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特許適格性に関するCAFC判決

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、検索結果の表示を強化することに関する2つのソフトウェア特許を対象とする訴訟について、米国特許法101条の下で両特許は不適格な主題をクレームしていると判断し、地方裁判所の棄却を支持しました。

IBM v. Zillow Group, Inc., Case No. 22-1861 (Fed. Cir. Jan. 9, 2024) (nonprecedential) (Prost, Hughes, JJ.) (Stoll, J., dissenting).

 

1.事件の経緯

 International Business Machines Corp.(以下、「IBM社」)は、5つの特許を侵害したとしてZillow Group, Inc.(以下、「Zillow社」)をワシントン州西部地区連邦地方裁判所(以下、「地裁」)に訴えました。5つの特許のうちの2つについての訴えは棄却されました。Zillow社は、残りの3つの特許すべてが米国特許法101条の下で不適格であると主張して、訴えを棄却するよう連邦民事訴訟規則12(b)(6)の申し立てを行いました。地裁は、Zillow社の申し立てを容認し、主張されたクレームは特許適格性を有しないと判断しました。IBM社は、3つの特許のうち、米国特許第6,778,193号(以下、「193特許」)および米国特許第6,785,676号(以下、「676特許」)の2つについてCAFCに控訴しました。

 

2.事件の争点

 控訴審においてIBM社は次の2つの議論を提起しました。

  • 訴状とIBM社の発明者宣言書はクレームの特許適格性を示すために(少なくとも本件が訴答段階に残るために)十分であったが、地裁は両方の特許についての訴えを棄却することを求めたZillow社の申し立てを誤って容認した。
  • 地裁は、676特許のクレーム用語(user context vector)をめぐるクレーム解釈紛争の解決をし損ねた。

 本件の実質的な争点は、本件特許のクレームが米国特許法101条の特許適格性を満たしているかどうかという点にあります。CAFCは、提起された上記の議論を含めて、193特許および676特許のクレームの特許適格性を地裁と同様にAlice/Mayoの2段階フレームワークに基づいて評価し、地裁の判断を容認しました。以下では676特許に焦点を当てて、地裁およびCAFCの判断を概説します。

 

3676特許

 676特許は、リソース検索および選択のための顧客セルフ・サービス・システムに関し、具体的には、適応アルゴリズムを介して応答セットに注釈を付けるシステムに関します。ここでは、代表的なクレームとしてクレーム14を挙げます。クレーム14には、以下のとおり、検索結果に注釈を付けて表示するための4つのステップが示されています。

**********

  1. A method for annotating resource results obtained in a customer self service system that performs resource search and selection, said method comprising the steps of:
  2. a) receiving a resource response set of results obtained in response to a current user query;
  3. b) receiving a user context vector associated with said current user query, said user context vector comprising data associating an interaction state with said user and including context that is a function of the user;
  4. c) applying an ordering and annotation function for mapping the user context vector with the resource response set to generate an annotated response set having one or more annotations; and,
  5. d) controlling the presentation of the resource response set to the user according to said annotations, wherein the ordering and annotation function is executed interactively at the time of each user query.

**********

 (仮訳)

 14.リソース検索および選択を実行する顧客セルフサービス・システム内で得られるリソース結果に注釈を付ける方法であって、

              a)現在のユーザークエリに応答して取得された結果のリソース応答セットを受信するステップと、

              b)前記現在のユーザクエリに関連付けられたユーザコンテキストベクトルを受信するステップであって、前記ユーザコンテキストベクトルが、前記ユーザとの対話状態を関連付けると共にユーザの機能であるコンテキストを含むデータを含む、ステップと、

              c)ユーザコンテキストベクトルをリソース応答セットにマッピングするための順序付けおよび注釈機能を適用して、1つまたは複数の注釈を有する注釈付き応答セットを生成するステップと、

              d)前記注釈に従って、ユーザに設定されたリソース応答セットの提示を制御するステップであって、順序付けおよび注釈機能は、各ユーザのクエリ時に対話的に実行される、ステップと、

