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農業データを収集、処理、および共有するソフトウェアに関する主題の特許適格性を否定したCAFC判決紹介

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、農業作業データを収集、処理、および共有するソフトウェアに関する5件の特許の主題について特許適格性を有さないと判断した連邦地方裁判所の判決を支持しました。CAFCは一方で、連邦地方裁判所が理由を示すことなく本件訴訟の弁護士費用について米国特許法285条[i]の「例外的なケース(exceptional cases)」に該当しないとした判断を破棄し、連邦地方裁判所に差し戻しました。

AGI SureTrack LLC v. Farmers Edge Inc., Case Nos. 24-1730; -1830 (Fed. Cir. Jun. 2, 2026) (Moore, Mayer, Lourie, JJ.)

 

1.事件の経緯

 AGI SureTrack LLC(以下、「AGI社」)は、農業機械による作業中に当該機械に取り付けられた受動的なデータ収集装置を用いて農業作業データをリアルタイムで収集し、収集されたデータをオンラインの農業データ交換システムまたはサーバーを介して処理し共有するシステムを対象とする5件の特許(米国特許第11,126,937号、第10,963,825号、第1,164,116号、第11,361,261号、および第11,507,899号:以下、「本件特許」と総称)を保有しています。

 AGI社は、Farmers Edge Inc.およびFarmers Edge (US) Inc.(以下、両社を「Farmers社」と総称)が本件特許を侵害していると主張して、Farmers社をネブラスカ州連邦地方裁判所(以下、「地裁」)に提訴しました。

 

2.本件特許

 本件訴訟においては、争点となった本件特許の特許適格性に関して、本件特許の5件の米国特許を代表するクレームとして第11,126,937号特許(以下、「’937特許」)のクレーム1のみが議論されています。以下に、’937特許のクレーム1の原文および弊所仮訳をお示しします。

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 1. A relay device for tracking farming operations for a farming business, comprising:

 (a) a microprocessor;

 (b) a bus connector for connecting the relay device to a message bus on a farming vehicle or farming implement, wherein the message bus is configured to carry messages generated by the farming vehicle or the farming implement while the farming vehicle and the farming implement are used to perform the farming operation;

 (c) a global positioning system [(“GPS”)] receiver that receives position and time signals from space-based satellites while the farming operation is performed;

 (d) a memory storage area that stores (i) an electronic farm record for the farming business, (ii) descriptive information about a farming operation land segment associated with the farming business, and (iii) a plurality of implement profiles each defining, for a known farming implement, a known manufacturer code, a known device class, a known version and a known communication protocol; and

 (e) an application program comprising programming instructions that, when xecuted by the microprocessor, will cause the microprocessor to automatically

 (i) extract content from one or more messages transmitted on the message bus and use the extracted content to determine that there is a match between the farming implement used to perform the farming operation and the known farming implement corresponding to one of the plurality of implement profiles;

 (ii) use the extracted content, the position and time signals and the known communication protocol defined by said one of the plurality of implement profiles to determine a set of operating events and a travel path for the farming operation,

 (iii) use the set of operating events, the travel path and the descriptive information stored in the memory storage area to determine that the farming operation occurred on the farming operation land segment, and

 (iv) record the farming operation and the descriptive information for the farming operation land segment in the electronic farm record.

クレーム1の弊所仮訳

 1. 農業事業における農業作業を追跡するためのリレー装置であって、前記リレー装置は、

 (a) マイクロプロセッサと、

 (b) 農業用車両または農業用作業機上のメッセージバスに前記リレー装置を接続するためのバスコネクタとを備え、前記メッセージバスは、前記農業用車両および前記農業用作業機を用いて前記農業作業が行われている間に前記農業用車両または前記農業用作業機によって生成されたメッセージを伝送するように構成され、

 前記リレー装置はさらに、

 (c) 前記農業作業が行われている間に宇宙空間の衛星から位置信号および時刻信号を受信する全地球測位システム(GPS)受信機と、

 (d) メモリ記憶領域とを備え、前記メモリ記憶領域は、

  (i) 前記農業事業に関する電子農業記録と、(ii) 前記農業事業に関連付けられた農業作業用地区分に関する記述情報と、(iii) 複数の作業機プロファイルとを記憶し、前記複数の作業機プロファイルは、既知の農業用作業機について、既知の製造業者コード、既知の装置クラス、既知のバージョン、および既知の通信プロトコルをそれぞれ定義し、

 前記リレー装置はさらに、

 (e) プログラミング命令を含むアプリケーションプログラムを備え、前記プログラミング命令は、前記マイクロプロセッサによって実行されたときに、前記マイクロプロセッサに以下の動作を自動的に行わせる:

