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譲渡人禁反言の制限を認めた米国最高裁判決 | 弁理士法人 深見特許事務所

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譲渡人禁反言の制限を認めた米国最高裁判決

 米国最高裁は、譲渡人禁反言の法理は公平性の観点から原則として維持されるべきであるが、譲渡人の立場に譲渡前後で矛盾が生じない場合には、一定の制限が設けられるべきであるとしてCAFC差し戻す判決を下しました。
Minerva Surgical, Inc. v. Hologic, Inc. Case No.20-440(June 29, 2021, Supr. Ct.)

1.譲渡人禁反言の法理(Doctrine of Assignor Estoppel)について
(1)定義
 「譲渡人禁反言の法理」とは、特許権を一旦譲渡した譲渡人は、その後に、譲受人に対して当該特許の無効を主張できないという、公平性の観点に基づく原則を言います。
 特許権譲渡契約において、特許権者は譲受人に対して、特許が有効であることを暗黙に保証し、譲受人は、当該特許が有効であることを前提に特許権譲渡契約に合意したものであることから、譲渡人が後に特許無効を主張できるとすると、そのような暗黙の保証を否認することになります。この法理は、譲渡人が、譲渡の代価および特許発明を実施する権利の両方から不当に(二重の)利益を得ることの防止を図ったものです。
(2)譲渡人禁反言に関する米国判決の推移
 (i)最高裁は、1924年、Westinghouse Elec. & Mfg. Co. v. Formica Insulation Co.判決において、衡平の原理に基づき、譲渡人禁反言(Assignor Estoppel)の法理の適用を、一定の例外を示した上で、認めました。
 (ii)最高裁は、1945年、Scott Paper Co. v. Marcalus Mfg. Co.判決において、被疑侵害装置が、期限切れの特許発明を実施したものであると特許権の譲渡人が主張することは、譲渡人禁反言の法理によって妨げられることはないと判示しました。この判決は、譲渡人禁反言の適用に制限を加えていますが、譲渡人禁反言の法理自体を排除するものではありません。
 (iii)その後、最高裁は、1969年、Lear Inc. v. Adkins判決において、ライセンシー・エストッペル(Licensee Estoppel)の法理(特許ライセンスを受けた者が後にその特許の有効性を争うことは許されないという法理)を排除しました。この判決以降、特許についてはライセンシー・エストッペルの法理は適当されていません。

2.本件最高裁判決の事件の経緯
(1)本件特許の申請から、侵害訴訟の提起に至る経緯
 発明者であるTruckai氏は、透湿性ヘッドを備えた治療器の発明についての特許を申請しました。Truckai氏は、係属中の特許出願を彼の会社であるNovacept社に譲渡しました。その後この特許出願は、製造メーカーであるHologic社に買収されました。
 その後、Truckai氏は新しくMinerva社を設立し、水分不透過性を使用して不要な切除を回避する新しいデバイスを開発しました。その後Hologic社は、透湿性に関係なく、一般的なアプリケーターヘッドを含むようにクレームの範囲を拡大するための継続出願を行ない、クレームの記載から「透湿性」の限定を除いた広いクレームで特許を取得しました。
 その後、Hologic社はMinerva社を特許侵害で連邦地裁に訴訟を提起しました。
(2)連邦地裁における当事者の主張
 Minerva社は、より広い新たなクレームが明細書の発明の説明と一致しないため、Hologic社の特許は無効であると主張しました。それに対してHologic社は、譲渡人禁反言の法理により、Minerva社の特許無効の抗弁が禁止されるため、Minerva社がHologic社の特許を侵害していると主張しました。
 連邦地裁は、Hologic社に同意して、Minerva社による特許侵害を認める判決を下したため、Minerva社はCAFCに上訴しました。
(3)CAFCの判決と、最高裁判所への上訴
 CAFCは、譲渡人の意図とは無関係に、譲受人が後でクレームを拡大する補正を行なっていても、譲渡人禁反言の法理の適用を妨げるものではないとして、連邦地裁の決定を支持しました。
 Minerva社はCAFCの判決を不服とし、譲渡人禁反言の原則は廃止されるか、あるいは制約されるべきであると主張して、最高裁判所に上訴しました。Minerva社の主張の理由は、次の通りです。
 (i)1952年の特許法(Patent Act)において、特許の無効性は侵害を伴ういかなる訴訟においても抗弁となると記載されていることから、米国議会は譲渡人禁反言の法理を拒絶したと言える。
 (ii)Westinghouse事件後の複数の判決で、譲渡人禁反言の法理の適用が否定された。

