国・地域別IP情報

主要国におけるTM・®マークの使用方法

 商標の隣にTMや®のマークを見かけることがあります。このマークは英米法制度に根ざしたものでヨーロッパにも同様のものがあり、商標所有者の財産権侵害を防止するという目的で使用されています。下記の4つの地域について、TMと®の使用方法と使用時期について説明し、SMマークについても簡単に言及していきます。

英国
TM:法的な意味を持ちません。つまり、使用できる時期に制限はなく、登録商標でも未登録商標でもTMマークを付すことができます。
®:英国で登録された商標の所有者のみが使用できます。特に、未登録商標の登録を偽って®記号や「registered」の語を使用することは、1994年商標法第95条の刑事犯罪に当たります。
SM:特定の法域において、「サービスマーク」であることを示すために使用することができます。英国の法律ではトレードマークとサービスマークを区別していないため、SMマークの使用については規定されていません。ただし、消費者に登録済であると誤認させることを避けるため、未登録の商標にこのマークを使用することは避けた方がよいでしょう。

 登録商標にTMや®を使用する法的義務はなく、これらのマークは所有者が保護しようとする法的権利の裏付けに影響を与えない単なる警告として機能します。使用されているか否かは商標所有者の権利に実質的な影響を与えません。

米国
TM:英国と同様、使用する時期は制限されていません。商標の登録・未登録にかかわらず、商標の側に記載することができます。
SM:米国法では1946年のランハム法第3条で明確に認められています。サービスの提供のみを示すために使用されます。SMマークは、米国特許商標庁(USPTO)への出願前または出願中に使用することができます。
®:1946年ランハム法第29条に基づき、USPTOに登録された商標にのみ®マークの使用が許されます。®マークの意図的で不適切な使用は、商標審査手続要覧(TMEP)の第906.04条に規定されているように、詐欺行為(fraud)に該当します。

 また、登録商標に®マークを使用することは必須ではありませんが、使用していないと不利になる場合があります。登録商標の権利者は、侵害訴訟において被告が「登録の実際の通知」を受けたことを証明できない限り、逸失利益と金銭的損害賠償の権利を喪失するからです(1946年ランハム法第29条)。
 従って、®マークは、商標の登録について必要な「通知」を行うために効果的に使用することができるといえます。

ドイツ
 まず、ドイツでは、®マーク又は同等のドイツ語表示を省略しても、侵害訴訟において商標権者が不利になることはありません。

TM及び®:商標権者がTM又は®を使う場合、ドイツで登録された商標の側で使用する必要があります。なぜなら、登録されていない商標にTMや®を使用することは、ドイツの不正競争防止法上、誤解を招き、欺瞞的であるとみなされるからです。具体的には、商標登録についての虚偽表示はドイツ不正競争防止法(UWG)第5条に基づき、誤解を招く商行為に該当する可能性があります。
SM:ドイツでは使用されておらず、消費者の多くが容易に理解することはできませんが、使用されています。しかしながら、ドイツでは未登録商標にSMマークを使用してはなりません。

 また、ドイツの規則では、問題の商標登録がEUTM登録であるかドイツ国内登録であるかには関係なく、どちらのタイプの登録もドイツでは有効な商標登録とみなされることに留意すべきです。これらのマークの使用に関する規則では、どちらの登録も同じように扱われます。

スイス
®:登録商標にのみ使用すべきとされています。この問題は不正競争防止法で規制されており、登録されていない商標に®マークを使用することは虚偽の陳述とみなされます。したがって、®マークの不正使用は民事上及び刑事上の制裁を受けることになります。
TM:スイスでは特に法的な意味を持ちませんが、一般の人々には「Trade Mark」の頭文字として認識されています。このマークの使用は、スイスの法律で明確に規制されているわけではありません。虚偽記載を禁じる不正競争防止法に基づくと、TMマークは、未登録の標識が登録されていることを示唆するために決して使用されてはなりません。TMマークを使用するには、少なくとも商標の所有者はその商標について不正競争防止法の下で保護される権利があると考えなければなりません。
SM:スイスの法律では法的な意味を持たないため、使用されることは稀です。SMマークの使用はTMマークと同様の方法で規制されています。

 上記の通り、TMや®マークの使用に関する法的立場は国によって異なります。複数の国に跨がる取引を考えている場合、これらのマークをいつ、どのように使用するかについて注意しなければなりません。なぜなら、今回取り上げた4カ国が示すように、誤った使用により法的責任を問われる可能性があるからです。

[情報元]Mewburn Ellis/News, Insights & Features | November 26, 2021
[担当]深見特許事務所 原 智典