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並行するITCでの特許有効認定に基づき、USPTO長官がPTABのIPR無効決定を破棄しIPRの申立を却下した事例

 本件は、米国特許商標庁(USPTO)長官が、並行する米国国際貿易委員会(ITC)の判断を尊重し、特許審判部(PTAB)が既に下したIPRでの「無効決定(最終書面決定)」を事後的に破棄して、手続きを強制終了させた事例です。なお、本件については、2026年9月25日にIPRの申立人がCAFCへの控訴通知をUSPTOに提出しています。

Biofrontera Inc. v. Sun Pharmaceutical Industries Inc., IPR2024-01312 (USPTO Dir. July 29, 2026) (Squires, Dir.)

 

1.事件の経緯

(1)特許概要

 SUN PHARMACEUTICAL INDUSTRIES, INC(以下、Sun Pharmaceutical社)は、皮膚がん前駆症(日光角化症など)の光力学療法や光力学診断において、患者の顔面・頭皮・四肢などの複雑な曲面に沿って均一な強度と波長の光を照射するための可変型照射装置に関する発明について、米国特許(11,697,028B2)を有しています。

 

(2)ITC提訴(2024年6月26日)

 Sun Pharmaceutical社は、BIOFRONTERA INC等(以下、Biofrontera社)に対して、本特許に関する侵害調査手続きの申し立てをITCに行いました。

 

(3)IPRの申立(2024年8月21日)

 Biofrontera社は、PTABへIPR(IPR2024-01312)の申し立てをしました。内容は、ITCでの侵害調査手続きへの対応(無効理由の主張)と同様の内容であり、同じクレームに対し、同じ先行技術、および同じ自明性(§103)の無効理由を挙げて争いました。

 

(4)USPTO長官による指針メモランダムの発行(2025年9月16日)

 USPTO長官は、「PTABにおける過去の事実認定および法律判断の考慮」に関するメモランダムを発行しました。ここで、「他フォーラム(地裁やITC)で既に審理されたものと実質的に同一の証拠・主張に基づきIPRで判断を下す場合、PTABは以前の判断と異なる結論に至る合理的かつ詳細な説明を提供する義務がある」という指針が提示されました。これが、後日のUSPTO長官の判断に関係してきます。

 

(5)ITCの行政法判事の初期決定(2025年9月30日)

 ITCの手続きにおいて、行政法判事(ALJ)は先行技術の組み合わせや実験データの検証を行い、「Biofrontera社は対象特許クレームが自明で無効であることを立証できていない(特許は有効)」とする初期決定(Initial Determination)を下しました。

 なお、Biofrontera社はITCで自らの主張の不備(後知恵の指摘等)が判明したため、IPRの反論書面の段階になってから追加の専門家宣誓書を提出し、後出しで論理の穴埋めを試みます。

 

(6)PTABの最終書面決定(2026年2月23日)

 PTABは同一の争点について審理を進め、最終書面決定を下しました。

 PTABは、①ITCの決定が当時はまだ「未確定(under review)」であったこと、②立証責任の基準の差(ITCでの明確かつ説得力ある証拠基準 vs IPRでの証拠の優越基準)、③新たな専門家証言が存在すること、などを理由に挙げ、ITCの初期決定とは反対に「特許クレームは自明であり無効」とする結論を出しました。

 

(7)特許権者によるUSPTO長官レビューの請求(2026年3月25日)

 特許権者(Sun Pharmaceutical社)は、PTABの最終書面決定に対し、USPTO長官宛てに長官レビュー(Director Review)を請求しました。

「同じ当事者・同じ証拠に基づいてITCが特許有効と判断したにもかかわらず、PTABが正当な理由なく相反する結論を出したのは不当であり、最終書面決定を破棄してIPRを終了すべきである」と主張し、申立人(Biofrontera社)もこれに反論書面を提出しました。

 

(8)ITC本委員会による「特許有効」の決定(Commission Opinion)(2026年5月6日)

 ITCの本委員会(Commission)は意見書を発表し、PTABが出した相反する無効決定の内容も検討した上で、ALJの初期決定を支持し、「特許は自明により無効とは証明されていない(有効)」とする最終決定を確定させました。

 