3.最高裁判所の判断
(1)譲渡人禁反言の原則の維持
 最高裁判所はまず、譲渡人禁反言の原則を廃止すべきであるとのMinerva社の主張を退けて、公平性の観点から当該原則は維持されるべきものであると判断しました。その理由は、次の2点です。
 (i)譲渡人は、権利を譲渡する際に、それが有効に存在することを黙示的に保証しており、譲渡後に特許の無効を主張することは、その保証を撤回するに等しい。
 (ii)譲渡による金銭的な利益を得た後に発明を無効にしてその自由利用を可能にする行為は、利得の二重取りとなり不公平となる。
(2)譲渡人禁反言の制限
 しかしながら最高裁判所は、「譲渡人禁反言の趣旨は、特許の有効性に関する譲渡人の立場に一貫性が要求されるというものであるので、譲渡人が譲渡後の無効の主張と矛盾するような主張を譲渡前に明示的にも黙示的にも行なっていない場合は、そもそも公平性は問題にならない」との理由で、例えば以下の(i)~(iii)の例のような一定の状況下においては、譲渡人禁反言は制限されるべきであるとの判断を示しました。
(i)たとえば、一般的な雇用契約書により、今後の雇用関係で開発される全ての発明を事前譲渡する場合のように、具体的な特許クレームの有効性を保証すること自体が可能になる前に譲渡が行われる場合。
(ii)譲渡後の法律の改正により、譲渡前に有効であった特許が無効と判断される場合には、譲渡人は、新法に基づいて特許の無効を主張することが認められる。
(iii)譲渡人が、特許ではなく特許出願を譲渡する場合、譲受人がクレームを実質的に拡張することができるため、そのようなクレーム範囲の拡張が譲渡人が有効性を保証した範囲を超える場合には、譲渡人による特許無効の主張は、矛盾を生じない。
 なお本件は、「譲受人が特許クレームを実質的に拡張したか否か」について具体的な判断を行なうために、CAFCへ差し戻されています。

4.少数派裁判官の反対意見
 本件最高裁判決において、9人の裁判官のうち、以下に述べる4名が、少数派として反対意見を表明しています。
 まず、Thomas裁判官とGorsuch裁判官が加わったBarret裁判官の反対意見では、譲渡人禁反言がすでにコモンローの一部であるという多数派の見解に同意せず、1952年の米国特許法が譲渡人の禁反言の法理を組み込んだとは言えないとの意見を示しました。
 またAlito裁判官は、多数派はその決定に際して、Westinghouse事件判決に適切に対処しなかったと述べました。

5.実務上の留意点
 本件判決により、米国特許庁にまだ係属中の譲渡された特許出願のクレームの範囲を譲受人が拡大して特許を取得する場合、譲渡人によって特許が無効にされる可能性が生じます。よって譲受人は、特許発行時に、改めて譲渡内容について確認を取ることが好ましい場合があるかもしれません。
 特許譲渡人は、特許無効理由があっても、特許を譲渡した後に特許を無効にしようとすることが、譲渡時における明示的または黙示的な表明と矛盾する場合には、譲渡人禁反言の法理により、当該特許を無効にしようとすることを禁じられる可能性があることに留意すべきです。
 また、最高裁判所が譲渡人禁反言の制限が認められる例として示した上記3つの状況については、実務に影響すると予想されることから、それに関連して、CAFCの差し戻し審において、どのようなより具体的な基準が示されるかが注目されます。

[情報元]

 1.WHDA NEWSLETTER “MINERVA SURGICAL, INC. v. HOLOGIC, INC.”
                                            By: Tsuyoshi Nakamura” June 2021, July 2021
 2.McDermott News “To be Fair, the Supreme Court Grants Assignor Estoppel a Reprieve but Limits its Scope” July 1, 2021, Cecilia Choy, Ph.D., Amol Parikh
 3.Minerva Surgical, Inc. v. Hologic, Inc.(本件)最高裁判決原文
 4.Westinghouse Elec. & Mfg. Co. v. Formica Insulation Co.最高裁判決原文
 5.Scott Paper Co. v. Marcalus Mfg. Co.最高裁判決原文
 6.Lear Inc. v. Adkins最高裁判決原文

[担当]深見特許事務所 野田 久登