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当事者系レビュー請願書における真の利害関係者記載要件に関する争いは審理開始判断と不可分であり控訴審では争えないとした米国連邦巡回控訴裁判所判決

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は2026年4月29日、当事者系レビュー(IPR)の請願書における「真の利害関係者(Real Party in Interest:以下「RPI」と略記)」の記載不備に関する主張は、特許審判部(PTAB)の審理開始(institution)判断と密接に関連するものであり、米国特許法第314条(d)[i]により控訴審では争うことができないと判断しました。

 一方、PTABが自明性判断において特許権者の主張を誤って認識した点については、十分な審理が行われていないとして、最終書面決定(Final Written Decision)の一部を取り消し、差し戻しました。

-Fed. Express Corp. v. Qualcomm Inc. (Fed. Cir. Apr. 29, 2026)-

 

1.事件の背景

(1)Fed. Express Corp.(以下「FedEx社」)による特許侵害訴訟の提起

 FedEx社は、貨物輸送品に取り付けられたセンサーから情報を収集し、利用者ごとに異なるアクセス権限を設定できる物流管理技術に関する複数の特許(そのうちの1件は、米国特許No.8,766,797、以下「’797特許」)を保有していました。’797特許の独立クレーム1は概ね、「出荷について追跡センターでセンサー情報を受け取り、当事者が受け取ったセンサー情報にアクセスすることを許可されるかどうかを決定するためのルールを分析し、分析されたルールに基づいて当該当事者のアクセスを制限するステップを含む方法」を記載しています。この方法の代表的な特徴に関する従属クレーム6は、「分析されたルールに基づいて当該当事者のアクセスを制限するステップが、受けとったセンサー情報を予め決められた時間の後に当該当事者に報告するステップを含む」ことを記載しています。

 FedEx社は、この特許を侵害するとしてRoambee社を提訴(以下「Roambee訴訟」)しました。

(2)Qualcomm Inc.(以下「Qualcomm社」)によるIPR請願

 その後、Roambee訴訟の当事者ではないQualcomm社が、当該特許に対するIPRを請願しました。Qualcomm社はIPR請願書の中で、Roambee訴訟を関連事件として記載しましたが、Roambee社をRPIとしては記載しませんでした。これに対してFedEx社は、米国特許法第312条(a)(2)[ii]のが要求するRPIの記載を欠くものであると主張し、PTABによる審理開始に反対しました。

(3)PTABの対応

 しかしながらPTABは、IPRを開始しました。その後FedEx社は手続終了(termination)の申立て[iii]を行いましたが、PTABは、RPIの認定が米国特許法第315条[iv]に規定する時効(time bar)やエストッペルの適用に影響する事情も認められないことから、IPR請願書にRPIを正しく記載しているかという問題を判断する必要はないとして、FedEx社による手続終了の申立てを退けました。

 またPTABは、最終書面決定においても、RPIの問題を実質的に判断することなく、すべての対象クレームを先行文献に基づいて自明であるとして無効としました。

(4)PTABの決定に対する控訴の提起

 IPRにおける上記PTABの決定に対してFedEx社は、これを不服として、適時にCAFCへ控訴しました。CAFCは、28U.S.C.§1295(a)(4)(A)[v]に基づいて、PTABの決定に対する管轄権を有しています。

 

2.控訴審における審理

(1)争点

 本件では主として以下の二つの争点が存在しました。

(i)RPIに関する主張は控訴審で審理可能か

 第一の争点は、「PTABが第312条(a)(2)のRPI要件を適切に適用しなかった」というFedEx社の主張をCAFCが審理できるかどうかです。

(ii)PTABの自明性判断に誤りがあったか

 第二の争点は、PTABが2件の先行文献(Lau引例及びBuford引例)の組合せによる無効理由について、FedEx社が争っていないと誤認したまま判断を行ったことの適否です。

(2)CAFCの判断

(i)RPIに関するFedEx社の主張について

 CAFCはまず、FedEx社が主張した「Qualcomm社のIPR請願にはRPIの記載漏れがあるため、PTABはIPRを開始すべきではなかった」との点について、以下の理由により控訴審では審理することができないと判断しました。

 a.最高裁判例の流れ

 CAFCは、連邦最高裁のCuozzo Speed Technologies v. Lee判決[vi]およびThryv v. Click-to-Call判決[vii]を引用し、IPRの審理開始(institution)判断に密接に関連する事項については、米国特許法第314条(d)により、原則として控訴審による司法審査が排除されることを改めて確認しました。

