域外適用に関する訴訟上の合意の拘束力を示した米国連邦巡回控訴裁判所判決
本件は、半導体技術に関する特許について、国外製造工程を含む行為の米国特許法上の取扱いが争点となったものであり、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)判決は、当事者間の訴訟上の合意(stipulation)により米国特許法第271条[i]に基づく侵害成立に必要な「米国内との結び付き(U.S. nexus)」[ii]が認められている以上、後に、「米国特許法の域外適用禁止原則(presumption against extraterritoriality)」を理由として非侵害を主張することは許されないと判断し、事件を差し戻しました。
VLSI Technology LLC v. Intel Corporation, Case No. 24-1772 (Fed. Cir. April 14, 2026)
1.事案の背景
(1)当事者の概要および特許侵害訴訟の提起
VLSI Technology LLC(以下「VLSI社」)は、マルチコアプロセッサで測定された性能特性に基づいてタスクを実行するための適切なコア選定に関する複数の特許を有しています。VLSI社は、これらの複数の特許のうちの8件の特許をIntel Corporation(以下「Intel社」)が侵害したとして、2017年にカリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所(以下「地裁」)に訴訟を提起しました。
(2)本件訴訟において争点の対象となった特許の概要
上記8件の特許のうち、本件控訴において争点となった米国特許No.8,566,836(以下「’836特許」)の代表的なクレームであるクレーム1および10は、以下のように規定しています。
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1. A method for operating a multi-core processing device, comprising:
measuring a processing speed parameter for each of a plurality of cores;
storing each measured processing speed parameter for each of the plurality of cores in a storage device; and
upon identifying a processing task that can not be run across the plurality of cores, selecting a core from the plurality of cores having a fastest measured processing speed parameter at a given voltage to run the processing task.
1. マルチコア処理装置の動作方法であって、以下のステップを含む:
複数のコアそれぞれについて処理速度パラメータを測定するステップ;
前記複数のコアそれぞれについて測定された各処理速度パラメータを記憶装置に格納するステップ;および
前記複数のコア全体で実行できない処理タスクを特定したときに、所定の電圧において最も速い測定処理速度パラメータを有するコアを前記複数のコアの中から選択して、その処理タスクを実行するステップ。
10. A multi-core system on chip (SOC), comprising:
a plurality of cores, each core comprising a performance measurement circuit for measuring a performance parameter value for said core; and
at least a first storage device for storing the performance parameter values for the plurality of cores for use in selecting a core having maximized or minimized performance parameter value at a specified voltage to run a processing task that can not be run across the plurality of cores.
10. マルチコア・システムオンチップ(SOC)であって、以下の構成要素、すなわち、:
各々がそれぞれの性能パラメータ値を測定する性能測定回路を備える複数のコア;および;
前記複数のコアの性能パラメータ値を記憶する少なくとも1つの第1記憶装置を備え、
前記第1記憶装置は、前記複数のコア全体で実行できない処理タスクを実行するために、特定の電圧において性能パラメータ値が最大または最小となるコアを選択する際に使用される。
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(3)当事者の主張
本件において、VLSI社は、Intel社のマルチコアプロセッサ製品が、タスク実行時に適切なコアを選択する技術に関するVLSI社の8件の特許を侵害すると主張しました。これに対しIntel社は、域外適用[iii]、装置クレームの実施可能性、均等論、及び損害論について反論しました。
(i)域外適用に必要な米国内との結び付きについて
まず、方法クレームについてVLSI社は、当事者間の訴訟上の合意(stipulation)により、被疑侵害製品及び関連活動の70%については、米国特許法第271条において要求される「米国内との結び付き」が認められることが既に合意されていると主張しました。これに対しIntel社は、この合意は損害計算上の便宜的取決めにすぎず、侵害成立に必要な「米国内との結び付き」を認めたものではないと反論しました。またIntel社は、「測定(measuring)」工程が海外製造施設で実施されている以上、方法クレーム侵害は成立しないと主張しました。