  (i) 前記メッセージバス上で送信された1つまたは複数のメッセージから内容を抽出し、かつ前記抽出された内容を用いて、前記農業作業の実行に使用された農業用作業機と、前記複数の作業機プロファイルのうちの1つに対応する前記既知の農業用作業機との間に一致があることを判定すること;

  (ii) 前記抽出された内容、前記位置信号および前記時刻信号、ならびに前記複数の作業機プロファイルのうちの前記1つによって定義された前記既知の通信プロトコルを用いて、前記農業作業に関する一連の作業イベントおよび走行経路を決定すること;

  (iii) 前記一連の作業イベント、前記走行経路、および前記メモリ記憶領域に記憶された前記記述情報を用いて、前記農業作業が前記農業作業用地区分において行われたことを判定すること;および

  (iv) 前記農業作業および前記農業作業用地区分に関する前記記述情報を前記電子農業記録に記録すること。

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3.地裁の判断

(1)特許の有効性について

 侵害訴訟の被告であるFarmers社は、本件特許のクレーム(上記の’937特許のクレーム1)は特許適格性のない対象に向けられているとして米国特許法101条に基づき本件特許を無効とする略式判決(summary judgment)を申立てました。

 地裁は、当該クレームについて、「汎用的な(既製の)コンピュータやセンサーを用いて標準的な農業用作業機からデータを収集するもの」であり、「データを収集、処理、および共有するソフトウェアを対象とするもの」であると認定しました。さらに地裁は、「主張されたクレームの構成要素は、個別に検討しても、あるいは順序立てて組み合わせたものとして検討しても、それらの構成要素を抽象的アイデアから発明的概念へと変容させるものではない」と判断しました。

 このように地裁は、本件特許が特許適格性のない対象に向けられたものであると判断し、米国特許法101条に基づき本件特許を無効とするFarmers社による略式判決の申立てを認めました。

(2)弁護士費用について

 地裁はまた、弁護士費用の裁定に関連する米国特許法285条の規定に基づき、本件は弁護士費用の裁定の対象となる「例外的なケース」には該当しないとの判断も下しました。

(3)CAFCへの上訴

 侵害訴訟の原告であるAGI社は、本件特許の無効判決を不服としてCAFCに控訴しました。一方、Farmers社も弁護士費用の裁定に関して「例外的なケースに該当しない」とした地裁の判断に対して交差控訴を行いました。

 

4.CAFCの判断

(1)特許適格性について

 CAFCは、Aliceテストのステップ1およびステップ2の枠組み[ii]を適用し、米国特許法第101条に関する地裁の判断を支持しました。Aliceテストのステップ1において、CAFCは、AGI社のクレームが「農業データを収集、分析、送信する」という抽象的な概念に向けられたものであると認定しました。CAFCは、データの収集、分析、送信(これらは精神的活動として特徴づけられ得る行為です)を行うために従来のコンピュータ構成要素を使用するクレームは、抽象的な概念に向けられたものであると説明しました。

 また、CAFCは、本件特許が、異なるブランドの農業機械間における相互運用性の問題を解決する、従来とは異なるハードウェアおよびソフトウェアのシステムをクレームしているというAGI社の主張を退けました。CAFCは、クレームの文言には、相互運用性の問題やその問題を解決するための技術的解決策は一切記載されておらず、明細書においても、本件発明は農業作業データを追跡・保存し、それによって利益を得るための手段として記述されていたに過ぎないと指摘しました。

 CAFCはまた、通信プロトコルの検出や、農業機械情報を復号するための保存された「作業機プロファイル」の使用に関するクレームに依拠するというAGIの主張を退けました。CAFCの見解では、「農業データ」という特定の分野に限定しても、また機器ごとの通信プロトコルを定義しても、それらの限定事項は単に抽象的な概念を組み合わせたに過ぎず、データ収集、処理、および送信を対象とするクレームとしての性質を変えるものではありませんでした

 Aliceテストの適格性判断のステップ2にいて、CAFCは、その抽象的アイデアを特許適格な主題へと変えるのに十分な「発明的概念(inventive concept)」を見出しませんでした。本件特許のクレームは、従来通りの機能を実行する汎用的なコンピュータの構成要素に依拠していました。CAFCは、クレームされた自動化によって農業データの収集・分析の速度や効率が向上した可能性はあるものの、自動化による単なる速度向上はAliceテストのステップ2の「発明的概念」を提供するものではないと説明しました。クレームの構成要素を個別に、かつ順序立てた組み合わせとして検討した結果、CAFCは、本件特許が農業データの追跡および収集に関する特許適格な応用をクレームするものではないと結論付けました。