を含む、方法。

(破線枠囲みは筆者による)

 

 (参考)上記のクレーム14対応する日本特許第3671009号の請求項11

【請求項11】

 リソース検索および選択を実行する顧客セルフ・サービス・システム内で得られるリソース検索結果に注釈を付ける方法であって、

 ユーザの照会に応答して得られた結果のリソース応答セット(35)を受け取るステップと、

 前記ユーザの照会に関連するユーザ・コンテキスト・ベクトル(25)を受け取るステップであって、前記ユーザ・コンテキスト・ベクトルが、前記システムとの対話状態を前記ユーザと関連付けるデータを含む、ステップと、

 前記ユーザ・コンテキスト・ベクトルを前記リソース応答セットにマッピングすることにより、前記ユーザへの前記リソースの提示を制御する1つまたは複数の注釈を有する注釈付き応答セット(38)を生成するステップと、

 含み、前記生成するステップが、各ユーザ照会の時に対話式に実行されることを特徴とする、リソース検索結果に注釈を付ける方法。

 

4.地裁の判断

 地裁は、676特許のクレームが「クエリ結果を見るためにユーザに『最も有益かつ有意義な方法』を提供することを目的とし、…コンピュータ能力自体を進展することを目的としていない」と判断しました。地裁は、クレームが検索結果を改善するための4つのステップを列挙するに過ぎないことに注目しました。その4つのステップとは、(i)結果のセットを受信するステップ、(ii)ユーザに関連付けられたデータのベクトルを受信するステップ、(iii)ベクトルを結果のセットに対してマッピングして、注釈付きの結果のセットを生成するステップ、および(iv)注釈付きの結果のセットを、各ユーザクエリで生成される注釈と矛盾しない方法でユーザに提示するステップです。

 地裁は、これらのステップに基づいて、クレームのプロセスは、「コンピュータの処理速度ほどでないにしても、ペンおよび紙を用いて(人間によって)実行され得るプロセスであって、それらは無形な情報に焦点を当てられる」ことに注目しました。地裁は、また、クレームの文言が全体的に「結果指向(result[s]-oriented)」であること、すなわち、クレームは、どのようなデータが「ブラックボックス」に入力し、どのようなデータが「ブラックボックス」から出力するかを指定しているものの、「ブラックボックス」自体の内部の働きについては何も明らかにしていないことを指摘しました。その上で、地裁は、676特許のクレームが特許適格性を有しないと判断しました。

 

5CAFCの判断

 CAFCは、特許適格性を評価するためのAliceの2段階プロセスを再確認することから始めました。そのプロセスについては、これまでに掲載したいくつかの記事[1]においてもご説明しておりますので、ここではその説明を省略致します。ただし、CAFCは、本件に関連する先行判決(IBM Corp. v. Zillow Group, Inc., 50 F.4th 1371, 1377 (Fed. Cir. 2022))も引用の上で、「ユーザーエクスペリエンスを改善」するとしても単にコンピュータアプリケーションを使用するだけ(without more:その使用にどのようなタスクの遂行がなされているのかを説明していないようなケース)では、ステップ1でクレームを特許適格性有と評価するのに十分ではないことに言及している点にご留意ください。

 CAFCは、ステップ1に関して、クレームは、検索結果を見るときのユーザエクスペリエンスを改善することに向けられているものの、そうするためのいかなる特定のメカニズムも含んでいないこと、たとえば、クレーム14は、「結果のリソース応答セットを受信すること」、「ユーザコンテキストベクトルを受信すること」、「ユーザコンテキストベクトルをマッピングすること」、および「リソース応答セットの提示を制御すること」などの「結果指向」な言語を使用し、これらのステップがどのように実行されるかについてのいかなる説明も伴わないことを指摘しました。その上で、CAFCは、情報を表示および/または整理するという抽象的なアイデアに676特許が向けられているとした地裁の判断にも同意しました。

