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差戻し命令の原則(mandate rule)」は、控訴審で実際に判断された争点にのみ適用されると判示したCAFC判決紹介

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、特許審判部(PTAB)による当事者系レビュー(IPR)の最終書面決定に対する1回目の控訴審において、クレームされた発明は自明ではないとする当該最終書面決定を破棄してPTABに差し戻す判決を下しました。PTABは差戻し審において、当該最終書面決定では検討していなかったために1回目の控訴審では判断の対象とはされなかったクレームの限定事項について取り上げて検討し、その結果、当該クレームの発明は自明であるとの判断を下しました。CAFCは2回目の控訴審において、このようなPTABの判断はCAFCの「差戻し命令の原則(mandate rule)」[i]の範囲を逸脱するものではないと判断し、自明であるとするPTABの判断を支持しました。

Intellectual Pixels Ltd. v. Sony Interactive Entertainment LLC, Case No. 24-2174 (Fed. Cir. July 10, 2026) (Dyk, Stoll, Stark, JJ.)

 

1.事件の経緯

(1)本件特許

 Intellectual Pixels Limited(以下、「IPL社」)は、英国を拠点とする知的財産ライセンス企業であり、遠隔地のビジュアルサーバーを使用してデジタル画像を生成・表示する方法を対象とする米国特許を保有していることが知られています。そのような米国特許の1つとしてIPL社は、外部のビジュアルサーバーを使用してデジタル画像を生成する方法およびシステムに関する米国特許第10,681,109号(以下、「本件特許」)を所有しています。

(2)IPRの請願

 Sony Interactive Entertainment LLC(以下、「Sony社」)は、本件特許について、米国特許商標庁(USPTO)にIPRの請願を提出しました。本件特許はクレーム1-18を有しており、Sony社はIPRにおいてクレーム1-18の有効性に異議を唱えましたが、本件IPRの手続の過程でIPL社がクレーム13-18の法定のディスクレーマーを提出したことにより、残されたクレーム1-12の有効性が争われることになりました。クレーム1-12のうち、クレーム1が方法の独立クレーム、クレーム8がシステムの独立クレームであり、クレーム8はクレーム1の方法のサーバ側のステップを実行するサーバを含むシステムをクレームしています。

(3)本件特許のクレーム1

 以下に、本件特許を代表するクレームとして、クレーム1の原文と、その弊所仮訳をお示しいたします。なお、文中、太字および下線で示した部分は本件CAFC判決原文において強調されていた部分を示します。

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1. A method of hosting an interactive software application comprising:

running at a server the interactive software application;

receiving at the server user input signals from a client device, wherein the user input signals are used to control updating of the state of the interactive software application;

generating at least one updated image at the server in response to updating the state of the interactive software application; and

compressing the at least one updated image and transmitting the compressed updated image to the client device, wherein the server transmits the updated image as a compressed frame that can be decompressed and displayed as an updated image at the client device.

 

1. インタラクティブなソフトウェアアプリケーションをホストする方法であって、前記方法は、

 サーバー上で前記インタラクティブなソフトウェアアプリケーションを実行することと、

 クライアントデバイスからのユーザー入力信号を前記サーバーで受信することとを備え、前記ユーザー入力信号は、前記インタラクティブなソフトウェアアプリケーションの状態の更新を制御するために使用され、

 前記方法はさらに、

 前記インタラクティブなソフトウェアアプリケーションの状態の更新に応答して、少なくとも1つの更新された画像を前記サーバーで生成することと

 前記少なくとも1つの更新された画像を圧縮し、前記圧縮された更新された画像を前記クライアントデバイスに送信することとを備え、前記サーバーは、前記更新された画像を、前記クライアントデバイスにおいて更新された画像として、展開されかつ表示され得る圧縮フレームとして送信する、方法。

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(4)IPRの争点とPTABの判断

 上記の本件特許のクレーム1の発明の主な特徴は、画像の生成を外部サーバーが担うことで、クライアントデバイスの処理負担を軽減する点にあります。今回の訴訟では上記のクレーム1の記載(太字・下線の部分)に関し、先行技術との対比において以下の2点が争点となりました。