(9)USPTO長官による最終決定(2026年7月29日)

 USPTO長官は長官レビューを認め、(i) PTABの最終書面決定を完全に破棄(Vacate)する。(ii) Biofrontera社によるIPR申立て自体を却下し、審判手続きを強制終了(Dismiss / Terminate)する、命令を下しました。

 

<USPTO長官の判断の要点>

 破棄・却下の理由として以下を挙げています。

・説明の不十分さ: PTABは、先行するITCの決定と異なる結論に至った合理的な説明を果たせていない。

・基準や未確定の言い訳の却下: 「立証責任の差」や「ITC決定が当時未確定だったこと」だけでは、事実認定の矛盾を正当化できない。

・二重審理・コストの回避: IPR(AIA審判)の本来の目的は訴訟の迅速・低コストな「代替手段」であり、同一の紛争を複数フォーラムで二重に戦う「セカンドチャンス」を与えるものではない。

・後出し立証の不承認: 申立人がReply段階で後出しした専門家証言(backfill)に依拠して結論を変えた点も不適切である。

 

(10)控訴通知(Petitioners’ Notice of Appeal)(2026年9月25日)

 Biofrontera社は、USPTO長官によるこの職権破棄・却下命令は違法かつ不当であるとして、CAFCへ控訴しました。主に以下の点を争点として挙げています。

・米国特許法第318条(a)(35 U.S.C. § 318(a))違反: IPRの審判が開始されフル判決(Trial)まで完了したにもかかわらず、法律で義務付けられている特許性についての「最終書面決定(Final Written Decision)」を出さずに終了させたこと。

・適法手続き(デュー・プロセス)違反および法的限界の逸脱: 一度下された無効判決を事後的に破棄し、実体審理に答えることなく手続きを途中で強制終了させたUSPTO長官の職権行使の任意性と不当性。

・ITC判断への不当な従属・依存: 現在CAFCで別途争われている(Biofrontera v. ITC, No. 26-2245)ITC側の誤った特許有効判断に、USPTO長官が不当に依拠・尊重したこと。

 

2.考察

・本事件(IPR2024-01312)は、2026年9月にご紹介しています(https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/16356/)地裁訴訟での「再提訴・修正の余地なしの却下(with prejudice)」を受けてIPRを終了させた事件(IPR2025-01072等)と、以下の共通するUSPTOの強い方針が示されていると考えられます。

 「特許庁の外(地裁やITC)で既に特許の有効性・無効性の実質的な決着がついている、あるいは係争が消滅している場合、特許庁(PTAB)は行政リソースを無駄にせず、速やかに審判を終了(または破棄)すべきである」

 本件は「審判が始まる前(Institution前)」ではなく、「最終書面決定が下された後」であっても、USPTO長官レビューによって事後的に決定を破棄してまでこの「二重審査の排除」というポリシーが徹底された点が極めて特徴的であると考えられます。

・今後の注視ポイントとしては、申立人(Biofrontera社)は「審判を完了した以上、特許法第318条(a)に基づき最終書面決定を出す義務がある」等と主張し、CAFCへ控訴を提起したことのゆくえです。PTABの無効判断をUSPTO長官の裁量権によって事後的に破棄・閉鎖する運用の適法性についてCAFCがどのような判断を下すのか、今後の控訴審の動向が強く注目されます。

 

[担当]深見特許事務所  栗山 祐忠

 

[情報元]

1.本事案のUSPTOの決定

https://ptacts.uspto.gov/ptacts/public-informations/petitions/1556515/download-documents?artifactId=WTVDSkQAA8rX8_SHUz1xMpKpWBID76A-jB3NU-GP5W0QWRB-fHjRazk

 

2.本事案に関連するMcDermott Will & Schulte firmの記事

 https://www.ipupdate.com/2026/08/same-patent-same-light-director-vacates-ipr-decision-at-odds-with-itc-decision/

3.Biofrontera社の控訴通知(Petitioners’ Notice of Appeal)(2026年9月25日)

https://ptacts.uspto.gov/ptacts/public-informations/petitions/1556515/download-documents?artifactId=Tf6o4iHxHoPIXT6gyc4TaDhFbzWC-IScEE_hdL1L6Txd4wMKrzbi3Og