 さらに、CAFCは、ステップ2に関する地裁の判断にも同意しました。地裁は、抽象的なクレームを特許適格性有と認定させるためのいかなるインベンティブな概念をもIBM社が説得力を持って主張できなかったと判断していました。より詳細には、地裁は、676特許には「順序付けおよび注釈機能を適用すること、ユーザコンテキストベクトルをリソース応答セットにマッピングすること、または注釈付き応答セットを生成することという抽象的なアイデアの特定的で個別的な実装」は含まれていないと認定しました。

 CAFCは、IBM社が議論する発明者宣言書に関して、その宣言は、676特許の明細書またはクレームに記載の範囲を超える主張を含み、訴答段階を乗り切るには不十分であると判断しました。CAFCは、さらに、地裁がクレーム用語に関する解釈紛争の解決をし損ねたとIBM社が議論する点に関して、Zillow社はIBM社が主張するクレーム解釈を応答書面において受け入れており、対抗する解釈を提示していなかったので、そもそも地裁が解決すべきクレーム解釈の紛争は存在しなかったとして、IBM社の主張を退けました(この点については、Stoll, J.判事の反対意見有)。

 

6.コメント

 本件は、IBM社とZillow社が関与する一連の事件の最新のものです。CAFCは、関連する2022年の判決(IBM v. Zillow Group, Inc., Case No. 21-2350 (Fed. Cir. Oct. 13, 2022) (Reyna, Hughes, Stoll, JJ.) (Stoll, J., dissenting in part))で、グラフィカルディスプレイやユーザーインターフェースに関する他の特許は、抽象的なアイデアに向けられているため、不適格な特許主題であると判断しました。本件も先行する判決と同様に不適格な特許主題と判断されていることから、今後も米国においては同様の主題に向けられた特許の受難[2]が続くことは容易に想像されます。

 本件では採用されませんでしたが、IBM社は、「ユーザー・コンテキスト・ベクトル」というクレーム用語は、「ユーザーコンテキストとシステムとの以前の対話の組み合わせから得られるn次元ベクトル」として解釈されるべきであると主張していました。反対意見を述べたStoll, J.判事によれば、「IBM社は、その提案された解釈の下では、クレームがインベンティブな概念を説得力を持って記述していることを証明」していたとのことです。もし、IBM社の主張したクレーム解釈が本件において採用され、その結果、地裁の判断が覆っていたのであれば、本件は、特許適格性の悩ましい問題を解決するための一つの参考事件となり得たかもしれません。

 

[情報元]

① McDermott Will & Emery IP Update | January 18, 2024 “Struggling to Master the Alice Two-Step: Search Result Display Ineligible for Patent Protection”

https://www.ipupdate.com/2024/01/struggling-to-master-the-alice-two-step-search-result-display-ineligible-for-patent-protection/

 

② IBM v. Zillow Group, Inc., Case No. 22-1861 (Fed. Cir. Jan. 9, 2024) (nonprecedential) (Prost, Hughes, JJ.) (Stoll, J., dissenting)(判決原文)

https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/22-1861.OPINION.1-9-2024_2250479.pdf

注釈

[1] 関連記事は、

https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/8387/

https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/8857/

https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/9043/

https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/9582/

など

[2]

Matthew Bultman, U.S. Patent Eligibility Muddle Sets It Apart from Other Countries, BLOOMBERG L.(Nov. 12, 2021, 2:01 AM),

https://www.mckoolsmith.com/assets/htmldocuments/2021%2011%2012%20U.S.%20Patent%20Eligibility%20Muddle%20Sets%20It%20Apart%20From%20Other%20Countries-Bloomberg.pdf には、

“IBM, which has routinely led companies in the number of U.S. patents received annually, told the patent office that without changes, it may direct research into other areas or seek alternative protections. “To the extent IBM and others rely more on trade secret and copyright protection, new breakthrough ideas will be withheld from public view and other entities will be unable to learn from or improve upon them, undermining the fundamental bargain upon which the patent system is based,” it said.”と紹介されている。

[担当]深見特許事務所 中田 雅彦