装置クレームについて、VLSI社は、Intel社製品にはBIST/PBIST等の内蔵自己試験機能が存在し、製品自体がクレームされた機能を「合理的に実現可能(reasonably capable)」であると主張しました。これに対しIntel社は、問題となる測定機能は海外工場で使用される外部試験装置(ATE tester)との組み合わせによって初めて実現されるものであり、Intel社製品単体ではクレームされた機能を実現できないと反論しました。
(ii)均等論に基づく侵害の主張について
均等論に基づく特許侵害について、VLSI社は、Intel社製品は実質的にクレームと同等であり、均等論侵害が成立すると主張しました。これに対しIntel社は、出願経過中の説明により、「selecting a core」という要件は限定的に解釈されるべきであり、VLSI社は均等論によりその範囲を再拡張できないと主張しました。
(iii)損害論について
さらに損害論について、VLSI社は、損害賠償専門家によるNPV理論及びVPU理論に基づく合理的ロイヤルティ算定を提示しましたが、Intel社は、これらの理論はローカルルール[iv]上要求される十分な事前開示を欠いているとして、その排除を求めました。
(4)地裁の判断
地裁は、主として①域外適用(extraterritoriality)、②均等論(doctrine of equivalents: DOE)、及び③損害論の各論点についてIntel社側主張を広く認め、非侵害の略式判決(summary judgment)を下しました。
(i)域外適用に必要な米国内との結び付きについて
まず、方法クレームについて、地裁は、クレーム中の「測定」工程が実際には海外製造施設において実施されている点を重視し、米国特許法第271条に基づく米国特許法の適用に必要な「米国内との結び付き」が欠けると判断しました。その結果、域外適用禁止の原則により、方法クレームについて侵害は成立しないと結論付けました。
また、装置クレームについても、地裁は、VLSI社が主張する「性能パラメータ値の測定機能」が、Intel社製品単体ではなく、海外工場において使用される外部試験装置(ATE tester)との組み合わせによって実現される点を重視しました。そして、被疑侵害製品が米国内においてクレームされた機能を実現可能(reasonably capable)であるとの立証が不十分であるとして、装置クレームについても非侵害を認定しました。
(ii)均等論に基づく侵害の主張について
さらに、均等論に基づく侵害の主張について、地裁は、出願経過(prosecution history)に基づくディスクレーマー(prosecution disclaimer)を理由として、クレーム10の「coreを選択する(selecting a core)」との要件を限定的に解釈しました。すなわち、「単一コアタスクを識別した後に(upon identifying)」実行される場合に限定されると解釈し、その結果、均等論による侵害主張も認めませんでした。
(iii)損害論について
加えて、損害論についても、地裁はVLSI社側に不利な判断をしました。VLSI社の損害賠償専門家(Dr. Sullivan)が提示したNPV(Net Present Value)理論及びVPU(Value Per Unit)理論について、特許ローカルルール上要求される内容として十分に事前開示されていなかったとして、これらの理論を排除しました。
このように、地裁は、域外適用法理、均等論制限、及び損害論排除という複数の論点においてIntel社の主張を認め、VLSI社の侵害主張をほぼ全面的に退けました。
地裁判決に対してVLSI社は、CAFCに控訴しました。
2.CAFCの判断
控訴審においてCAFCは、地裁による非侵害の略式判決の主要部分を覆し、事件を地裁へ差し戻しました。CAFCの判断内容は、以下の通りです。
(1)域外適用に必要な米国内との結び付きについて
まず、域外適用に関して、CAFCは、地裁が当事者間の訴訟上の合意の意味を誤って解釈したと判断しました。本件では当事者間で、「侵害の技術的要件を満たすIntel社製品及び関連活動の70%については、35 U.S.C. §271上要求される「米国内との結び付き」が存在するものとみなす」との合意が成立していました。CAFCは、この合意は「侵害に必要な米国内との結び付き」を認める趣旨であり、地裁のように「クレーム要件自体が米国内で実施されていること」を追加的に要求する解釈は、訴訟上の合意の中の“without regard to geographic considerations” との文言に反すると指摘しました。その結果、方法クレームについての域外適用を理由とする非侵害判断は覆されました。
また、装置クレームについても、CAFCは、地裁が「実際に米国内で測定機能が実施されたか」を重視した点を問題視しました。CAFCは、装置クレームにおいて重要なのは、被疑侵害製品がその機能を「合理的に実現可能(reasonably capable)」であるかどうかであり、現実の使用場所そのものではないと説明しました。そして、Intel社製品には内蔵自己試験機能(BIST/PBIST)が存在する以上、外部ATEテスターなしでは測定できないと断定することはできず、少なくとも重要事実について争いが存在すると判断しました。したがって、装置クレームについても略式判決は不適切であるとされました。
(2)均等論に基づく侵害の主張について
均等論に基づく侵害の主張についても、CAFCは地裁判断を覆しました。CAFCは、出願経過中に「selecting a core」を地裁が解釈したように限定する明確かつ間違えようのない(unmistakable)放棄は存在しないと判断し、地裁によるクレーム限定解釈自体が誤りであると述べました。そのため、均等論に基づく非侵害判断も維持できないとされました。
(3)損害論について