 これらの最高裁判決では、PTABがIPRを開始するか否かの判断や、その前提となる法定要件の判断については、審理開始判断と不可分の関係にある以上、控訴審で争うことはできないとされています。

 b.第312条(a)(2)は審理開始の前提要件

 CAFCは、米国特許法第312条(a)(2)が「IPR請願書には全てのRPIを記載しなければならない」と規定している点に着目しました。

 そして、この規定は、PTABがIPR請願を適法なものとして受理し、IPRを開始するための前提条件を定めたものであるから、RPIに関する判断は審理開始判断そのものと密接に関連すると述べました。

 そのため、RPI要件を満たしているか否かについての判断も、第314条(d)が定める「審理開始判断の不可争性」の対象に含まれると結論付けました。

 c.FedEx社の主張は実質的に審理開始判断を争うもの

 これに対しFedEx社は、自らが争っているのは「IPRの審理開始判断そのもの」ではなく、その後にPTABが手続終了の申立てを退けた判断であると主張しました。

 しかしCAFCは、このような主張であっても、その実質は「RPI要件が満たされていない以上、PTABはそもそもIPRを開始すべきではなかった」という点を問題にするものであり、結局は審理開始判断自体を争うことにほかならないと判断しました。

 したがって、この種の主張は米国特許法第314条(d)によって控訴審での審理が排除されるとして、FedEx社の主張を退けました。

(ii)自明性判断についてのCAFCの判断

 a.PTABの事実認識は誤り

 これに対し、PTABによる自明性の判断については、CAFCはFedEx社の主張を一部認めました。

 PTABはIPRの手続において、先行技術であるLau引例とBuford引例を組み合わせた無効理由について、FedEx社が実際には反論を提示して争っていたにも関わらず反論がなかったものと誤認し、その結果、FedEx社は実質的に争っていないものと誤解した上で自明であるとの判断を行っていました。

 しかし、控訴審においては、PTABの事実誤認は記録からも明白な客観的事実であったため、FedEx社及びQualcomm社の双方が、FedEx社は実際には当該組合せによる無効理由を争っていたとの認識で一致していました。すなわち、控訴審において、PTABは当事者の主張内容を誤って把握したまま判断を下していたことが明白になりました。

 b.「実効的な控訴審審理」は不可能

 CAFCは、PTABが当事者の主張を誤認したまま結論を導いており、しかも当該論点について十分な理由付けや分析を示していないため、控訴審としてその判断の当否を適切に審理することができないと指摘しました。

 判決は、このような状況では「実効的な控訴審審理(meaningful appellate review)」を行うことができないと述べ、PTABの判断手法に問題があることを明らかにしました。

 その結果、CAFCは、当該クレームに関するPTABの自明性判断を取り消すこととしました。

 c.逆転判決ではなく差戻し

 もっとも、FedEx社は、PTABの判断を取り消すだけでなく、そのまま特許が有効であるとの判断をCAFCが示すよう求めていました。しかしながらCAFCは、Lau引例およびBuford引例が各クレーム要件を充足するかどうかなどについて、PTABがまだ十分に検討していない事項が残されていると判断しました。そのため、控訴審が直ちに特許有効との結論を導くことは適切ではないとしました。

 CAFCは、控訴審が事件を「逆転(reversal)」して最終判断を示すことができるのは、証拠記録上、許される結論が一つしかない場合に限られると述べ、本件はそのような事案ではないと判断しました。

 そこでCAFCは、PTABの自明性判断を取り消した上で、改めて十分な審理と判断を行わせるため、本件をPTABに差し戻しました。

 

3.本判決の意義および実務への示唆

(1)PTABによる審理開始判断の不可争性を再確認

 本判決の第一の意義は、IPRにおける審理開始判断の不可争性に関する近年の最高裁判例の流れを改めて確認した点にあります。

 本件では、FedEx社はQualcomm社のIPR請願について、「RPIの記載が不十分である以上、PTABはIPRを開始すべきではなかった」と主張しました。しかしCAFCは、RPI要件を定める米国特許法第312条(a)(2)は審理開始の前提条件に関する規定であり、その充足性に関する判断は審理開始判断と密接に関連するものであると位置付けました。そして、このような問題については、米国特許法第314条(d)により、控訴審における司法審査の対象とはならないと判断しました。

 この点は、上記2件の連邦最高裁判決(Cuozzo Speed Technologies v. Lee判決およびThryv v. Click-to-Call判決)で示された「審理開始判断およびそれと密接に関連する事項については、原則として控訴審で争うことができない」との法理を、RPI要件にも適用したものと理解することができます。

 そのため、特許権者の立場からは、IPR請願人によるRPIの記載に問題があると考える場合には、控訴審での救済を期待するのではなく、PTABにおける審理開始段階から十分な主張・立証を尽くすことが、これまで以上に重要になると考えられます。

