は、AIA施行日の2013年3月16日よりも早い2001年3月30日であるため、本件特許はpre-AIAの旧米国特許法の適用を受けることになります。
(2)特許侵害訴訟の提起
Definitive社は、Powerteq LLC(以下、「Powerteq社」)が本件特許を侵害していると主張して、Powerteq社をユタ州連邦地方裁判所(以下、「地裁」)に提訴しました。
これに対してPowerteq社は、第三者であるHypertech Inc.(以下、「Hypertech社」)が、本件特許の優先日である2001年3月30日から1年をこえて遡る1996年までには、本件特許の主張されているクレームのすべての限定事項を具体化した製品“Hypertech Power Programmer III”(以下、「PP3」)を販売していたと主張し、このような公衆への販売行為が旧米国特許法102条(b)の“On-Sale Bar”規定に基づき特許の無効事由となり得るとして、特許無効の略式判決を地裁に申し立てました。
(3)訴訟の争点と地裁の判断
Definitive社は、Powerteq社による特許無効の主張に対して、根拠となる事実関係を争うのではなく、Powerteq社が依拠した証拠の証拠能力に異議を唱えました。Definitive社は、米国連邦民事訴訟規則30(b)(6)に基づくHypertech社の証人の証言録取、PP3のソースコード、およびそのソースコードに基づく専門家の証言は、いずれも証拠として認められないと主張しました。しかしながら、地裁はこれらの主張を退け、第三者であるHypertech社による販売が“On-Sale Bar”に該当するとして、特許無効の略式判決を下しました。
(4)CAFCへの控訴
Definitive社はこれを不服としてCAFCに控訴しました。
2.CAFCの判断
CAFCは、第一審のユタ州連邦地裁が属する第10巡回区の判例法を適用し、以下の争点について略式判決を改めて審査しました。
(1)Hypertech社の証人の証言録取の許容性
Definitive社はまず、地裁が、規則30(b)(6)に基づくHypertech社の証人であるHypertech社CEO兼オーナーのJay Ramsay氏の証言に不適切に依拠したと主張しました。CAFCはこれに同意せず、Ramsay氏の証言は同氏の個人的な知識に基づくものであり、Hypertech社の販売記録の真正性を証明しかつPowerteq社の専門家がPP3製品のソースコードを分析したことを立証するのに十分であると判断しました。
CAFCは、合理的な陪審員であれば、Ramsay氏がHypertech社の記録管理実務および販売活動について個人的な知識を有していたと結論付けることができるであろうと説明しました。証言のこれらの部分は略式判決を支持するのに十分であったため、CAFCは規則30(b)(6)に基づく証言の他の部分が適切に考慮されたかどうか、また第10巡回控訴裁判所が略式判決において規則30(b)(6)に基づく証言を一般的にどのように扱うかについては判断を控えました。
(2)PP3のソースコードおよびソースコードに基づく専門家証言の許容性
次にDefinitive社は、PP3のソースコードおよび関連する専門家の証言は、原則として法廷での証拠として認められない伝聞証拠[iii]であると主張しましたが、CAFCはこれにも同意しませんでした。CAFCは、ソースコード内のコメントや注釈は、状況によっては伝聞証拠に該当する可能性があるものの、実際に動作するソースコード自体は一連のコマンドまたは命令として機能するものであると説明しました。すなわち、CAFCは、ソースコード自体は何らかの主張内容が事実であることを証明するためのものではなく、伝聞証拠には該当しないと説明しました。したがって、CAFCは、地裁が略式判決を下す際に、ソースコードの機能を説明する専門家の証言を考慮したことに裁量権の濫用はなかった、と判断しました。
(3)Hypertech社によるPP3の販売は特許方法の実施方法を公に開示するものではないこと
最後に、Definitive社は、PP3がクレームのすべての限定事項を具体化し、かつ優先日を1年を超えて遡って販売されていたとしても、Hypertech社によるPP3の販売は、特許された方法をどのように実施するかを公に開示するものではないため、旧米国特許法102条(b)の“On-Sale Bar”規定は適用されない、と主張しました。
CAFCは、Helsinn事件最高裁判決[iv]を引用して、Definitive社の主張を退け、Hypertech社の販売は、クレームされた方法を実施し、クレームされた装置を使用する能力を公衆に直接伝達したことを強調しました。CAFCは、一般の人々が既に市販された製品を通じて特許された機能を使用している場合、後から特許の独占権を認めることは、既存の技術を公共の領域から不当に排除することになる、と説明しました。この“On-Sale Bar”規定では、特許を具体化した製品が市場に投入されていることが重要であり、その発明内容が一般公衆に技術的に開示されたか否かとは別の問題なのです。
したがって、CAFCは、第三者による販売がpre-AIAの“On-Sale Bar”規定に該当すると判断し、地裁による特許無効の略式判決を支持しました。
3.実務上の留意点
(1)Pre-AIAの“On-Sale Bar”規定について
Pre-AIAの旧法102条(b)の“On-Sale Bar”規定では、発明の詳細が明示的に開示されていなくても、クレームに記載された発明を具体化した製品が市場で販売された場合には特許が無効となる可能性があることに留意すべきです。これは上述のように、商業的に既に先行利用されている既存の技術について、その技術内容が完全に公開されているか否かに関わらず、後から特許を取ることでその既存の技術を公共の領域から不当に排除するようなことを防止するものであり、発明の商業化の観点から設けられた制度です。すなわち、旧法102条(b)の“On-Sale Bar”規定では、一般公衆が技術内容を知ることができたか否かは問題の本質ではありません。