 ① 第1の争点:少なくとも1つの更新された画像を前記サーバーで「生成」することが先行技術に開示されているか(クレーム1の最後から2つめの段落)

 ② 第2の争点:少なくとも1つの更新された画像を「圧縮」することが先行技術に開示されているか(クレーム1の最後の段落)

 IPRにおいてSony社が主張する主要な先行技術文献である米国特許第6,409,602号(以下、「Wiltshire引例」)には、ゲームが「専らサーバーコンピュータ/ホストコンピュータ上で」ホストされる一方で、ユーザーは別の「クライアントコンピュータ/端末コンピュータ」を通じてそのゲームをプレイするコンピュータゲームシステムが開示されています。Wiltshire引例の1つの実施形態では、サーバーが「ゲームプログラム」を実行し、「圧縮されたビデオMPEGストリーム」のような画像を生成し、その画像をユーザーへの表示のためにクライアントへ送信することについて記述しています。Wiltshire引例は、「ゲーム」の定義にビデオベースのゲームを含めています。

 PTABは、1回目の最終書面決定において、係争対象のクレームが特許を受けられないものであることをソニーが立証できなかったと結論付けました。特にPTABは、上記の第1の争点について、Wiltshire引例はサーバーにおける画像の「生成」を開示していないと結論付けました。その理由は、Wiltshire引例が開示していた画像の生成は、クレームが要求するような新しい(更新された)画像をレンダリング[ii]することではなく、表示すべき画像を所定のセットから外部サーバーが「選択」することに過ぎなかったからです。PTABは、上記の第2の争点については判断に至らず、Wiltshire引例は、圧縮されたビデオMPEGストリームの内容や起源について全く開示していない、と述べるに留まりました

 Sony社はPTABのこの決定を不服としてCAFCに対して1回目の控訴を行いました。

(5)1回目の控訴審におけるCAFCの判断

 最初の控訴審において、CAFCは、Wiltshire引例が新たな画像を生成することを開示しなかったとするPTABの認定は実質的な証拠によって裏付けられていないと結論付け、PTABの決定を破棄し、事件をPTABに差し戻しました。

 これは、Wiltshire引例がビデオゲーム「Doom」に関連して自らのシステムを動作させることを開示しており、かつ当事者間で「Doom」には新たな画像の生成が必要であるとの合意があったためです。このことは、Wiltshire引例はサーバーにおける画像の「選択」を開示しているだけで「生成」を開示していないと結論付けたPTABの1回目の認定について、実質的な証拠によって裏付けられていないとの疑義を生じさせました。

 1回目の控訴審でのCAFCの判断は、Wiltshire引例は「生成する」という限定事項を開示していないとした、第1の争点に関するPTABの判断に限定されていました。CAFCは、2の争点を含むその他の争点については判断を下さず、第1の争点に関するCAFCの上記判断と整合するさらなる手続のために事件をPTABに差し戻しました。

(6)差戻し審でのPTABの判断

 PTABは差戻し審において、第1の争点に関してCAFCの認定に従い、Wiltshire引例が、「Doom」のようなゲームと組み合わせてシステムを動作させることを開示していることにより、外部サーバーが新たに更新された画像を生成することを開示しており、したがって係争対象クレームにおける「生成」に関する限定を満たしていると認定しました。

 PTABはさらに、これらの新たに更新された画像が圧縮されたMPEGストリームとしてクライアントコンピュータに送信されるという、本件特許クレーム1の第2の争点の限定事項について、Wiltshire引例と、MPEG圧縮について開示する米国特許第6,404,817号(以下、「Saha引例」)との組合せにより満たされていると結論付け、本件特許発明はWiltshire引例とSaha引例との組み合わせにより自明であるとして、係争対象クレームを特許性なしとする2回目の最終書面決定を下しました。

 IPL社はこの決定を不服としてCAFCに対して2回目の控訴を行いました。

 

