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購入者に制約を付した販売および米国外での販売により特許権は消尽しない

(1)「Lexmark International, Inc. v. Impression Products, Inc.」において、米国連邦巡回裁判所(CAFC)大法廷は、①再利用および転売に関する制限を明確に通知した上で特許製品を販売した場合には特許権が消尽しない、②特許権者または実施権者が米国外で特許製品を販売した場合において、たとえ権利の留保がなされていなくても、特許製品に関する米国での特許権が消尽しない、と判示しました。
(2)背景
 Lexmark International, Inc. (Lexmark)は、多くの特許で保護されたプリンタおよびカートリッジを製造および販売しています。Lexmarkは、再利用および転売の制限の無い通常のカートリッジ(Regular Cartridge)を定価で販売し、再利用および転売の制限のあるカートリッジ(Return Program Cartridge)を割引価格で販売しています。
 Impression Products, Inc. (Impression)は、Lexmarkの2種類のカートリッジを取得して転売しました。Impressionは、Return Program Cartridgeについては、インクの詰替えによる再利用も行ないました。
 Lexmarkは、Impressionに対して特許侵害の訴えを提起しました。Lexmarkは、Lexmarkによって米国で販売された”Return Program Cartridge”をImpressionが取得してインクを詰替えて転売した行為は、Lexmarkの特許を侵害すると主張し(第1の侵害)、Lexmarkによって米国外で販売された”Regular Cartridge”および”Return Program Cartridge”のImpressionによる輸入は、Lexmarkの特許を侵害すると主張しました(第2の侵害)。
 Impressionは、抗弁として、Lexmarkによる米国および米国外でのカートリッジの最初の販売によってLexmarkの特許権は消尽したと主張しました。
(3)地裁判決
 第1の侵害について、地裁は、米国でカートリッジを販売した場合、再利用および転売の制限を付していたとしても、米国の特許権は消尽するとして、Impressionの抗弁を支持しました。第2の侵害について、地裁は、米国外での販売によっては米国での特許権は消尽しないとして、Impressionの抗弁を認めませんでした。
(4)CAFC大法廷判決
 第1の侵害について、CAFCは、地裁判決を覆しました。CAFCは、消尽論は、米国特許法271条の「特許発明を権限なく生産し、使用し、・・・者は、特許を侵害したものとする。」における「権限なく(without authority)」の解釈の問題であり、権限とは、特許権者が許可を与えることを意味し、特許権者は、条件または制限を課すことによって許可に制限を加えることもできるとした上で、特許権者が、明示的かつ合法的に再利用および転売に関する制限を購入者に知らせていた場合、特許権者が特許製品を販売しても、購入者や下流の購入者は、再利用および転売することができず、特許権が消尽しない、と判示しました。
 第2の侵害について、CAFCは、地裁判決を支持しました。CAFCは、米国外での著作権製品の販売によって著作権が消尽するとした最高裁判決「Kirtsaeng v. John Wiley & Sons, Inc.」は特許権の消尽問題には適用できないと判示しました。

[情報元]Morrison Foerster, Client Alert, February 25, 2016
[担当]深見特許事務所 西川 信行