(2)弁護士費用について

 CAFCは、弁護士費用に関しては地裁の判断には同意しませんでした。地裁は、本件が特許法285条に規定する「例外的なケース(exceptional case)」には当たらないと判示しましたが、その判断に至る理由を何ら示していませんでした。CAFCは、地裁が常に詳細な理由を述べる必要はないと指摘したものの、本件のように地裁の判断理由が何ら示されていなければ、CAFCは地裁が裁量権を逸脱・濫用したかどうかを判断できないと指摘しました。CAFCは、地裁は、有意義な控訴審理を可能にするのに十分な説明を提供しなければならないと述べ、原判決を破棄して地裁に差し戻しました。

 CAFCはまた、Farmers社が連邦民事訴訟規則54条(d)(2)(B)[iii]に基づく弁護士費用の請求権を喪失したとする主張も退けました。同裁判所は、同規則に関する諮問委員会の注釈(Advisory Committee Note)を根拠としました。同注釈には、費用請求の申立てを行うための14日間の期限は、控訴後の新たな判決(破棄や差し戻し後の判決を含む)が下された時点で新たに起算されると記載されています。したがって、Farmers Edge社は差し戻し審において費用請求を行う権利を維持していました。

 

5.実務上の留意点

 本判決は、Alice判決以降に蓄積された一連の判例の一つであり、特定の産業分野のデータ収集・分析・送信を対象とする特許クレームであっても、汎用的なコンピュータ構成要素に依拠し、かつ具体的な技術的改良を明記していない場合には、特許法101条の下で依然として無効とされるリスクが高いことを示しています。

 本件訴訟のように、システムが相互運用性の問題を解決するものであると特徴付け、後になって裁判でいくら主張したとしても、クレームにおいてその解決策が明示的に記載されていなければ、特許適格性を主張するための十分な根拠とは評価されないことに留意すべきです

 汎用的なハードウェアを用いて処理を「自動化」したり「高速化」したりするだけでは、Aliceテストのステップ2における「発明的概念」とは認められません。特許出願人としては、本件発明のように汎用ハードウェアを用いて特定分野のデータを自動的に収集・処理・記録するだけのクレームは、特許不適格と判断されるリスクが極めて高いため、単なる自動化や速度向上を超えた、技術的に非慣用的なハードウェア・ソフトウェアの具体的構成を組み込むことが不可欠です。

 

 

[i] 米国特許法285条は、弁護士費用の敗訴者負担(“fee shifting”)に関する規定であり、「裁判の勝者が敗者から合理的な弁護士費用を回収できる例外的なルール」を定めています。米国の民事訴訟においては通常、弁護士費用は各当事者が負担することが原則(連邦民事訴訟規則第54条(d)(1))であり、アメリカン・ルールと呼ばれています。本条は「例外的なケース(exceptional cases)」に限ってその負担を相手に転嫁(シフト)することを認める規定です。

 

[ii] Aliceテストは、Mayo事件最高裁判決(2012年)およびAlice事件最高裁判決(2014年)におけるMayo/Aliceの法理に基づいて、次の2つのステップにより特許適格性を判断するものです。

 ステップ1:特許クレームが、判例法上の例外としての「自然法則」、「自然現象」、「抽象的アイデア」のいずれかを対象とするかどうかを判断。

 ステップ2:これらのいずれかを対象とする場合、特許適格性を有しない主題を、特許適格性を有する応用(patent eligible application)に変換するのに十分な発明概念が、付加的要素としてクレームに含まれるかどうかを判断。

 

[iii] 米国連邦民事訴訟規則(FRCP)第54条(d)(2)(B)は、裁判後に勝訴した当事者などが相手方に弁護士費用(Attorneys’ Fees)の支払いを請求する「申立て(Motion)」の提出期限と記載要件を定めた手続規定です。

 

[担当]深見特許事務所  堀井 豊

 

[情報元]

     1. McDermott Will & Shulte IP Update | June 11, 2026 “E-I-E-I-No patents for data harvesting”

https://www.ipupdate.com/2026/06/e-i-e-i-no-patents-for-data-harvesting/

     2. AGI SureTrack LLC v. Farmers Edge Inc., Case Nos. 24-1730; -1830 (Fed. Cir. Jun. 2, 2026) (Moore, Mayer, Lourie, JJ.)(判決原文)

https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-1730.OPINION.6-2-2026_2703020.pdf