(2)最終書面決定の実体判断は引き続き審査対象

 一方で、本判決は、PTABの最終書面決定(Final Written Decision)の実体判断については、引き続きCAFCによる司法審理の対象となることも改めて示しています。

 本件では、PTABが先行技術の組合せに関するFedEx社の反論を適切に認識しないまま自明性判断を行っていたことが問題となりました。CAFCは、このような状況では当事者の主張を踏まえた十分な理由付けがなされておらず、「実効的な控訴審審理」を行うことができないとして、PTABの判断を取り消し、事件を差し戻しました。

 このことは、PTABの最終判断については、たとえ審理開始段階の問題を争うことができない場合であっても、当事者の主張の見落とし、記録の誤認、あるいは理由付けの不足などが認められれば、CAFCによる実質的な司法審理が及び得ることを示しています。

(3)実務上の示唆

 以上のように、本判決は、IPR手続においては「審理開始段階」と「最終判断段階」とで司法審理の範囲が大きく異なることを改めて明確にした判決といえます。すなわち、RPI要件など審理開始に密接に関わる事項についてはPTAB段階での対応が極めて重要である一方、最終書面決定の実体判断については、PTABが当事者の主張を十分に検討し、適切な理由付けを示しているかという観点から、引き続きCAFCによる厳格な審理が行われることを示した点で、今後のAIAレビュー実務に対して重要な示唆を与える判決として注目されます。

 

[i] 米国特許法第314条(当事者系レビュー再審査の開始)の「(d)上訴の不能」は、「本条に基づく当事者系レビューを開始するか否かについての長官による決定は,最終的なものであり,上訴することができない。」と規定しています。

[ii] 米国特許法第312条(a)(2)は、IPRなどを請求する際、「すべての実質的利害関係者(Real Parties in Interest)を特定しなければならない」と規定しています。

[iii] IPRにおける手続終了の申立て(Motion to Terminate)とは、最終書面決定(Final Written Decision)が出る前に、進行中の審判手続を途中で終了させるようPTABに求める要請のことで 、たとえば当事者間の和解が成立した場合に提出されることが多いですが、手続き的エラーなどを理由に強制終了を求めて単独で申し立てるケースもあります。

[iv] 米国特許法第315条は、USPTOにおけるIPRと、連邦地裁での特許侵害訴訟など「他の法的手続」との関係や進行のルールを定めた条項であり、主な内容は以下の通りです:

・IPR申立ての制限(民事訴訟の先制): 申立人や真の利益関係者が、IPR申立て前に特許の無効を主張する民事訴訟を既に提起している場合、IPRを開始することはできません(第315条(a)(1))。

・民事訴訟の自動停止(IPR申立て後の場合): IPR申立て後に特許の無効を主張する民事訴訟を起こした場合、訴訟は自動的に一時停止されます(第315条(a)(2))。

・提訴期間の制限(1年ルール):侵害訴訟の訴状を受け取ってから1年以内にIPRを申し立てなければならないという厳格な期限が定められています(第315条(b))。

・一事不再理とエストッペル(禁反言): IPRで最終決定(Final Written Decision)が下された場合、申立人はその後、米国特許庁や裁判所において「IPRで無効主張できたはずの、あるいは主張した論点」について再び特許の無効を争うことが禁じられます(第315条(e))。

[v] 28U.S.C.§1295(a)(4)(A)は、CAFCに対し、USPTOのPTABによる決定に対する専属的な管轄権を与える連邦法規定です。

[vi] Cuozzo Speed Technologies v. Lee, 579 U.S. 261 (2016)事件判決において、米国連邦最高裁は、IPRの開始決定に関するUSPTO庁の判断は、米国特許法第314条(d)により原則として司法審理の対象とならないと判示しました。また、IPRにおけるクレーム解釈として当時採用されていた「Broadest Reasonable Interpretation(BRI)」基準の適法性も認めました。

[vii] Thryv v. Click-to-Call Technologies, 590 U.S. 45 (2020)判決において米国連邦最高裁は、IPR請願が特許法第315条(b)の1年の出訴期間制限(time bar)に違反するか否かについてのPTABの判断も、審理開始判断と密接に関連するため、第314条(d)により控訴審で審理できないと判示しました。Cuozzo判決の法理をさらに拡張した判決とされています。

 

[担当]深見特許事務所  野田 久登

 

[情報元]

     1. IP UPDATE (McDermott) “Missed delivery: Institution decision statutorily unreviewable”(May 7, 2026)
https://www.ipupdate.com/2026/05/missed-delivery-institution-decision-statutorily-unreviewable/

     2. Fed. Express Corp. v. Qualcomm Inc., Case No. 24-1236 (Fed. Cir. Apr. 29, 2026)事件CAFC判決原文
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-1236.OPINION.4-29-2026_2684651.pdf