(2)AIA改正後の“On-Sale Bar”規定について
AIAによる改正後の米国特許法102条[v]においては、102条(a)(1)に、Pre-AIAと同様の“On-Sale Bar”規定が存在し、この規定はAIA改正後も依然として広い意味を有し、秘密性のあるプロセスを使用した製品であっても102条(a)(1)の“On-Sale Bar”規定に相当することがCAFCの判例[vi]によって示されています。
(3)AIA改正後の「公然開示(publicly disclosed)」規定について
一方で、AIA改正後の102条(b)(2)(B)の規定の下で、特許発明を具体化した製品の私的販売は「公然開示」に該当しないという米国特許商標庁(USPTO)の特許審判部(PTAB)の決定を支持したCAFC判決があります(Sanho Corp. v. Kaijet Technology Int’l Ltd, Inc., Case No. 23-1336 (Fed. Cir. 2024年7月31日))[vii]。
これは、Pre-AIAの旧法102条(b)の“On-Sale”すなわち「販売」が無効理由になるかという本稿で扱った争点に対して、AIA改正後の102条(b)(2)(B)の「発明者等による先行する公然開示」が、その後の第三者の先願を排除するための「publicly disclosed」に当たるかどうか、が争点となった事件です。AIA改正後の102条(b)(2)(B)の規定は、発明者自身が技術内容を先に公衆へ公然開示したなら、その公然開示後の第三者による先願が本願の出願後に特許または公開されたとしてもその先願を排除できるという規定であり、ここでは、発明者が本当に公衆へ知識を提供したのかが重要になります。つまり、単に販売された、秘密保持義務なしに譲渡された、だけでは足りず、発明の技術的内容(subject matter)が公衆にアクセス可能な形で示された必要がある、としたのです。CAFCは明確に、pre-AIAの旧法102条(b)およびAIA改正後の102(a)(1)の“on sale”と、AIA改正後の102(b)(2)(B)の“publicly disclosed”とは別概念であり、同じ意味ではないと説明していることに留意する必要があります。
[i] Pre-AIAの旧米国特許法102条(特許要件;新規性及び特許を受ける権利の喪失)
次に該当する場合を除き,何人も特許を受ける権原を有する。
(a) (省略)
(b) その発明が,合衆国における特許出願日前1年より前に,合衆国若しくは外国において特許を受け若しくは刊行物に記載されたか,又は合衆国において公然実施され若しくは販売された場合,又は
(c)~(g)(省略)
[ii] 特許出願の1年前の基準日よりも前に販売されている(on sale)発明については、誰も特許を取得する資格はないという原則
[iii] 内容の真実性を証明するための証拠として使用される法廷外の供述であり、原則として法廷での証拠能力が否定されます。
[iv] Helsinn Healthcare S.A. v. Teva Pharms. USA, Inc., 586 U.S. 123, 125 (2019)
[v] AIA改正後の米国特許法第102条(特許要件;新規性)
(a)新規性;先行技術
何人も特許を受けることができるものとするが,次の事情があるときは,この限りでない。
(1) クレームされた発明が,当該のクレームされた発明に係る有効出願日前に,特許されていた,印刷刊行物に記述されていた,又は,公然使用,販売その他の形で公衆の利用に供されていたこと,又は
(2) (省略)
(b) 例外
(1) (省略)
(2) 出願及び特許に表示されている開示
開示は,次の事情があるときは,クレームされた発明に対する(a)(2)に基づく先行技術ではないものとする。
(A) (省略)
(B) 開示された主題が,同主題が(a)(2)に基づいて有効に出願される前に,発明者若しくは共同発明者によって,又は発明者若しくは共同発明者から直接若しくは間接に開示された主題を取得したそれ以外の者によって公然開示されていたこと
,又は
(C) (省略)
[vi] Celease v. ITC, Case No. 22-1827(2024)
[vii] 弊所HPの「国・地域別IP情報」の「米国」の2024年10月28日付けの記事「特許発明を具体化した製品の私的販売は「公然開示」に該当しないという 特許審判部の決定を支持した米国連邦巡回控訴裁判所判決」をご参照ください。(https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/12519/)
[担当]深見特許事務所 堀井 豊
[情報元]
1. McDermott Will & Emery IP Update | April 23, 2026 “Public use, even without explicit public disclosure, is patent bar under pre-AIA § 102(b)”
https://www.ipupdate.com/2026/04/public-use-even-without-explicit-public-disclosure-is-patent-bar-under-pre-aia-%c2%a7-102b/
2. Definitive Holdings v. Powerteq, Case No. 24-1761 (Fed. Cir. Apr. 14, 2026) (Moore, Dyk, Cunningham, JJ.)(本件判決原文)
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-1761.OPINION.4-14-2026_2675852.pdf