もっとも、CAFCは、損害論に関する地裁判断については維持しました。すなわち、Dr. SullivanによるNPV理論及びVPU理論について、十分な事前開示がなかったとして排除した地裁判断には、「裁量逸脱(abuse of discretion)」は認められないと判断しました。
(4)結論
以上のように、CAFCは、本件において特に当事者間の訴訟上の合意の拘束力を重視し、地裁がその明確な文言を事実上再解釈した点を問題視しました。その結果、Intel社側が得ていた非侵害の略式判決の大部分は覆され、事件は陪審審理等のために地裁へ差し戻されています。
3.特許法の域外適用に関連する最近の別のCAFC判決との比較
(1)両判決の共通点について
弊所HPにおいて2026年6月4日付で「国外販売に基づく損害賠償の算定を問題視し、陪審評決の一部を取消した米国連邦巡回控訴裁判所判決」というタイトルで配信した記事(https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/15804/)で紹介したTrustees of Columbia Univ. v. Gen Digital Inc.(以下「Columbia大学事件」)CAFC判決と、本件判決とは、いずれも特許法の域外適用(extraterritoriality)を論点としていますが、判断の焦点と法的構成は次のように相違しています。
(2)両判決の相違点
まず、Columbia大学事件では、CAFCは「外国販売に基づく損害賠償そのもの」が認められるかを問題にしました。同事件においてNortonブランドのソフトウェアを販売するGen Digital Inc.は米国内サーバから海外サーバへソフトウェアを配信し、海外顧客に販売していましたが、CAFCは、たとえ米国内でソフトウェア生成・配信の一部工程が行われていても、実際の販売・使用が国外で完結する以上、原則として米国特許法は国外販売には及ばないと判断しました。つまり、Columbia大学事件では、侵害行為の「経済的対象」が海外市場であることを重視し、外国売上に対応するロイヤルティ損害を否定しています。
これに対して、本件判決では、CAFCは「侵害行為自体に十分な米国内との結び付きがあるか」を問題にしました。ここではIntel社が、測定処理の一部が国外で行われたため方法クレーム侵害は域外適用になると主張しましたが、当事者間で「全世界活動の70%は米国内との結び付きを有する」との訴訟上の合意が存在していました。CAFCは、この訴訟上の合意を重視し、「米国内との結び付きが存在しない」として非侵害の略式判決を出した地裁判断を覆しました。したがって、本件では、「国外要素が存在しても、米国内との実質的結び付きが認められれば米国特許法第271条の適用を排除できない」という方向で判断されています。
(3)両判決の位置付けの対比
以上のように両判決を比較すると、それぞれの位置付けが次のように相違することが分かります。Columbia大学事件は「外国売上に対する損害賠償範囲の制限」を重視した判決であり、米国特許法の国外市場への拡張を抑制する方向です。他方、本件は「侵害行為の一部に国外要素があっても、米国内との結び付きが十分なら侵害成立を排除しない」という方向で、むしろ柔軟に国内性を認めています。さらに言えば、Columbia大学事件では「販売地・使用地」が論点の中心であったのに対し、本件では「技術的実施行為のどこに米国内性を認めるか」が中心でした。このため、前者は損害論寄り、後者は侵害成立論寄りの域外適用判例と位置付けることができます。
[i] 米国特許法第271条は、特許侵害行為を定義する中心規定であり、第271条(a)は、特許発明を米国内で「製造(make)」、「使用(use)」、「販売申出(offer to sell)」、「販売(sell)」する行為、又は米国へ輸入する行為を侵害と規定しています。一方、第271条(f)は、特許製品の部品を米国から海外へ供給して海外で組み立てる行為等について、一定の場合に侵害責任を認める規定であり、米国特許法の属地主義の例外として位置付けられています。
[ii] 「米国内との結び付き(U.S.nexus)」とは、問題となる行為と米国との間に存在する、法的に十分な結び付き(connection)を意味します。特許侵害訴訟においては、特に、侵害行為が、米国特許法第271条を適用するのに十分な米国内との結び付きを有しているかを判断する際に用いられます。
[iii] 本件でいう「域外適用(extraterritoriality)」は、厳密には、米国特許法の特に第271条に規定する域外適用を意味しています。より具体的には、米国外で実施された行為、米国外で完結する製造・測定・使用行為、外国における活動に基づく侵害責任や損害賠償に対して、米国特許法をどこまで適用できるか、という問題です。
[iv] 本件でいう「ローカルルール」とは、本件判決原文の第12頁~第13頁にかけて説明されているように、カリフォルニア北部地区連邦地裁の特許ローカルルール(Patent Local Rules)を指します。同ローカルルールの3-8において、損害賠償額の算定方法やその根拠となる理論について、訴訟の早期段階で相手方に開示することを求めており、本件ではVLSI社の専門家が後に提示したNPV理論及びVPU理論が十分に開示されていなかったことが問題とされました。
[担当]深見特許事務所 野田 久登
[情報元]
1. IP UPDATE (McDermott) “Pay up, per party litigation stipulation”(April 23, 2026)
https://www.ipupdate.com/2026/04/pay-up-per-party-litigation-stipulation/
2. VLSI Technology LLC v. Intel Corporation, Case No. 24-1772事件CAFC判決原文
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-1772.OPINION.4-14-2026_2675876.pdf