2.2回目の控訴審でのCAFCの判断

 IPL社は2回目の控訴審において、1回目の控訴審で明示的に覆されなかった2つの争点に関する認定事項をPTABが再検討したことは、CAFCの差戻し命令の原則に違反すると主張しました。

 CAFCはこのようなIPL社の主張を退けました。IPL社が指摘した2つの争点に関する認定事項のうちの1つ、すなわち外部サーバーが新たに更新された画像を生成することをWiltshire引例が開示していないということについては、1回目の控訴審での議論が、PTABの最初の認定に依拠するIPL社の主張の根拠を黙示的に覆すものであり、CAFCの1回目の判決によって実質的な証拠による裏付けがないとしてすでに破棄されていました

 もう一つの争点に関する認定事項は、Wiltshire引例が圧縮されたMPEGビデオストリームの内容や起源について全く開示していないというPTABの認定に関するものでした。CAFCは、この2つ目の認定は、PTABが1回目の最終書面決定において判断に至っていなかった「圧縮」というクレームの限定事項に関わるものであるため、前回の差戻し命令の範囲外であると結論付けました。PTABの1回目の最終書面決定は「生成」という限定事項のみに基づいていたため、「圧縮」に関する争点は1回目の控訴審においてCAFCの審理対象とはなっておらず、したがって、CAFCの差戻し命令によって明示的にも黙示的にも解決されていなかったからです。

 IPL社は、2025年のCAFCの判決であるBitmanagement Software GmbH v. United States事件[iii]を根拠に挙げ、最初の審理で行われた事実認定は、控訴審における審理対象となった場合、再検討されるべきではないと主張しました。しかし、CAFCは、「圧縮」という限定事項は最初の控訴審においてCAFCの審理対象となっていなかったため、その先例は本件には適用できないと判断しました。

 IPL社は予備的な主張として、Wiltshire引例には新たに生成された画像をMPEGストリームに圧縮することが教示されていないため、PTABによる自明であるとの判断は実質的な証拠に裏付けられていないと述べました。CAFCはこの主張を退け、Wiltshire引例が圧縮MPEGストリームをクライアントに送信することを開示しており、副次的な引用文献(Saha引例)が当時の一般的なMPEG規格について記述しており、当業者がリアルタイム画像のMPEG圧縮に精通していたという専門家証言を踏まえて、当業者がWiltshire引例のシステムにSaha引例のMPEG圧縮方式を組み合わせることについて十分な証拠があり、「圧縮」に関する当該限定事項が満たされているというPTABの判断は実質的証拠によって裏付けられていると判断しました。

 したがって、CAFCは、係争対象クレームは自明であるため特許を受けることができないとしたPTABの判断を支持しました。

 

[i] 「差戻し命令の原則」とは、控訴審で判断された争点は、原則として差戻し後の下級審で再検討することはできないとする原則です。

[ii] 「レンダリング(rendering)」とは、コンピュータがデータ(形状やコードなど)を計算・処理し、人間が見てわかる画像や映像、Webページなどの形として画面に映し出す作業のことをいいます。

[iii] Bitmanagement Software GmBH v. United States, 124 F.4th 1368 (Fed. Cir 2025)

 本判決は、連邦請求裁判所(the Court of Federal Claims:米国連邦政府に対する損害賠償請求を専門に審理する第1審裁判所)が控訴後に特定の従前の事実認定を再検討することは不適切であったであろうことを示唆しました。

[担当]深見特許事務所  堀井 豊

 

[情報元]

1.McDermott Will & Shulte IP Update | July 23, 2026 “Federal Circuit: Mandate rule applies only to issues actually decided on appeal”

https://www.ipupdate.com/2026/07/federal-circuit-mandate-rule-applies-only-to-issues-actually-decided-on-appeal/

 

2.Intellectual Pixels Ltd. v. Sony Interactive Entertainment LLC, Case No. 24-2174 (Fed. Cir. July 10, 2026) (Dyk, Stoll, Stark, JJ.)(判決原文)

https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-2174.OPINION.7-10-2026_2721236.pdf